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小説・研究者の贈り物

秋のカフェイン飲料(@AkiCaffeine)といいます。「語学・言語学・言語創作 Advent Calendar 2024」の24日目、クリスマスイブの記事をお届けします。言語を研究するちょっと未来の大学院生たちが主人公の小説です。


やっぱり私はルームシェアに向いていないと思う。

修論の目処が立った昨年末、深夜の大学帰りに物件サイトで博士課程の進学先近くを検索して、東京の家賃の高さに震えた。東北の冷たい風も相まって実験室のボルテックスミキサー並みに震えた。PCRチューブとかをぐぐっと押し付けると自動でぶるぶる振動して撹拌してくれるやつだ。バイオ系のラボだったので実験で1000回くらい使った。

ともかく、私一人の収入で東京の賃貸を借りるのは無理だった。

かといって修士に進む際にも三日三晩の押し問答を繰り広げた両親からこれ以上の補助金は降りそうにないし、同棲する彼氏もパトロンもいない。残りは画像を見るだけでヤバさがわかる築50年の学生宿舎か、赤の他人と家賃を折半するルームシェアしかなかった。泣く泣く後者を選んだ。

斡旋業者から紹介された女性と連絡をとり、駅近のカフェで一度話すことになった。名前はフミ、年齢は22歳。春から文学部の修士課程に進学するそうだ。彼女が待ち合わせの時刻から1時間遅れた時点で何かに気付くべきだったのかもしれない。3月下旬だったが、東京の桜はもう満開だった。

初めて会ったフミは、さっきまで家で寝てたんだろうな、という格好をしていた。鎖骨より下まで伸びた金髪はとかせば綺麗なんだけど、そのときはぼさぼさだった。

「遅れちゃってすみません、昨日夜遅くまで家で飲んでて」
「大丈夫大丈夫〜!」

大丈夫かこいつと思った。

ただ、業者のAIがマッチング度を計算した結果選ばれた最適解がこの子だ。そういうのは信じておきたい。信じておきたかったが、3LDKのアパートに一緒に住み始めてからも一人でめっちゃ缶ビール飲むし、食事と風呂掃除の当番をちょくちょくサボる。

そういう生活態度の違いで喧嘩になって、ときどきフミは家に帰ってこなくなる。そういう夜は一人で天井を見つめて、やっぱ他人と暮らすの向いてないわ、とか思う。それでも彼女がふらっと帰ってくると仲直りしてもう一回やり直す。

私が家に帰らずに研究室で1泊したこともある。高校生のときに看護師の母からもらったナースウォッチ(懐中時計みたいなやつ、かわいいのでググって見てほしい)をフミに「おもちゃ」とか言われてさすがにキレた。だけど次の日にはごめんねって言われたので許してしまった。

端的に言おう、フミが可愛いのがよくない。たぶんあの子の前世は天使だと思う。こんな美人に私以外のどこの馬の骨とも知らぬ奴とのルームシェアも一人暮らしもさせてはいけないというか、させたくない。そういう動機で同居を続けていると言ってもいい。

他にも好きなところはいくつかある。一つは、本をいっぱい読むところ。文学部の大学院生なだけあってほんとにたくさん読む。「なんかの文豪の引用なんだろうな〜」という口調で決め台詞を言ってたりする。

「フミは何やってんの、研究」
 
と前に訊いたことがある。フミの帰りが遅くなって、私が代わりに夕食を作った日だった。目の前でおいしそうに冷やし中華を食べてくれるフミはやっぱり可愛かった。彼女は意気揚々と喋りだした。

「ケチュア語族の比較言語学。あ、ケチュア語族っていうのはインカ帝国の公用語だった言語で……」
「え、そんなの話せるの?」
「うーん、ちょっとだけ?」
「なんか喋ってよ」
「喋ってもわかんないでしょ」
「わかんないよ?」

じゃあ意味ないじゃん、とあきれながらフミは続ける。

「で、ケチュア語族の言語はもとは一つだったんだけど、だんだん分化して今もボリビアとかペルーで使われてるの。そういう歴史を研究してる」
「へーおもしろ、生物の進化みたい」 

フミ曰く、彼女は幼いころから言葉が好きで(なにそれ)、自由研究で漢字の文字コードを使った独自のゲームを考案したり、国語辞典を「あ」から虱潰しに読んでみたり、誰も読めないように自作の言語でノートを書いたりする学生生活を送った結果、中2にして言葉が「視える」ようになってしまい(どういうこと?)、さすがに怖くなってその後は図書館で本を読む程度の文学少女に落ち着いたらしい。

「学部では20世紀のスペイン語文学をやってたんだけどね。ガルシア・マルケスとか。でもやっぱり、文字になってる文学よりも、文字になってない時代の、言葉の姿をつかまえてみたいじゃない?」

「じゃない?」とか二外で挫折した理系の私に言われても困る主張だが、「言葉の姿をつかまえる」という表現はなんとなく印象に残った。彼女は言葉の魔術師なのだ。美少女で飲んだくれの。

   ***

そんなこんなで、東京で初めての冬が来た。冬といえばクリスマス、クリスマスといえばプレゼントだ。

博士課程の学生は、TA(ティーチング・アシスタント)といって教授が担当する学部生の授業を手伝うことがある。時給がそこそこいいし、履歴書の教育歴にも書ける、大学院生の貴重な収入源だ。

11月に理学部1年の実習のTAをやった。これが私の学部時代とは結構変わっててまあまあ面白く、自分でデザインした遺伝子を細胞に導入してちょっとした工作ができるというものだった。3回にわたる実習を通し、みんながそれぞれのアイデアを膨らませて、特定の声に反応して蛍光を発したり、カラフルな絹糸を吐き出したりする細胞株を作っていた。

ウシの細胞にミオスタチン遺伝子の変異を加えて高速培養して人工肉もどきを作った男子がいたのが笑えた。さすがに食べるのはグレーだけど、このキットは認可済みなので自分の作品を家に持って帰れる。

高校範囲の知識がずっと前に確立している数学や物理と違って、生物は教科書レベルの内容が今も更新されている。DNAが二重らせん構造をしていることがわかったのがたった100年前で、ここ20年ちょっとで人類は思い通りのタンパク質をデザインできるまでになった。

私がやっているのが、まさにこのタンパク質工学プロテイン・エンジニアリングだ。

え、プロテイン? と思ったかもしれない。「タンパク質って肉とか魚に入ってるものでしょ、そんなの作ってどうするの」とフミにも言われた。

多くの人が誤解しているが、タンパク質は生命機能のほとんどを担っている大事な分子だ。皮膚のコラーゲンも、血中で酸素を運ぶヘモグロビンも、体内でDNAを複製するDNAポリメラーゼも、ぜんぶタンパク質だ。

そして私の専門は、実はフミに似ている。彼女は人間の、私は生命の言葉を研究してるのだ。

タンパク質の構造は、20種類のアミノ酸が鎖状につながって、それが折り畳まれて立体を形成しているというものだ。それぞれのタンパク質におけるアミノ酸の並び方はDNAに書かれていて、これが「DNAは生命の設計図」と呼ばれるゆえんだ。

「20種類のアミノ酸が1列に並んでいるなんて、まるでアルファベットで書かれた文章みたいじゃないか!」と考えた科学者が数十年前にいた。たぶんフミみたいなタイプだったんだろう。機械翻訳や対話の分野で当時急速に発展していた生成AIの技術を活用して、タンパク質を言語とみなして扱う、その名もタンパク質言語モデルが生まれた。

学部生が実習に使っていたのはその子孫で、まるで日本語を英語に翻訳するように、「こんな機能を持つタンパク質を作りたい」と文章を入力するとアミノ酸配列に変換してくれる。

フミとの生活が始まってはや8か月、そういえば一度もプレゼントらしいものを渡したことがなかったのに気付いた私は、これを応用して手作りの「科学工作」を贈ることに決めた。

実習用のキットは研究室が備品の購入に使っている通販サイトで4500円だった。寒天培地に制御用の回路が取り付けられていて、パソコンと接続してアミノ酸配列のデータを送ると目的のタンパク質を産生する細胞が培地で増えていく仕組みだ。

私は彼女の長い髪を想像した。ウェーブのかかったセミロングの金髪を。ヘアリボンでまとめたら似合うだろうなと思う。でも、どう作ろう。色は? 形は? 素材は?

アイデアが浮かぶ。色も形も素材も、自由に変えられるようにすればいい。気温や湿度、彼女の体温や活動量を測定するセンサ分子を設計し、何種類かの糸を産生する細胞と合わせて、その日の彼女に最適な髪飾りを自動で生成しよう。

光ファイバーに似た細くしなやかな中空の繊維内に細胞を培地ごと注入して、これを格子状に並べる。

繊維の側面に微細な穴をたくさん空けて、そこから細胞の作った糸が漏れ出すようにする。シルク、ウール、カシミヤ、ぜんぶタンパク質の糸だ。紡ぎ出された繊毛は格子を架橋して数十秒で布地を形成し、一日の終わりには別の酵素によって分解される。

まずは実験から始めて、24日の夜に渡そう。そう決めてさっそく取り掛かった。

   ***

研究の合間に実験と構築を進めたが、予想外のトラブルもあって明日渡せるか微妙なまま23日になった。

今日は月曜で、ということはフミが晩ご飯を作る番だが、案の定というか、7時過ぎに帰宅しても彼女の姿はまだ部屋になかった。こんなことならもう少しラボに残ればよかったと舌打ちして、夕食の支度を始める。冷蔵庫のAIが提案してきた最適解は「旬の野菜を使ったポトフ」だったが、ブロッコリーが苦手なので2番手の「鯖の中華風あんかけ」を作ることにした。

「遅れちゃってごめんね〜」

ご飯が炊ける2分前になってフミはようやく帰ってきた。

「いいけど、ちゃんと連絡してって言ったじゃん」

後ろを向いたまま、あんかけを盛り付けながら私は言う。

「ごめんって、寒くて充電切れちゃって」

と、彼女は二人分のスープをよそいながら言う。
 
食べ始めて数分、BGM代わりにテレビから流れるニュースを遮って彼女が口を開いた。

「そういえばさ、明日友だちが夜うちに来るんだけど、男の」
「男?」
「留学生で、学部のサークルの後輩。泊めてあげていいかな」
「なにそれ」
「ごめん、嫌だった?」
「『うちに来るんだけど』ってここ私の家でもあるんだからね。もっと早く言えよ。あと知らない男と同じ屋根の下で眠るとか絶対無理だから」
「ごめん、でもあの子そういうんじゃなくて、ほんとワンちゃんみたいな子で」
「いいよじゃあ、私大学に泊まる」
「なに急に怒りだして」
「てかもういいや、やることあるし今晩も研究室行って寝るわ」

席から立ち上がった私に、フミが食らい付く。

「あんたも男くらいいるでしょ」

「あんた」という普段はぜったい使わないフミの呼び方に、あるいはもっと別の何かに、胸の中のどこかのセンサが反応してしまった。

「文系は暇でいいな、近所迷惑にならんくらいに聖夜を楽しめよ」
「はああああああァ???」

フミがリモコンを投げ付けてきて、私の尻に当たる。思わず反射で投げ返すと、それは彼女の顔面に直撃した。まずいと思ったが、もう彼女は泣きだしていた。

「……わかったよ、もう終わりにしよう。明日あたしも出てくから」

彼女の言葉が心をずきっと刺す。怖くなって、私はフミから逃げ出した。

   ***

外の冷たい風に当たって、自分の頭がいかに熱くなっていたかを認識した。

東北とは違う、もっと乾いた風だった。目に染みて涙が出そうになった。

誰もいないラボに着いて、髪飾りの制作を再開した。もう渡せる見込みがゼロになった工作だけど、今は何かに没頭して、ただ手を動かしていたかった。

暖房で頭がぼーっとする。卓上遠心機に1.5mLチューブを1本セットしてスイッチを入れた瞬間、自分の動作の違和感に気付いた。鍵を掛けずに家を出たときのような、あるいは本を一気に2ページめくったときのような……。

その正体がわかったのと、ばこん、と巨大な音がしたのは同時だった。目の前にある遠心機のドーム状の蓋が消えているのを見て、遅れて胸に鈍い痛みがやってきた。

遠心機は超高速で試料の入ったチューブを回すので、わずかであっても重量に偏りがあるとバランスを崩して、最悪の場合、チューブが蓋ごと吹き飛ぶ。これを防ぐために同じ重さのチューブを反対側にセットしなければならない。学部1年で習う知識だが、最低なことに忘れていた。

小型の遠心機だったのが不幸中の幸いで、もし向こうに置いてある据え置き型の業務用空気清浄機みたいなのを使っていたら私は死んでいただろう。蓋だけなら3Dプリンタで補充できるので、それもあとでやればいい。気を取り直して作業を再開した。

空が明るくなり始めたころ、髪飾りは完成した。見た目は半透明の細長いリボンで、髪に結ぶと自動で色と形状が決まり、布地が生成される。試しに自分の髪を結ってポニーテールにしてみると、1分ほどで素朴なデザインのリボンになった。生地は薄手の絹、色はほとんど黒に近い緑だった。

「作ったけどどうすんだこれ」というシンプルな感想が頭に沸いた。贈り物をすれば仲直りができるとでも考えていたのだろうか。なんだか笑えてきて、そのまま仮眠室に直行して数分で眠りに落ちた。

   ***

目が覚めると夕方5時になっていた。外はもう真っ暗で、雨がガラス窓に叩きつけるように降っている。

ひどくお腹が空いていたのでコンビニに向かおうと外に出て、傘が、というか私の荷物のほとんどすべてがまだあの部屋にあることに気付いた。……新居が決まったら、引っ越し業者に頼んで運んでもらえないだろうか。

フードを被りながら歩いて行くと、ちょうど目の前の大通りの青信号が点滅し始める。走って渡りきったところに水溜まりがあった。私は滑って転びかけた。

一瞬ひやっとしたが、なんとかバランスをとる。

ほっとして、文字通り胸を撫で下ろしたところで、右手の感触に嫌な想像が走る。深夜に遠心機の蓋を強打した部分だ。

痛みはもう引いていた。問題は、着ていたシャツのポケットの中身だった。

母のくれた大切なナースウォッチを、私は母がそうしていたように胸ポケットに入れていたのだ。おそるおそるそれを取り出すと、文字盤を覆うガラスにはヒビが入り、秒針は止まっていた。

堰を切ったように私は泣いた。途中からは時計のことよりも、フミとのことで泣いた。気付かなかっただけで、昨日の夜から涙はずっと涙腺の淵まで溜まっていた。

なんであんなことを言ってしまったんだろう。あんなひどい言葉を口にしておきながら、作業をしていた一晩中、プレゼントを渡す資格がまだ自分にはあると思っていたのだろうか。

彼女は悪い。でも、私も悪い。

もっと話を聴いてあげればよかった。

言葉を大切にすればよかった。遠い国の言葉でも生命の言葉でもなく、お互い自身の言葉に向き合うべきだった。

彼女のことが、好きだったのに。

「コト」

うずくまった私の目の前で誰かが止まり、声を掛けてくる。

そうだ、私は彼女の声も好きだった。

見上げると、フードを被ったフミが息を切らしながら、私に傘を差し出してくれていた。顔はまだ腫れていた。

「フミ……」
「コト、一緒に家に帰ろう」
「……うっ、うん」

咄嗟にそう答えてしまう。

「ごめんね、コト」

私は子どものようにフミに抱きついていた。彼女が抱き返してくる。フミの声が愛おしい。匂いが好き。存在が心地好い。今は私の全細胞が彼女を必死で求めていた。

「お尻も痛かったよね。コト、大丈夫?」
「私こそごめん、顔面にぶつけて。すごく嫌なこと言った」
「……手伝ってもらってたんだ、プレゼント」
「え?」

私は顔を上げる。

「あ、例の留学生くんに。コトとルームシェアしてるって言ったらさ、クリスマスプレゼントは何にするんだーって言われて、私何も用意してなかったから、そりゃまずいぞーってなって、こんなの作ったの」

そう言ってフミがコートのポケットから取り出したのは、カラフルな毛糸を編んで作ったネックレスのような装飾品だった。ところどころに小さな結び目が付いている。

「かわいい……」
「インカ帝国ではね、紐に結び目を作って文字にしていたの。昔本で読んで知ってたけど、どういうのかわからなかったから、ペルー出身の彼に手伝ってもらって……」

なんだその人脈。

「時間なかったからクリスマスイブにうちに泊まってもらって、徹夜で作って朝渡そうって思ってたの。まあ、コトが出てっちゃったから今日一日空いて作れたけど」
「……」

めっちゃいい奴じゃねえか、留学生くん。

「それでね、ほら、コト、かわいい時計持ってるでしょ。懐中時計みたいなの。首から掛けられる紐付いてたら便利かなって思って……よかったら使ってもらえないかな」
「あの時計、かわいい?」
「前も言ったじゃん、骨董品のおもちゃみたいにかわいいよ」
「……あれ、壊しちゃった」
「えっ」

私が事情を説明すると、

「あたしと喧嘩したせいで普段はしないミスしたってこと? 大好きだね、あたしのこと」
「関係ないだろっ」
「それで、コトのはどんなプレゼント?」

私は自分の髪からリボンを外し(「なんで自分で付けてるの?」という目で見られた)、両手でフミに渡す。

「ヘアリボン。フミ、長い髪いつも下ろしてるじゃん。まとめたほうが似合うはず」
「あっ……」

彼女は気まずそうな顔をして、数秒ためらったあと、フードを上げた。

「えっ」

私は絶句した。鎖骨の下まであった彼女の金髪は、耳が見えるほどのベリーショートになっていた。ヘアリボンなど役立ちそうにない。

「な、なんで」
「短いほうが似合うって、ぜったいそっちのほうがいいって」
「誰が」
「留学生くん」
「おい!」

前言撤回しよう。留学生くん許すまじ!

「でもいいじゃん、髪は伸びるし、時計は今度一緒にお店行って直そう?」
「……うん。ところでこの結び目はなんて読むんだ?」
「えーっとね……まだ内緒!」

そう言ってフミはイブの夜に駆け出していく。彼女の傘を持って、私は後を追いかける。

   ***

二人で夕食を作るのは初めてだった。チキンの丸焼きなんて私とフミじゃ食べきれないから代わりに唐揚げを作って、彼女は赤ワインを、私はコカコーラを開ける。この3LDKの部屋はやっぱり居心地がよかった。窓の外ではまだ雨が降っていたけれど、部屋の中には暖かい光が満ちていた。

「食事当番なんだけどさ」

グラスを片手に、私は言う。

「もっとフレキシブルなほうがお互いにいいんじゃないの。先に帰ったほうが夕食作って、もう片方は洗い物と風呂掃除とか」

「いいねそれ。てか、そういうのもっと言おうね、あたしたち家族みたいなもんでしょ」

家族という言葉に、なんだか心が温かくなった。フミと二人で暮らす、そういう家族の形があってもいいような気がした。

食事が終わり、フミはソファに掛けて読書を始めた。私も何か読みたくなって、3つある部屋のうちそれぞれの個室を除いたもう一つの部屋、二人の本が置いてある書斎に向かった。クリスマスイブだし、オー・ヘンリーの「賢者の贈り物」とかがいいかな……とドアを開けて、私は立ち尽くしてしまった。

「フミ、何この散らかしよう」
「げっ……さっきまでインカの文献漁ってたから……」
「私のスペースに物置くなって言ったよね?」
「はい! 怒んないで! 話し合い!」
「とりあえず本読む前にここ片付けろよな!」

やっぱり私はルームシェアに向いていない。でも、明日も明後日もその先も、ずっとフミと暮らしているんだと思う。


クソ長いのに最後までお読みいただきありがとうございます。

プチ宣伝ですが、にかさんが企画している言語同人誌(2025年春3月以降に販売開始)に、この記事で紹介されている技術について触れた「言葉と生物、言葉は生物(仮)」という記事を投稿する予定です。2月ごろまで寄稿も受け付けていらっしゃるようなので、興味のある方はぜひ。

よければ「語学・言語学・言語創作 Advent Calendar 2024」のほかの記事も読んでみてください。僕の前日、23日目はskytomoさんの「辞書アプリの構造」です。

25日目の担当はみかぶるさんです。メリークリスマス!


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