見出し画像

ロズタリア大陸2作目『その20』

『幼い賢者の心境』

「気持ちは分かるが、奴を殴るな!
後が面倒くせぇ!!」
固い握手を交わした後、アーシュはシャールヴィの気持ちを汲んで忠告したのだった。
加えて近衛の一人が事情を知らない他の参拝客や宿場町の店主などが【児童虐待】を疑うと指摘する。
「特に顔のアザは一発でアウトですよ?」
「まぁ、そうだな……」
知性と理性を備えた大人が見た目は未成年の子供に対して行うべきではない。善悪を説かれ、シャールヴィは騙されていた怒りを道中、ぐっと堪え続けるしかなかった。
しかし、その甲斐あってか?アーシュは勿論、旅人に扮した近衛や魔道師達と一層、仲が良くなっていった。
肝心のシェドだが、みんなから物理的にも若干、距離を置かれつつ、後を追う形で一人神殿に向かう道を追いかけていた。
本来ならば『置いてかれて寂しい……』
そんな心境に陥るやもしれないが、彼の場合は違っていた。
産まれてから金銭的、王太子という身分や家柄、周囲が期待する利権など目に視えない欲望達成の為だけに『側近』として同世代の人間が常に居たが、心の底から【喜怒哀楽】を共感しあえる頼れる仲間は立場上、今まで誰も居なかった。
馬上や宿場町での夕飯など、本心から笑い飲食を共に過ごせる元王太子の変化を安堵した心持ちで、どこか微笑ましい笑みで光景を黙って見守り、食事を取るだけだった。
『今回(医療都市)の件が片付いたら、ひとまず側仕えの役目は終わりかな??』
神器を確認した後は、医療都市統治者である大公自身に借金返済終了を伝え、その後自分はどのように邪教徒達の組織探索、殲滅をどうするか?密かに考えあぐねる。
『ひとまず学術に戻って、大公としての職務を務めながら殲滅していくかな?
それとも思いきって芸術行って、神器の安否確認と無事ならば確保してしまうべきか……?』
そんなシェドの今後の思惑を知ってか知らずか?アーシュは麦酒ビール 飲みつつ、時々、注意深くシェドの様子を伺っていたのだった。
『この野郎……本来なら、もっと大人の姿でシャルに近づいているはずだよな??
確か執務室の時に一度、肉体失って転生し直した!って言ってたよな……
クラヴィスの野郎、もしかして賢者の仕組みや秘密を知ってやがるのか?
だとしたら、うちら魔道師の中でも相当、高位の術者になるぞ??
まさか……ただの邪教集団を統べる教祖じゃねぇ!ってことか??』
流石に神殿到着する前に一度、詳しく自分だけでもその辺りの事情を訊いておくべきだと思ったのだった。
あと半日ほどすれば神殿入口となる宿場町でアーシュは約束をとりつけ、シェドと二人きりで真剣に話しあっていた。
時間通りにシェドの部屋を訪ねたアーシュは促され、シェドと向かいあう形でベッドに軽く腰かける。
「単刀直入に訊く。
今世のお前さん、なんで子供なんだ?
そしてクラヴィスの出自や大陸中に蔓延っているであろう邪教集団の事を知ってる限り、全て教えてくれ」
そうしてシェドは魂魄の状態で知り得ている状況などを彼女に伝え始めたのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?