部活へ
終礼のあと、それぞれの担当場所を掃除して放課となった。トイレ掃除の担当だったので、部活に行く前に教室に荷物を取りに戻った。教室では6人の生徒が椅子に座って話をしていた。女子が4人、男子が2人。その中には深野と同じ化学部員である神谷信也もいた。神谷がこちらに気づいて手を挙げたので、僕も手を挙げながら近づいていった。
「何の話してんの。」と僕は聞いた。
「恋バナ。」
机に肘をつき顎を手で支えた体勢で、神谷がニヤリとしながら答えた。
「聞きたい?」神谷が言う。
「聞いておいて損はないからな。もうすぐ四時だから、理科室に行きながら教えてくれ。」
「もうそんな時間か。じゃあそろそろ行くか。」
神谷は立ち上がって中身の少なそうなリュックを背負った。僕も自分の机の重たいリュックを背負った。
「また明日続きを話そう。おつかれ。」
と女子に向かって神谷が言って手を振った。僕は会釈をした。そのとき深野と少し目があったがすぐにそらしてしまった。そして神谷とともに別棟にある化学実験室に向かった。
「お前はいいよな。女友達多くて。やっぱり身長高い方がモテるよな。」僕が言った。
「お前はわかってないな。大事なのは身長じゃなくて、コミュ力だぞ。」
「わかってるつもりだよ。ただ両方持ってるお前が羨ましいだけだ。世の中不公平だ。」
「そういうなよ。俺にも彼女はいないわけだし、お前と似たようなもんだよ。」
「よく言うよ。そういえば、さっきは誰のことを話してたんだ?」
「西村と中野の話。あいつらできてるんだってさ。」
「ほんとかよ。俺らのクラスのマドンナが他のクラスのやつに奪われたわけだ。残念だな。」
「中野のこと好きだったのかよ。」
「そういうわけじゃないけど、1ファンとしてだよ。何はともあれ、美男美女カップルが誕生したわけだ。想像するとお似合いだし、誰も文句は言えないな。」
「そうでもないみたいだぞ。西村と同じクラスの唯野が西村を好きだったみたいで中野の悪口を言ってるらしい。」
「え、唯野ってあの優しそうな子だろ。やっぱ女子ってこわいな。」
「そうだな。そろそろ部室だからこの話は終わりにしよう。進展があったら報告するよ。」
「おう。頼んだ。」
部室である理科実験室に着くと女の先輩2人と下級生全員がいた。挨拶をして右奥の実験台に荷物を置き、部員と他愛もない会話をしていると16時になった。今日は1年6名、2年7名、3年7名の全員が揃っていた。春はみんなやる気があるので真面目に来る。やることはあまりないのだけれど、下級生と親睦を深めるよい機会にはなる。今回は実験器具の使い方や洗い方を教えた。早めに済んだので自由時間がたっぷりとできた。顧問の先生はいなかったので、別棟の裏にある自転車置き場で同級生とスマホを触りながら、最近の学校生活について話し合っていた。この時期は何事にもやる気が出ず、だらけてしまっているようだった。この後17時半過ぎに部室に戻った。何人かはすでに帰っていたが18時に全員解散となった。下駄箱へ向かう際中、校舎の窓から夕方特有の暖かい光が窓から差し込んでいた。なぜかこんな平凡な日々が懐かしく、そして幸せに感じられた。
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