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忘るべからざる夜の酒 八起喜@茅場町

予め申し上げておくと、この記事は2016年に私がfacebookに挙げた記事で、この店は残念ながら既にありません。しかし、自分が書いた記事ながら感慨深いものだったのであらためてここにも公開することにしました。

水曜の1200頃に出社し、退社したのは今朝0600頃。実に42時間の缶詰の後、直ぐには家に帰らず、府中駅近くの「縄文の湯」で朝風呂を浴び、0900頃に帰宅。45時間ぶり。

明日も仕事だが、このまま日常に戻るのはさすがのこの私でもやっていられない。美味い酒でも呑み、肴でも食べて、リフレッシュせねば。

茅場町の「八起喜」は昨年晩秋以来であろうか。金曜夜なので、予約なしでは不安であったが、1830頃の訪問で客ゼロであった。



5月末の土曜昼に、上京した母を連れてきたときは店は閉まっていた。その点、ご主人に確認すると、いろいろ事情があったようで、土曜はランチはやっていないということではないとのことだった。



日本酒は「初亀」「綿屋」、それに「最後に呑むべき酒」とご主人と私の見解の一致する「明鏡止水」をいただく。



厚揚げは、ご主人曰く「そこら辺に売っているヤツ」とのこと。ご主人は福島・飯坂温泉の出身で、子どもの頃は、ストリップ小屋に入り込み、舞台裏でストリッパーが七輪で焼く厚揚げを誘われてごちそうになったという。

そう、我々はそういう国に生まれ、少し前まではそういう時代を生きた。初老のご主人が7,8歳の頃、どういう顔をして厚揚げを頬張ったか、それがどういう熱さで、どういう味だったのかを想像した。彼に厚揚げを振る舞ったストリッパーたちは、その後の人生をどう過ごし、今どうしているだろう。過半は既に冥界であろうが、2,3人はまだ存命で、微々たる年金もしくは生活保護を受けながら、劣悪な介護環境で残された日の数を数え暮らしているかもしれない。



店の冷蔵庫には生酒が保管・熟成されており、秋には呑み頃という。その時は一緒に呑みたいとご主人に言っていただけた。もちろん、望むところだ。だが、その頃にはこの店はなくなっているかもしれないとのこと。移転も考えていると。

たとえ今後二度とこの店を訪れる機会がなく、ご主人と二度と会うことがなくても、悔いはない。我々は、確かに出会った。出会いとは、そういうものだ。



〆の内子巻きを食べ終わった頃、男女が店に入ってきた。女性の方はこの近くに住んでおり、以前から気になっていたという。7000円を支払って店を出た。端数の70円は、ご主人にサービスしてもらった。

茅場町「ベローチェ」でココアフロートをいただく。今夜には、この安いコーヒーチェーンの、座り心地の悪い椅子が似つかわしく思う。

この店はこの年すなわち2016年末に閉店。私はこの店には3回訪れて、この記事は最後に訪れたときのものなのですが、実は当日はご主人のテンションがわりと低くて、料理の水準も過去2回に比べるとやや下回った感じでした。まあ、その分濃密なお話を聞かせていただけましたが。参考までに、過去2回の訪問時に私が食べた肴の一部を載せておきましょう。

店主の袖山さんはここに店を開く前までは香港で料理人をやっていて、「雨傘運動」を機に日本に帰ってこの店を開いたと聞きました。この店を閉めた後は香港に戻ったと風の噂で耳にしております。

本当にすばらしい店でした。またこのような店に出会えることを願います。

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