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ロズタリア大陸2作目『その23』

『正気にかえる人々』

「まぁ……想像してたけど、やっぱそうだよな」
本来、安置されていたはずの場所にやってきたアーシュが既に事切れている女性神官達の遺体を見て、一足遅かった事を悔やむ。
普段はご神体として崇め奉られていた場所から、もくもくと真っ黒いモヤが延々、立ち上ぼり続けている。随伴してきた近衛達に近づかないよう手を広げアーシュが制止する。
「冥府のエネルギーが垂れ流され続けている!
あたしが断ちきるから、一歩も動かないでくれ!!」
そうして、首飾りの紅玉ルビーに軽く触れ、呪文を詠唱する。
「我が名はアイリッシュ=クルーガー。
我が信念に理解示してくれた、一切の穢れを祓い浄めるほむらの力を司る精霊長よ。
冥府からの流れを焼き尽くし、この地に平穏をもたらし給え。
浄化の炎レニング・フェール!!」
浄化の魔術を発動させた途端、アーシュを起点に青白い炎が火柱となって、神殿全体が激しく燃え盛り始める。
数十分程、炎が燃え続けると祭壇場は、すっかり黒いモヤは消え失せて、どこか清々しさすら感じさせるようになった。

同時に悪霊の憑依が解けた他の参拝客達が外で騒ぎ始める。
「なんで真っ黒なんだ!?」
「火事!?」
シェドが咄嗟に外に飛び出し、第一発見者を装いつつ、医療都市に緊急事態発生の報せを飛ばすように、何も知らない参拝客に向かって大声で呼びかける。
「大量殺人事件です!!
どなたか伝書鳩をお持ちではありませんか!?」
正気に返った他参拝達がざわめく。たまたま休暇で参拝に来ようとしていた医療都市で警備兵が名乗り出る。
「自分は城下町の警備を担当しています。
駐在していた兵士すら……ですか?」
信じがたい事態を恐る恐る訊ね返す。
シェドが心から残念そうに下をうつむきつつ、肯定する。
「ええ、手口から察するにどうやら単独犯ではありません……
社務所や本殿にいらした皆さん……」
口元に手をやるシェドの様子に合点した兵士がそろりと社務所の中をみやり、背後から斬りつけられている光景と真っ黒に焼け焦げた神殿の様子などを急ぎ、文書に認めて鳩の足に縛りつけて、大空へと羽ばたかせた。

神器はやはり何者達によって既に持ち去られていた。アーシュが諦め混じりにシェド達と合流する。
「ひとまず冥府からの干渉を絶ちきった。
これからどうする?」
シェドが下山した後、医療都市に戻り、大公家に行く事を提案する。
「常駐していた守衛達すら全滅している緊急事態です。
当主から縁切り宣言受けている!などと言っている場合ではありません」
「ま、それが妥当か……」
アーシュが仕方なさそうに軽く頭をかく。

一行は他の参拝客に混じって、ひとまず簡略的に被害者達を弔った後、来た道を引き返していった。

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