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頻繁な薬価改定がもたらす影響と未来への選択肢


2025年度の薬価改定が注目を集めています。先日、中央社会保険医療協議会(中医協)において「令和7年度薬価改定の骨子」が取りまとめられ、具体的な施策が示されました。この改定は、国民の医療費負担を軽減しながら医薬品の安定供給とイノベーションの両立を目指すものです。一方、製薬業界からは、頻繁な薬価改定が新薬開発への意欲を削ぎ、ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスといった課題を深刻化させるとの懸念が示されています。国民皆保険制度を持続可能にするため、どのようなバランスが求められるのでしょうか。


1. 薬価改定の背景と概要

薬価改定は、医薬品費用の削減と医療の質向上を目的としています。市場実勢価格に基づいて薬価を見直し、国民負担の軽減と創薬イノベーションを促進する仕組みです。2025年度改定の主なポイントは以下のとおりです。

  • 対象品目の選定基準:市場実勢価格との差が一定基準を超える医薬品を対象に改定。

  • 最低薬価の引き上げ:安定供給の確保を目的とした価格見直し。

  • 新薬創出等加算:新薬開発を支援するための累積額控除を適用。

  • 後発医薬品の価格帯集約:価格帯整理で効率化を推進。

これにより、医薬品費用は約2,466億円(国費648億円)削減される見込みです。


2. 製薬業界の懸念と国際的反応

1. 頻繁な薬価改定による影響

2018年度以降、日本では2年に1度の本改定に加え、中間年改定が毎年実施されています。この「年次改定」の常態化は、以下のような影響を製薬業界に及ぼしています。

  • 企業収益への影響:薬価引き下げにより製薬企業の収益性が低下し、新薬開発意欲が削がれる。特許期間中の新薬も改定対象となり、43%が引き下げの影響を受ける見込みです。

  • 研究開発への影響:頻繁な改定により、長期的な投資計画が難しくなり、新薬開発が停滞するリスクがあります。これにより、ドラッグ・ラグ(承認遅延)やドラッグ・ロス(未発売)の懸念が高まります。

2. 創薬支援基金への懸念

政府は「創薬支援基金(仮称)」を検討しており、新薬創出等加算の対象医薬品を販売する企業に収益の一部を拠出させる方針です。しかし、業界からは以下の懸念が挙がっています。

  • 投資環境の悪化:義務的な資金拠出が企業の研究開発費を圧迫し、投資意欲を低下させる可能性。

  • 政策の不透明性:基金の運用や目的が不明確であり、業界の信頼を損ねる恐れがある。

3. 国際的な競争力低下

PhRMA(米国研究製薬工業協会)やEFPIA(欧州製薬団体連合会)は、日本市場が魅力を失いつつあると指摘。他国が医薬品イノベーションを重視する中、日本の政策が国際競争力を低下させると警告しています。


3. 課題の整理と影響

薬価改定の影響を整理すると、次のような課題が浮かび上がります。

  • 国民への影響:医療費削減により経済的負担が軽減される一方、新薬の開発遅延や供給不足により最新治療を受けられない可能性があります。

  • 製薬業界への影響:収益性低下に伴う研究開発費の削減が、イノベーション停滞や医薬品供給不足を招く恐れがあります。


4. 解決策と今後の展望

持続可能な医療制度と創薬イノベーションの両立には、次のような対策が求められます。

  • 政策の透明性向上:業界との対話を通じて信頼関係を構築し、政策決定の透明性を確保する。

  • ドラッグ・ラグ対策:海外で承認された新薬を迅速に日本市場で利用できるよう承認プロセスを見直す。

  • イノベーション支援強化:新薬創出等加算や追加承認品目への加算を見直し、製薬企業のモチベーションを維持する。

2026年度以降の薬価制度改革に向け、政府と製薬業界が協力して国民負担の軽減と医薬品イノベーションの促進を両立させる新たな枠組みの構築が期待されます。


まとめ

頻繁な薬価改定は短期的なコスト削減には寄与しますが、長期的には医療の質やイノベーションに悪影響を及ぼす可能性があります。国民皆保険制度を持続可能な形で維持するためには、政府と製薬業界が協力し、価格政策と研究支援策のバランスを慎重に調整する必要があります。

o1による解決策

以下では、製薬業界が懸念している問題(頻繁な薬価改定や特許期間中の薬価引き下げ、費用対効果評価の拡大、創薬支援基金の強制拠出など)に対し、どのようなアプローチで解決策を模索すればよいか、いくつかの視点から整理してみます。大切なのは、「国民負担の軽減」「安定供給の確保」「創薬イノベーションの推進」という3つの要請をバランスよく満たしつつ、業界・政府・患者など多様なステークホルダーが納得感を得られる仕組みを構築することです。


1. 透明性の確保とステークホルダーとの対話強化

問題点

  • 「政府の方針転換が突然であり、製薬業界との十分な協議がなされていない」「意見が十分反映されない」といった不満が製薬業界からあがっている。

  • 薬価改定は国民生活に大きく影響するにもかかわらず、どのような議論や根拠で最終決定がなされたかが不透明という声がある。

解決アプローチ

  1. オープンな議論の場を定期的に開催

    • 厚生労働省や中央社会保険医療協議会(中医協)の審議過程をより詳細に公開し、製薬企業や患者団体、医療関係者を含めた意見交換の機会を拡充する。

    • 税制や社会保障改革と同様に、政策のプロセスを見える化し、ステークホルダーが実質的に参加できる体制を整える。

  2. エビデンスに基づく改定理由の説明

    • 市場実勢価格や乖離率に加え、新薬創出等加算の算定・控除根拠、不採算品再算定の基準などを定量的・定性的に明示し、データに基づく説明責任を果たす。

  3. マルチステークホルダー・レビュー

    • 厚生労働省・中医協以外に、経済産業省、患者会、アカデミアなど複数の第三者機関が独立した立場から意見を述べる場を創設することで、バランスの取れた検討を行いやすくする。


2. 薬価改定の頻度・手法の見直しと予見可能性の確保

問題点

  • 2018年度以降、事実上毎年薬価改定が行われており、製薬企業の経営や研究開発投資計画を不安定にしている。

  • 特に中間年改定の頻度拡大は、新薬開発のリスクの高さと回収期間の長さを考えると、企業の新規投資意欲を大きくそぐ要因となりうる。

解決アプローチ

  1. 中間年改定の適用基準を厳格化・明確化

    • すべての医薬品を対象にするのではなく、極端に乖離率が大きい品目に限定するなど、メリハリをつけた適用を検討する。

    • 中間年改定を“緊急的・例外的対応”として位置づけ、本改定(2年に1度)と区別化する。

  2. 新薬・イノベーション医薬品の特例枠の設定

    • 特許期間中かつ高い治療価値を有する医薬品など、国際的に見ても革新的な医薬品については中間年改定対象から一部免除、または改定率を下げる仕組みを検討する。

    • 「新薬創出等加算」の制度趣旨(革新的医薬品を育成するための加算)を再度見直し、累積額控除のタイミング・頻度を慎重に設定する。

  3. 薬価算定方式の更なる改善(リスクシェア・モデルなど)

    • 実勢価格を機械的に反映するだけではなく、医薬品の臨床上の価値や社会的意義を評価したうえで、リスクシェアやバリューベースプライシング(Value-Based Pricing)を段階的に導入する。

    • 革新的な医薬品には一定の高薬価を認める一方、患者の実際の治療結果に基づき、製薬企業が公的保険へ差額を返還する仕組み(アウトカムベース型の価格調整)などを検討する。

  4. 複数年スパンでの改定見通しの提示

    • 「2025年度は改定率が○%、2026年度は○%を上限とし、2027年度は改めて再検討」といった複数年度のロードマップを提示することで、製薬企業が長期視点で研究開発・投資計画を立案しやすくする。


3. 費用対効果評価の拡大に伴う薬価引き下げリスクへの対処

問題点

  • 費用対効果評価の拡大により、高額な革新的医薬品ほど薬価が大幅に引き下げられるリスクがある。

  • 結果として、ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスが深刻化する懸念がある。

解決アプローチ

  1. 対象品目の選定と評価プロセスの透明化

    • 費用対効果評価を拡大する場合は、「医療経済学的に影響が特に大きい品目」に限定するなど、対象範囲の優先順位づけを行う。

    • 評価に用いるQALY(クオリティ・オブ・ライフ年)などの指標や閾値(いくらまでなら妥当とするか)について、国内外の知見を踏まえて透明性を持って設定する。

  2. イノベーションを評価する加点要素の設定

    • 革新的なメカニズムやアンメット・メディカル・ニーズへの貢献度、将来的な社会経済的便益(入院削減、労働生産性向上など)を定量的に反映し、高額薬であっても価値が高いと判断された場合は一定の薬価を維持できるようにする。

  3. 段階的・柔軟な価格調整(パイロット導入)

    • 費用対効果評価による急激な価格引き下げは企業への打撃が大きいため、数年にわたって段階的に価格を調整する仕組みや、実臨床データ(Real World Data)に基づいた事後的な調整を試行的に導入する。


4. 創薬支援基金の在り方と自主的なエコシステム構築

問題点

  • 「創薬支援基金」への強制拠出が、企業の投資意欲を削ぎ、むしろ産業の活力を失わせるリスクがある。

  • 政府はスタートアップ支援などを狙いとするが、強制的な拠出ではなく、民間主導の投資促進策を求める声がある。

解決アプローチ

  1. 企業拠出ではなく、官民ファンドや税制優遇を活用

    • 創薬支援を目的とした官民ファンドを設立し、投資リターンを見込めるプロジェクトに出資する形にする。拠出金の強制ではなく、メリット(投資の成果)を共有する仕組みにする。

    • 研究開発を行う企業やスタートアップに対し、税制優遇措置や投資リスクを下げる政策を組み合わせることで、民間の創薬エコシステムを強化する。

  2. 大企業からの支援を促すインセンティブ設計

    • 自主的にスタートアップを支援する製薬企業に対しては、将来的な薬価算定や加算で一定の優遇が得られるよう連動させるなど、インセンティブ設計を工夫する。

    • 「“義務”ではなく“選択権”としての拠出」を認め、拠出した金額に応じて何らかの追加メリットが得られる仕掛けを設ける。

  3. 透明性の高い資金配分・運営

    • 仮に創薬支援基金を設立する場合は、支援先や成果、資金の使途を明確化し、定期的に第三者評価を受けることで、企業側が納得感を持てるようにする。


5. ドラッグ・ラグ・ロスを回避するための施策

問題点

  • 薬価改定や費用対効果評価の拡大により、「日本市場に参入しても十分な収益が見込めない」と判断する海外製薬企業が増えると、日本では承認されない医薬品(ドラッグ・ロス)が増えたり、承認までに時間がかかる(ドラッグ・ラグ)が長期化する懸念がある。

解決アプローチ

  1. 承認プロセスの迅速化と予見可能性向上

    • PMDA(医薬品医療機器総合機構)による審査をさらに効率化し、革新的医薬品の早期承認スキーム(条件付き早期承認、先行承認など)の活用を拡大する。

    • 薬事承認後の薬価交渉期間も短縮し、タイムリーな上市が可能となるよう手続きを整備する。

  2. ハイバリュー医薬品への特例措置

    • 国際水準から見て高い臨床価値が見込まれる医薬品については、海外との価格差を極端に広げないよう配慮した薬価設定・見直しを行う。

    • 必要に応じて、複数年にわたって薬価を一定範囲内で保証するなど、企業にとって予測可能性・安定性を高める。

  3. リスクシェアリングや適正使用推進

    • 高額な革新的医薬品については、患者数の実績や医療現場での使用状況に応じて、価格を一部調整するなど、過度な医療費増を防ぎつつ、企業の収益性も一定確保する仕組みを整備する。

    • 医薬品の適正使用を促進することで、医療費全体を抑制し、イノベーション医薬品に回せるリソースを確保する。


6. 「国民負担の軽減」と「イノベーション推進」の両立に向けた全体像

最終的には、以下のような「全体設計」が重要です。

  1. メリハリのある薬価改定

    • 後発医薬品や長期収載品の適正使用を徹底する一方、革新的な医薬品については評価・保護を手厚くすることで、限られた財源のなかでイノベーションの芽をつぶさないようにする。

  2. 多面的価値評価と柔軟な価格設定

    • 医薬品の臨床効果だけでなく、患者のQOL向上や医療費全体の削減効果、社会経済的便益などを考慮した評価軸を整備する。

    • そのうえで、リスクシェアリングや段階的な価格調整モデルを導入し、製薬企業と公的保険(国)双方のリスクを最小化する。

  3. 持続可能な社会保障財源確保策との連動

    • 医療費全体の抑制だけに頼らず、社会保障財源の拡充(経済成長や税制改革など)も並行して検討することで、薬価に過度な負担を押し付けない。

    • 高齢化や医療ニーズ多様化に対応するため、予防医療やデジタルヘルスなど、医療改革全体のパッケージとして議論を深める。

  4. 継続的な検証と制度改善

    • 2025年度改定後、毎年フォローアップを行い、想定外の副作用(ドラッグ・ロスの増加、新薬パイプラインの縮小など)が生じていないか検証する。

    • データに基づく改善を繰り返し、2026年度以降の制度改革に反映させる。


まとめ

薬価改定に関する問題解決の鍵は、「政府・製薬企業・医療提供者・患者など、すべてのステークホルダーが十分に協議し、予見可能性と透明性を高めながら、革新的医薬品の価値を正当に評価できる仕組みを構築する」ことです。具体的には、

  • 中間年改定の基準・頻度の見直し

  • 新薬・イノベーション薬への特例措置(リスクシェアやバリューベースプライシング)の導入

  • 費用対効果評価の進め方の透明化と柔軟性確保

  • 創薬支援基金への強制拠出ではなく官民協力型の投資促進策へ転換

  • ドラッグ・ラグ・ロス回避のための迅速審査と価格保証策

といった施策を組み合わせることが考えられます。医療費抑制だけに重きを置きすぎると、長期的な医療水準の低下や日本の創薬エコシステムの衰退につながります。一方で、社会保障制度の財源にも限りがあるため、メリハリのある薬価政策・財源確保策を総合的に検討し、国民の医療アクセスとイノベーション創出力を持続的に守っていくことが不可欠です。

参考資料

令和7年度薬価改定の骨子(案)について
製薬協:2025年度(令和7年度)薬価改定について
日米欧製薬 3 団体共同声明 2025 年度(令和 7 年度)薬価中間年改定及び国家戦略に関する意見


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キユシト
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