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ロズタリア大陸2作目『その24』

第三章  【死者との再会】

『狂気じみた妄執愛』

「あぁ…我が愛するタチアナ……
もう何も案ずることはない」
五十代ぐらいの黒髪の男性が最愛の女性の頬を愛おしげに優しく撫でさする。
「…………」
肌の青白さを感じさせる儚げな女性はどこか虚ろげな眼差しで、ただただ黙って抱きしめられ愛を伝えられるまま、身動ぎひとつすらせずその場に居続けている。

神殿の大惨事を発見して、急ぎ戻ってきてから三日後……
アーシュ達一行は大公家の執事や政務官に遮られ続けていた。
「お前ら、あたしやシャルの顔は分かってるだろ!?」
なんで当主に取り次ぎ、会わせないのか!?
憤る彼女に、執事も主人の意図が分からないのを困惑隠さずに、感じたままを伝える。
「神殿での異常事態など全てお伝え済みです。
しかし、どういう訳か?今回、いくら申し上げても【捨て置け】の一言で……」
挙げ句の果て、ここ半月ほど前から、屋敷の一角に誰も立ち寄らせず、ずっと籠りきりな毎日だとも伝える。
「神器の厳重な管理は大公家当主の重大責務のひとつだぞ!?」
何者達かの手により無断で持ち去られている!他国から猛烈に批判!
即座に失脚してもおかしくない。
それを【放置】し続ける異様な回答にシェドが、ちらりと執事をみやりながら提案する。
「執事の貴方ですら立入禁止なんですよね?
既にご本人斬り殺されて別人がなりすましている可能性なども考えられます。
ひとまず、その籠り続けている部屋とやらに行って、当主ご本人の判断、お言葉なのか?
確認してみませんか?」
確かに主人はもっと精力的に日々の政務に取り組み、なにか緊急事態が発生すれば速やかに決断し対応していた。一理ある可能性に、執事や政務官達もしぶしぶ了承した。
「こちらでございます」
執事が先導し、歩き始めた。

屋敷内をしばらく歩くと北東側の部屋に到着した。
執事が困惑気味に改めて来客を伝える。
「シャールヴィ様と我が都市と協定を結んでいるアイリッシュ様がお見えでございます」
数呼吸ほど無言の反応が続いた。埒があかない様子に痺れを切らしたアーシュがやや乱暴に引戸を思いきり開けて、怒鳴り散らす。
「今回の件、知らねぇ!とは、ぜってぇ言わせねぇぞ!!」
異様な光景にその場に居た全員が大きく瞳を見開き、驚愕したのだった。

「母上!?」
一番に口を開いたのは、シャールヴィだった。
既に十数年前に亡くなって葬儀も済ませたはずの女性、かつて国王に嫁いでシャールヴィを産んだ母親の姿がそこにあった。
既にこの世に居ないはずの女性が当主に抱き締められ、静かに座っている。床には六芒星や五芒星など不思議な紋様が至る所に描かれいる。
部屋中にはポコポコと静かに音を立てる緑色や水色、赤色、黒色など様々な色の液体が入ったボトルが無数、置かれている。
その女性の隣には、悲願を叶えた叔父の姿があった。ただ、ひたすらに「もう失いはしない……」などと妹に向かって愛を囁き伝え続けていた。



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