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〜コンウェイの法則を逆利用〜 理想のクラウド型ERP実現のための組織づくり
マネーフォワードビジネスカンパニーでMid Market 領域のCPO(Chief Product Officer)を担当しているヒロハラです。
昨年12月にマネーフォワードビジネスカンパニー(以下、MFBC)のカンパニーCPOとなり、あっという間に1年がたちました。
今回のnoteでは、カンパニーCPOとして行ったプロダクトマネジメント組織(CPO室)づくりについて、振り返ってみたいと思います。
「CPO室」設立の背景
マネーフォワード クラウドERP
私が担当するMFBCのMid Market領域では、中堅成長企業向けのバックオフィス業務をクラウドでトータルサポートする、「マネーフォワード クラウドERP」を提供しています。
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コンポーネント型ERP
「マネーフォワード クラウドERP」は、一部のプロダクトだけでも複数のプロダクトを組み合わせても便利に利用することが可能な、いわゆる「コンポーネント型ERP」となっています。
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「コンポーネント型ERP」は、各部門レベルの決裁でシステム選定がされる傾向が強い中堅規模以上の日本企業に最適な形態と言われていて、特に変化の激しい成長企業においては、自社の成長ステージに合わせてその都度最適なプロダクトを選択して利用できるので柔軟性と拡張性が高く、また必要な部分だけ導入できるのでコストパフォーマンスも高いという特徴を持った、日本の中堅成長企業にとって理想的なERPとなっています。
というと、とてもカッコ良いのですが、1年前の時点ではこの理想にはたどり着けておらず、以下のような状態でした。
・ ERPを構成する主要プロダクトが続々とリリースされ、「コンポーネント型ERP」としてのスタートが切れた状態
・ 一方で、主要プロダクトが出揃った結果、各プロダクトを組み合わせて使ったときのユーザー体験に課題がある状態
・ 組織は「スモールチーム、権限移譲」カルチャーが徹底され、PdMを中心にした各プロダクト開発チームがそれぞれ独立性高く活動している状態
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そこでまず、各PdMと新設されるカンパニーCPOについて、下記のように役割を整理し、各プロダクトを組み合わせて使ったときのユーザー体験(UX)についてはCPOが責任を持つべきと定義しました。
・ 各PdM:「自身が担当するプロダクトのユーザー価値最大化に責任を持つ人」
・ CPO:「複数プロダクト利用時のユーザー価値最大化に責任を持つ人」
しかし、複数プロダクト利用時のUXというテーマは、CPOがひとりで解決できるほど簡単な問題ではないため、MFBCの全PdMが兼務で所属する「CPO室」を新設し、各PdMには、複数プロダクト利用時の課題のために自身のリソースの20%程度を割いてもらうことをお願いしました。
コンウェイの法則
ちょうどこのような検討を進めている頃、「プロダクトマネジメントのすべて」の著者でもある、Tably株式会社 代表取締役の及川さんに、MFBCのプロダクトマネジメントの現在の課題や今考えている施策などをざっくばらんに壁打ちさせて頂く機会がありました。
この壁打ちの中で、当時の我々の状況を理解するにあたって非常に印象に残ったのは、「コンウェイの法則」という言葉です。
"コンウェイの法則"
「システムを設計する組織は、そのコミュニケーション構造をそっくりまねた構造の設計を生み出してしまう」
(原文: "Organizations which design systems are constrained to produce designs which are copies of the communication structures of these organizations.")
及川さんからは、この「コンウェイの法則」という言葉を使って、当時のMFBCの状況について非常にわかりやすく以下のようにコメント頂きました。
「マネーフォワードクラウドが、複数プロダクト利用時のUXという課題に直面しているのはある意味当然で、これは ”コンウェイの法則” と呼ばれるものです。つまり、スモールチームで独立性が強いチームでプロダクトを開発した結果、個々のプロダクトの独立性が高くなり横断的なUXに課題のある状況になったのです。
しかし、"コンウェイの法則" は逆利用することが可能です。
つまり、作りたいプロダクト(MFBCの場合「複数プロダクト利用時のUXを高めたい」)と同じ形の組織を意図的に作るということ。
そういう意味で、今回、全PdMが兼務するCPO室を設立するという選択は、私は正しい選択だと思います。」
この及川さんのお話により、自分たちが感覚的に進めようとしていた「CPO室」新設についてロジカルに理解することができ、自信を持って前に進むことができました。
「CPO室」のスタート
そんな経緯を経て、2021年12月、正式に「CPO室」を新設しました。
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「CPO室」のミッションは、「複数プロダクト利用時のUXを最大化する」に定め、これまでのスモールチームカルチャーの良さはそのままに、複数プロダクト利用時のUXの最大化も追いかけるという、「個別最適」と「全体最適」の二兎を追うプロダクトマネジメント組織をスタートしました。
まずは、この大きな変化がスムーズに受け入れられるよう、時間をかけてじっくりと丁寧に以下のような活動を行っていきました。
・ 全プロダクトの開発進捗とリリース情報の共有のためのCPO室定例MTG
・ 四半期に一度各PdMが担当プロダクトのデモを行い共有する全プロダクト共有会
・ 全プロダクトのロードマップの一元管理と可視化および共有
・ 横断UXに関する要望管理の開始(要望収集プロセスと管理DBの構築)
・ 横断UXの向上を目指した開発プロジェクトの開始
どれも当たり前の内容のように見えるかもしれないのですが、まずは愚直に「コンウェイの法則の逆利用」を意識して、「全体最適」のための活動をできる限り始めていきました。
これにより、これまで各スモールチームで独立的に活動していたPdMが、お互いのプロダクトやPdMについて知る機会が増え、自然発生的に交流が生まれるようになりました。結果として、ふとした会話から、横断的課題を発見したり、その解決に動いたりということが生まれ、これまでには無かった効果がでてきているのを実感しました。
一方、「個別最適」と「全体最適」の二兎を追うプロダクトマネジメント組織が形になっていく中で、早くも次のステップに進みたいという想いが生まれてきました。
MFBCには、20以上のプロダクトがあり、これらプロダクトには例えば経理財務領域やHR領域など、ユーザーの業務的に密に関連性を持つものとそうでないものに分けて考えることができます。そのうち、より密接に関わるべきプロダクト群におけるUXをさらにあげていきたい、つまり「個別最適」「全体最適」に加えて、「部分最適」も追っていきたいと思うようになってきました。
「CPO室」のセカンドステップ
そこで、この「部分最適」も叶えるために、CPO室新設から半年たったタイミングで、以下のように組織にアップデートを加えました。
・ 全PdMが兼務しているだけだった「CPO室」を、関連性の高いプロダクト群ごとにグルーピングし、5つのグループを新設
・ PdMとともに活動するデザイナーが所属する「デザイン室」も上記と同じ単位でグルーピングし、一体感を持ってプロダクトデザインできる体制に
・ PdMが主務として所属する各事業本部に、上記グループと対になる形でプロダクト戦略部を置き、カンパニーCPOまたはグループリーダーが各プロダクト戦略部も兼務する
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結果として、個々のプロダクトそれぞれのUXは高く、全体としてのUXの統一感にも優れ、加えて、より高い連携性が求められるプロダクト群についてはさらにUXに一貫性があるという、まさに「個別最適」「全体最適」「部分最適」の3つを同時に追うにふさわしい組織体制が確立しました。
一見すると複雑に見える組織ですが、当初目指した「コンウェイの法則の逆利用」というコンセプトに従えば、これこそが作りたい理想のERPに合致した組織の形だったので、とくに迷うことも無くこの形の組織体制へとたどり着くことができました。
このように組織の形をブラッシュアップし、下半期となる半年ではさらに以下のような活動を行ってきました。
・ 各グループリーダーを中心にした、法改正やトレンドへの対応方針のグループ単位でのディスカッション〜決定
・ グループ単位の整合性を取った上で、さらに全体整合性を調整するという作成プロセスを踏んだ、全プロダクト統一の3カ年ロードマップの策定
ほかにも、PdMの成長支援や育成といった点でも、CPO室という組織を使って施策を実施してきたのですが、こちらはまた別のnoteで発信できたらと思います。
「CPO室」2年目に向けて
「CPO室」新設からの1年で、「個別最適」「全体最適」「部分最適」のバランスをうまく取った、作りたい理想のERPと同じ形のプロダクトマネジメント組織を確立し、日々運営できるところまで実現できました。
次の1年では、ここまで積み上げてきた形を引き続き継続しつつも、さらに新しい取り組みにもチャレンジしながらより進化していきたいと思います。
「CPO室」の運営をリードしてくれる頼もしいメンバーも加わり、これからプロダクトマネジメント組織がどう進化していくのかとても楽しみです。
そして、CPO室新設と同時にスタートした横断的UXを高めるためのいくつかの開発の成果が、来年はいよいよ少しずつ形になってリリースされ、ユーザーのみなさまに届けられる予定です。
マネーフォワード クラウドERPが目指す理想的な「コンポーネント型ERP」の実現には、まだまだこれから長い道のりになると思いますが、「コンウェイの法則の逆利用」というコンセプトのプロダクトマネジメント組織を通して、ユーザーのみなさまにとって少しでも価値のあるユーザー体験が届けられるよう、引き続き一歩ずつ進んでいきたいと思います。