トレーシングレポート(TR)の書き方のコツとGPTsを使ったTR作成支援のプロンプト
トレーシングレポート(TR)の作成は、患者さんの情報を適切に医師に伝えるための大切な仕事ですが、ちょっと手間に感じることもありますよね。そこで、自分のメモとしてまとめたTRの書き方のコツや、ChatGPTを使ったTR作成支援のプロンプトを共有します。ChatGPTはまだまだ活用しきれていませんが、TRの下書きには最適だとおもいます。
トレーシングレポートとは
トレーシングレポートとは服薬情報提供書を指す。薬局薬剤師が患者の服薬状況等に関して、緊急性・即時性は低いものの、患者の薬物治療に有用な情報を得た場合に処方医へ提供するための文書である。薬剤師から文書により医師に提供することで、薬剤情報が正しく伝わりやすく、薬による副作用や症状悪化を未然に防ぐ効果や服薬アドヒアランス向上等が期待できる。
コツ①:読み手の負荷を下げる
主観的情報と客観的情報を区別する(事実と意見は分ける)
視点が混在すると内容が分かりにくくなる。事実と意見・判断・評価を明確に分けるとすっきり読みやすくなる。
問題点や目的を1行目に要約する(パラグラフライティング)
小主題ごとにパラグラフ(段落)を意識する。パラグラフにトピックセンテンス(要約文)を入れる
具体的な選択肢を提示する
代替案などを記載し、選択肢を提示すると医師の意思決定の負荷が下がる
コツ②:フレームワークを意識する
5W1H(ときに6W2H)で情報を整理
Who:患者、家族(患者さん本人の訴え)
When:発生時期、時間、頻度(1年ほど前から)
What:症状、薬剤、サプリメント(体重増加、HbA1c上昇)
Where:場所、部位(生活環境変化なし)
Why:原因、理由、背景(ピオグリタゾンによる体液貯留)
How:手段、剤形、用法(ピオグリタゾン継続の検討)
How much:具体的な量、程度(体重が72→76kgに増えた)
Worth:期待できる効果、回避できる問題(メトホルミンに変更)
コツ③:目的別に「型」を使い分ける
提案・依頼型
医師に対応を求めるときは「提案・依頼型」を使う
薬学的知見に基づく依頼や提案が必要
①基礎となる事象を簡潔に記す
②その影響や懸念を記す
③それらを解消するための提案を記載
記載例
事象を簡潔に述べる
昼食直前の飲み忘れがつづいており、レパグリニドの残薬が約15錠(処方日数として約5日分)あることが確認できました。
影響や懸念
Yさんは認知機能が低下しつつあり、食直前の用法は飲み忘れにつながりやすいと考えられます。またレパグリニドは万一飲み間違えた場合、重症低血糖を招く恐れがあります。
提案
つきましては、レパグリニドを一旦休薬するか、または1日1-2回食後の服用が可能なDPP4阻害薬などに変更していただき、加えて一包化をすることで、アドヒアランスの改善が期待できるかと考えますがいかがでしょうか?
報告・情報共有型
医師に対応を求めないときは「報告・情報共有型」を使う
薬剤師としての意見は控え、患者の訴えや事実、懸念を簡潔に書く
①報告の事象を書く
②薬剤師がどう関わったのか明記
③今後のフォロー予定を記載
記載例
事象を簡潔に述べる
昼食直前の飲み忘れがつづいており、レパグリニドの残薬が約15錠(処方日数として約5日分)あることが確認できました。
薬剤師の関わり
Yさんは認知機能が低下しつつあり、食直前のアドヒアランスに不安があります。レパグリニドの服薬は家族にサポートしていただけるよう、娘さんにお願いしました。
今後のフォロー予定
またYさんの了承をいただき、週に1回程度、レパグリニドを含めた服薬状況を電話で確認させていただくことになりました。
残薬報告のコツ
トレーシングレポート活用術:残薬報告は「頻度・原因・対策」の3つを意識してまとめる
残薬報告の重要性
残薬発生や服薬アドヒアランス低下の報告は、緊急性が比較的低く、疑義照会よりもトレーシングレポートに向くケースが多い。
トレーシングレポート初心者にとっても、取り組みやすいテーマの1つである。
事例:飲酒がアドヒアランスに影響
患者は高血圧、脂質異常症、高尿酸血症、てんかんの治療を行っている60代前半の男性Sさん。
Sさんは、夕食時に晩酌をするため、アルコールと薬を一緒に飲んでいけないと思い、夕食後の薬を飲むのを控えていた。
その結果、酔ってしまい、そのまま飲み忘れてしまって、残薬がたまってしまうとのことだった。
アドヒアランスに影響を与える5つの要因
世界保健機関(WHO)は、アドヒアランスに影響を与える要因として、以下の5つを挙げている。
社会的・経済的要因
医療チームおよびシステムに関する要因
病気の状態に関する要因
治療に関する要因
患者に関する要因
これら5つの要因は相互に影響していることが多く、いずれか1つの要因を改善することで、他の要因の改善にもつながる場合がある。
Sさんのケースの分析
Sさんの場合、「薬に対するアルコールの影響は大きくないため、飲酒後であっても服用を続けた方がよい」といった認識を、本人と医師・薬剤師との間で共有できていなかったこと、高尿酸血症や脂質異常症など自覚症状に乏しい治療薬であり、アドヒアランスの低下につながりやすいことなどが要因として考えられた。
一方、朝食後の高血圧治療薬や就寝前のてんかん治療薬については、アドヒアランスは良好であり、これらの薬剤と一緒にその他の薬剤を服用すれば、アドヒアランス向上が期待できるものと考えられた。
服用時点の変更を提案
Sさんについては、以下の3点を踏まえてレポートを作成した。
3カ月に1回程度、残薬調整が行われていることから、3日に1度くらいは服薬できていない日があると予想されること(頻度)
アルコールとの相互作用を心配したことが、アドヒアランス低下の原因であったこと(原因)
朝食後および就寝前の薬剤のアドヒアランスは良好であり、この2時点に薬剤をまとめることでアドヒアランスの改善が予想されること(対策)
トレーシングレポート提出後の受診時から、提案通り処方が変更され、Sさんのアドヒアランスは大きな改善がみられた。
トレーシングレポート作成時の注意点
トレーシングレポートを書く際の注意点は、“目的”と“手段”を取り違えないようにすることである。
トレーシングレポートを通じて医師との間で情報共有を行い、服薬アドヒアランスを向上させることは、患者が適切な薬物治療を受けられるようにするための“手段”であり、目先の飲み忘れの改善だけが“目的”とならないよう注意を払っている。
まとめ
服薬アドヒアランスの向上は、患者が適切な薬物治療を受けるための手段の1つ。
飲み忘れの「頻度」「原因」「対策」を明確にして医師に伝えよう。
ChatGPT(GPTs)を活用したトレーシングレポートの作成支援
ChatGPTの機能の1つであるGPTsを活用しました。
GPTsとは?
ChatGPT(有料版)には、特定の用途向けにGPTを作成するサービスがあります。このサービスでは作成したGPTを「GPTs」と呼びます。GPTsにはあらかじめプロンプト(指示文)が入力されているため、高品質な回答を得ることができます。いわばプロンプトを予製しておける機能です。また、資料ファイルをアップロードして追加学習させることで、さらに精度の高い回答を実現できます。
GPTsを使用する際の注意点
個人情報の保護
入力内容には個人情報を含めないようにし、データの匿名化を徹底する必要があります。
誤情報のリスク
GPTsが生成する情報は必ずしも正確でない場合があるため、特に専門的な内容については確認が必要です。
最終判断は人間が行う
GPTsはあくまで補助ツールです。最終的な判断や意思決定は人間が行うべきです。
GPTsの作り方
プロンプト①:提案・依頼型のトレーシングレポート作成
プロンプト②:「報告・情報共有型」のトレーシングレポート作成支援
ChatGPTで思い通りのTRを作成するポイント
「不足している情報はありますか?」と質問する
必要な情報が足りているか確認し、追加すべき内容についてChatGPTから提案を受けることで、より完成度の高いTRを作成できます。対話を重ねながら調整する
一度で完璧なレポートを作成するのは難しいため、修正案や希望を随時入力してください。これにより、理想のTRに近づけることができます。具体的な指示を出す
曖昧な指示ではなく、具体的な要望(例:構成の変更、表現のトーン、情報の追加や削除など)を伝えると、より効率的に仕上げられます。
参考資料
Nikkei Drug Infomation 2020.12,船見正範,トレーシングレポート活用術:5W1Hを意識してレポートの価値を高めよう
Nikkei Drug Infomation 2020.11,船見正範,トレーシングレポート活用術「型」を明確にして伝わるレポートを書こう
Nikkei Drug Infomation 2020.02,船見正範,トレーシングレポート活用術:残薬報告は「頻度・原因・対策」の3つを意識してまとめる