
[秋帽子文庫]蔵書より_フレデリック
こんにちは。秋帽子文庫の庫主、秋帽子です。
本日は、当文庫の所蔵する絵本、レオ=レオニ『フレデリック』(訳 谷川俊太郎)より、当文庫の設立趣旨を的確に表してくれている一節をご紹介します。
---以下、引用---
「フレデリック,どうして きみは はたらかないの?」みんなは きいた。
「こう みえたって,はたらいてるよ。」とフレデリック。
「さむくて くらい ふゆの ひのために,
ぼくは おひさまの ひかりを あつめてるんだ。」
---引用おわり---
のねずみのフレデリックは仲間たちと暮らしています。みんなは、冬越しの準備のため、昼も夜もせっせと食料集めに励んでいます。しかし、フレデリックは、一人座り込んで景色を見つめたり、半分眠っているように見えたり。やがて、長い冬が続き、食料が乏しくなり、おしゃべりの種もなくなって、寂しく暗い日々が来た時に、フレデリックが集めた「おひさまの ひかり」や「いろ」や「ことば」が、みんなを温めることになるのでした。
この絵本は、イソップ寓話の「アリとキリギリス」を、キリギリス(芸術家)の側から語った作品ということができるでしょう。世界にはアリもキリギリスも、どちらも必要だということです。
現在、我々の世界は、大きな公衆衛生上の脅威に晒されています。
もちろん、社会的なつながりや協力について語ることは大切です。しかし、ウイルスのように、圧倒的な数と適応変異能力で襲ってくる相手に対して、最善の防壁は「多様性」です。全員が同じ行動をとるのは、一つの攻略法が見つかればあっさり全滅を招く悪手です。気持ちの上で「一丸となる」ことと、画一的な行動が強制されるべきことは違います。
人間の強みは、「協調」しつつ、「同調」はしないこと。目前の危機に備えて手を動かす人がいる傍らで、その先に来る厳しい時代を生き抜けるよう、世界の明るさ・美しさ・希望について、人が言葉をつむぐ喜びについて、記録・保存しておく人も必要なはずです。
自然の猛威の前では、勝ち組も負け組もなく、人は等しく弱者であるから。
そんなわけで、秋帽子プロジェクトでは書庫を作りました。自粛要請や緊急事態宣言に伴うあれこれを横目に見ながら、せっせと言葉をため込んでいます。
自分で「はたらいてるよ」と言うのは恥ずかしいので、かわいい切り絵で描かれた、ねずみのフレデリックに託します。
「そう いう わけさ。」
2020年5月9日 秋帽子
〔蔵書データ〕紙の本、絵本
『フレデリック』
ちょっと かわった のねずみの はなし
作/レオ=レオニ
訳/谷川俊太郎
第79刷
発行/株式会社 好学社
ISBN978-4-7690-2002-8
いいなと思ったら応援しよう!
