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ショート小説『広告』※1149文字

「また、出てきたよ」
 私は思わず声を上げてしまう。
「お、どうした?また問題発生か?」
 隣の席の同僚が顔だけをこちらに向け、面白がって聞いてきた。
「いや、違うんだよ。今週のタスクの為に調べ物をしていたら、これだよ」
 私は精一杯の呆れた顔を作り、携帯の画面を同僚の方へ向けた。
「あぁ、多いよな最近、その全画面広告」
 同僚は「なんだ問題じゃないのか」と少しがっかりした顔をしながら正面のパソコンへと顔を戻し、キーボードをカタカタと打ち出した。
「これが出てくると読む気が失せるんだよな。しかも×ボタンが小さい」と、米粒を掴むような指をして私は言う。
「確かに。頑張って×ボタンを押しても、その労力に見合った記事になんて出会ったことが無い」同僚がこちらを見ずに言う。
「あぁ、”押したら負け"みたいに思えてくる。しかも、戻るボタンを押したら新しい広告が出てくる場合もある。もう携帯を壊したくなるよ」
「過激派だな」と同僚は驚いた顔をし、キーボードを叩いていた手を止め、こちらを見て言った。
「あれを喜んでいる人っているのか?」
 私は恨みを込めて同僚に言う。
「いないだろう。記事を読むためのクエストみたいなものだよ。あれは」
「クエスト?RPGのか?」
「クリアした報酬に記事が読めるようになっているんだよ」
「なるほど。だから消すのが難しいんだな」
「そんな訳ないだろ」と呆れたように同僚は笑い、またキーボードをカタカタと打ち始めた。
 またお前は適当なことを、と私は同僚を睨みつけながら携帯で調べ物を続ける。

 記事を開くと、まずは全画面広告が表示される。右上にある小さな×マークを覗き込むようにして押して広告を消す。
 記事の文章が表示されると「バナー広告」と呼ばれる広告が画面下に表示される。これも消す。間違って広告先に飛ぶ。慌てて戻るボタンを押す。
 文章を読み始めると、合間に画面を覆いつくすようなバナー広告が現れる。文章を読んでいるのかバナー広告を見ているのかわからなくなる。
 少し読むと「次のページ」と書かれたボタンが見えてくる。これを押すとまた広告のオンパレードだ。
 まともに記事を読むことができない。いつからこうなってしまったのだろうか。イライラが募る。
「おい、お前部長に呼ばれてるぞ」
 イライラして頭に血が上っていたせいか部長の声が聞こえなかった。同僚に「サンキュ」と聞こえるか聞こえないかくらいの声で言い、部長の席へと向かう。
 「呼ばれたらすぐに来てくれなきゃ。私も暇じゃないんでね」という部長の嫌味を聞きながら、これもさっきの広告のせいだと、苛立ちがさらに増す。
「で、今週のタスクはもう終わったのか?」
 部長が言う。私は苛立ちながらも答える。
「はい。今週のタスクであるY社のバナー広告の作成についてですが…」

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