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70年ぶりの再審法見直しへ。重い扉を開いた「勉強会提言」の経緯。

「再審制度をめぐる議論の動向を踏まえ、再審制度に関し、法制審議会に諮問し、法整備について検討していただく。」(鈴木馨祐法相)

本年2月7日の閣議後の記者会見で、鈴木法務大臣は「再審制度」、すなわち判決が確定した刑事裁判のやり直しの制度について、具体的な見直しのプロセスを開始することを明言しました。1月末に再審法改正に関する我々自民党7名の有志勉強会の提言を受け取って頂いてから、わずか一週間あまりでの迅速な対応。70年以上にわたり一度も改正されてこなかった再審法が、どのようにして見直しに向けて大きく動き出したのか、ご紹介したいと思います。


23年2月、予算委員会分科会で再審制度の問題を指摘

再審制度は、冤罪をただし、有罪判決を受けた者を救済するための重要な制度です。しかし袴田事件に象徴されるように、近年は再審請求事件の手続が長期化している問題や、証拠開示が不十分である等の課題が指摘されてきました。

2023年2月21日。私は衆議院予算委員会の第三分科会で齋藤健・法務大臣への質問に立つ機会を頂きました。そこでは、①再審における証拠開示手続きの脆弱性と、②硬直的な検察官抗告により審理期間が長引いている問題、を中心に制度見直しの必要性を訴え、政府の考えを質しました。

「通常審におきましては、二〇〇五年に類型証拠開示、この制度を改正して導入しました。そして二〇一六年には証拠一覧表の交付、こうした制度をつくりまして、順次、証拠開示手続の充実を図ってまいりました。一方で、再審手続については、刑事訴訟法ができてから七十年間、一度も証拠開示の手続が改正をされていません。アンバランスが生じております。
  そして、実際においても、今、再審請求で争われている案件のほとんどは、通常審段階では今の充実した証拠開示手続がなかった時代に審理が行われたもの、今の水準に比べれば不十分な証拠開示の仕組みの下で行われたものでございます。例えば、解剖医の先生が、被害者は実は自然死だったんじゃないか、そういった回答をした捜査報告書が後で出てきたりとか、被告人のアリバイについて友人が重大な証言をしていた、こういったことが再審段階で出てくる、こういったことがあるわけでございます。(中略)再審手続における証拠開示の仕組み、全く変える余地がないものというお考えでしょうか。」

衆議院議員・塩崎あきひさ(2023.2.21 衆議院予算委員会第三分科会)

このように、確定した有罪判決を争う再審の手続きでは、通常審と異なり明確な証拠開示の手続きがないため、現在は証拠の採否は裁判官の裁量によって決められて来ました。しかし、実際には再審段階で初めて被告人に有利な捜査当時の証拠の存在が明らかになり、逆転無罪となることが少なくありません。特に昔の事件は、証拠開示制度が脆弱な時代に通常審が行われていることが多く、十分な手続保障を経ないまま再審を迎えている可能性があり、見直しが求められています。

もう一つ大きな問題として取り上げたのが、再審開始決定に対する検察官抗告の問題です。

「再審においては、検察官の抗告、これが問題になっております。人権侵害ではないかと言われているのが、再審開始が決定された際に、検察官が必ずと言っていいほど抗告を繰り返すこと、これによって裁判がいたずらに長期化して、袴田事件も、今、事件発生から五十六年がたとうとしております。
 抗告をしなくても、検察官としては、再審開始決定の中で抗告をした場合と実質的には変わらず、有罪を争うことができるわけでございます。こうしたこともありますので、手続保障の観点からは問題ない。
 しかも、海外、例えばドイツ、フランス、大陸法の世界、そしてイギリス、アメリカ、判例法の世界におきましても、こういう理由から、再審開始に対する検察官の上告というものは原則として認められていないわけでございます。
 したがいまして、日本においても、やはり、再審手続の長期化による人権侵害、これを避けるためには、再審開始決定に対する検察官抗告、この在り方を見直すべきではないかと思いますが、法務省の見解、いかがでしょうか。」

衆議院議員・塩崎あきひさ(2023.2.21 衆議院予算委員会第三分科会)

齋藤法務大臣からは、法務省に設置された「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」で近くこのテーマを取り上げていただくことをお約束頂きました。

「(在り方)協議会では多くの項目を取り上げる予定となっていますので、今後の進め方などについては構成員の方々の御意見を踏まえつつ決めていかなくてはならないということでありますので、御質問の点について現時点でお答えすることは困難でありますけれども、繰り返しますが、再審請求審における証拠開示についても協議が行われるという予定になっているということは強く申し上げておきたいと思います。」

齋藤健・法務大臣(2023.2.21 衆議院予算委員会第三分科会)

あえて「強く」と感情を込めてくださった点に、齋藤大臣の心意気を感じました。しかし、その後も法務省事務方の腰は重く、なかなか「在り方協議会」で再審制がテーマとして取り上げられることはありませんでした。


有志勉強会を通じたディベート形式での法曹三者の意見交換

こう着状態が続く中、24年に入り、小林元治会長をはじめ日本弁護士連合会からの要望を契機に、党内で新たに見直しに向けた機運が高まりました。同じ弁護士の先輩でもある宮崎政久代議士よりお声がけ頂き、24年6月に、自民党内に麻生太郎顧問を筆頭とする有志7名の議員勉強会がスタートしました。

有志勉強会のメンバーとスケジュール

以来、法曹三者(弁護士会、法務省、最高裁判所)が参加する形で、非公開で議員会館の会議室に集まり、7回に渡り徹底した緻密な議論を重ねて参りました。議論を非公開としたのは、感情的な対立や外部による干渉を避け「できるだけ静謐な環境」で当事者が本音の意見交換を行うことが重要との判断によります。

会議では、宮崎事務局長が進行役となり、重要な論点ごとに、まず弁護士会側の現行制度に対する問題指摘がなされ、それに対する法務省としての反論があり、さらに弁護士会側の再反論や最高裁の見解が聴取されるような形で議論が行われました。緻密なディベート形式の対話を通じて、一方的な主張や感情的な発言は抑えられ、エビデンスに基づく理性的な議論が展開。それぞれの立場の相違点が明確になるとともに、見解が分かれる点については、政治的な評価・判断にどのような客観的なデータが必要かも明確になりました。

「非公開」の性質上、議論の詳細を明らかにすることはできませんが、約半年にわたる濃密な議論の結果、高度の必要性が認められる事項として、①再審手続の迅速化に向けた最高裁による総合的な検証の実施、②裁判官の除斥・忌避に関する手続規定の整備、③証拠開示制度の改善に向けた法改正、④検察官による事実上の全件抗告の見直し、などの点について議員メンバーの見解が一致し、提言にまとめることができました。委員会質問の際の私の問題意識もしっかり盛り込むことができました。


鈴木大臣への提言提出と歴史的な決断

本年1月29日。赤絨毯が敷かれ特別な権威を感じる法務省大臣室。我々自民党有志による提言を鈴木法務大臣に手渡し、検討の経緯を説明させて頂きました。

鈴木大臣からは、「提言内容を精査させてもらった。この内容を踏まえてしっかり対応を進めていきます」とその場で明言。冒頭に書いたように、その後迅速に法制審議会への諮問をご決断頂きました。長年こう着状態が続いていた再審制度の見直しに向け、歴史的な一歩が刻まれた瞬間でした。

「この世界では、しつこいことは美徳だから。」

初当選直後に先輩議員から教えて頂いた言葉が今も忘れられません。一回生議員の一回の委員会質問では到底開くことのできなかった扉。しかし、先輩議員や多くの関係者の力を借りながら、諦めずに行動し続けた結果、ようやく光が見えてきました。

大きく隔たりのある関係者の意見を、粘り強く丁寧に聞き取り、調整を重ね、提言取りまとめを主導してくださった宮崎政久事務局長。その手腕と姿勢からは今回も多くを学ばせて頂きました。また、何度も丁寧な説明をしてくださった弁護士会、法務省、最高裁の関係者の皆さまに心から感謝申し上げます。

今後も超党派の議連のメンバーの一人として、提言の実現に向けて引き続き行動してまいります。


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