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ロズタリア大陸2作目『その22』

『荒れ果てた神殿』

途中、怨霊と化した死せる魂魄達の呼びかけに耐えきれず失神したり、思わず「ぎょえ~!!」などと声に出してしまった者がいたが、一行はひとまず無事に山頂に建立された神殿に到着したのだった。

「想像以上にヤバイことになってやがるな……」
今まで気がつかなかった自分の未熟さを悔しげにアーシュは下唇を噛む。
元は立派だったヒノキの木材で造られた神殿はすっかり朽ち果て、残骸ともいうべき状態になり果てていた。
「なんていうか……火事でもあったのでしょうか?」
強烈な硫黄臭?生ゴミのような異様な悪臭に近衛の一人が堪らず、ハンカチで鼻を覆う。
困惑気味に事態を知りながら?放置し続けているかもしれない叔父の意図が分からずシャールヴィが、落ちている木片のひとつを手に取る。
「油かなにか撒いて燃やしてないか?」
アーシュが管理者の安否を提案する。
「神殿の維持、管理の為に学術都市から派遣されていた神官がいるはずだ。
そっち行ってみよう」

【社務所】と書かれた管理者用の住居兼参拝者用の手続きを行う建物は無事だった。しかし、派遣駐屯していた神官は何者かによって惨殺されていた。
シェドが遺体に軽く手を合わせ、安らかな眠りを祈ると、一言断り、念入りに遺体の状況などを調べ始める。
「すみません。どのように殺害されたのか?
ちょっと調べさせて頂きますね」
その間、アーシュは本来、安置されていたはずの神殿奥深い【本殿】だった場所を調べると、シェドに告げて別行動を取った。
「あたしは神器が安置されていた場所をみてくる!」
シャールヴィは一瞬、彼女についていくべきか?迷った。しかし、アーシュの後を魔道師や近衛達が護衛兼ねて数名、追っていった。
『むかつくクソガキだが流石にここで一人ぼっちにさせるのはマズイよな……?』
自身の良心に問いかけて【不本意】ながら、まだ近くに殺害した犯人が居る可能性を考えて周囲を警戒してやることにした。
シェドがふと顔を上げて、シャールヴィに声をかける。
「もしかして僕の事、まだ少しは心配してくれるんですか?」
そして、一通り検死を終えた結果を誰ともなしに話し始める。
「彼は背中から一撃で刺殺されています。
死後半月といったところですね」
「俺とお前がコンシュテール公国に到着するかしないかぐらいか?」
残った近衛の一人が疑問を抱く。
「あの……さっきから違和感しかナイのですが……
なんで我々以外の参拝者の皆さん、一言もいわず、残骸となり果てた神殿に向かって手を合わせただけで帰っていくんですか???」
この異常事態をまるで何もなかったかのように振る舞い続けていた。
普通、ビックリして「なんだ、これ!?」など慌てふためくのではないか?
他の参拝者達の常軌を逸した行動をシェドが立ち上がって、冷静に指摘する。
「彼らはみたところ護符アミュレットを携帯していませんでした。
故に推測ですが、参道内で完全に憑依、肉体毎取り込まれてしまっているのでは?」
悪霊の憑依とは実際、どのような行動、状況、反応を示すのか?近衛やシャールヴィは理解したのだった。

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