大西巨人「「真人間のかぶる」物ではない帽子・その他」
私は20代のとき、大西巨人からたくさんのことを学んだ。本当にたくさんのだ。しかし、30代になってそれが血肉となって考え方・生き方として実践できているか、と振り返ると甚だ心許ない。大西巨人について考えることは、自分の生き方を批判的に問うことにもつながっている。
大西巨人は1919年福岡生まれの小説家。代表作の『神聖喜劇』は、1955年から25年間書き継いで完成した、日本戦後文学の傑作である。また彼は小説以外にも多くの散文を書いた。その50年間におよぶ随筆は『大西巨人文選』としてまとめられ、4冊本としてみすず書房より出版されている。
※大西巨人の生年は媒体によってブレがあるが、今回はみすず書房記載のものに拠っている。
その中の印象深い文章に「「真人間のかぶる」物ではない帽子・その他」がある。次の引用の最初は石川淳の『黄金伝説』からの引用で、その後に続くのが大西巨人の文章である。
20代のころ、この文章に大いにハッとさせられた。どれだけリベラルな思想を語ったとして、それが何になるのか。言葉でできた芸術作品である「文学作品」にも「口だけの作品」と言われてしまうものは、確かに存在してしまうのだ。それはもちろん、作家が現実において、どれくらいの政治活動をしたのか、ということではない。その書きぶりに、どれくらいの重さが秘められているか、それはわかってしまうものなのである。