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【金字塔】第3部第2章 塔の秘密

金字塔
秋帽子

第3部 宙空の住居(承前)

第2章 塔の秘密

1 神前試合

 ―《首席出題者》トマルダかく語りき―
〔ライオンと虎は、同じネコ科の猛獣でも、かなり性質が異なる。
 ライオンは、開けた場所で群れを作り、共同で狩りや子育てをする。「百獣の王」と呼ばれる見栄えの良い大きな体や、オスの派手なたてがみは、決して狩りに向いているとはいえない。これを息の合ったチームプレイでカバーし、大所帯を養っている。群れを離れ、単独または数頭で生活する者もいるが、縄張りを守るには大家族が必要だ。
 これに対し、虎は森林や湿地帯などで単独行動。縞々の迷彩柄で身を隠し、こっそりと背後から忍び寄るスニーキングの専門家だ。体はライオンよりも大きいくらいだが、各個に縄張りを保持するスタイルである。
 むろん、両者に優劣はない。厳しい大自然の中、どちらの種も現在まで生き残ってきた。どちらのやり方も、結果を出しているのである。
 人間は集団生活する動物なので、ライオンのようにチームプレイを志向することになる。フィクションの世界でも、一匹狼のスナイパー、ゴルゴ13ですら、健康診断のために専門家チームを招集したりするのだ。どんな天才でも、いくら力が強くても、「人は一人では生きられない」のである。
 ところが、人間にとっては、このチームプレイという奴が難題だ。人はそれぞれ異なる動機のもとに行動しており、利害が対立する場面もある。各界一流の人物ばかりを集めたドリームチームが、あっという間に崩壊したりする。
 これもフィクションの例だが、名作『指輪物語』(ロード・オブ・ザ・リング)では、エルフの谷を送り出された「旅の仲間」九人のうち、最終目的地の「滅びの山」火口へと船出できたのは、たった二人だけである。他のメンバーは、英国へ向かう「三銃士」のように、敵の猛攻を受けて徐々に脱落した…のではない。各人の利害が対立し、指輪の魔力にも誘惑された結果、仲間割れによって自壊したのだ。「旅の仲間」は、故郷へ帰ればそれぞれが一党のリーダーを担うべき、若きホープの集まりである。この面々が、世界の命運を賭けた事業に乗り出したところ、道半ばもいいところで解体してしまうのだ。ある程度経験を重ねた大人であれば、よく似た現実の事例も、頭に浮かぶのではないか。まことに、人生は厳しい試練の連続である。
「チームビルディング」だとか「ワンチーム」だとか、流行り言葉は様々ある。しかし現実には、「言うは易く行うは難し」である。人が集まるだけで、自然にチームができるわけではない。一緒に何かをやり遂げる過程で、一つのチームが「生まれる」のである。
 人は、百獣の王に生まれることはできない。仲間と出会い、共に戦い、その過程で王になってゆくのだ。〕

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30周年で六角形に!?深まる秘密が謎を呼びます。秋帽子です。A hexagon for the 30th anniversary! A deepening secret calls for a mystery. Thank you for your kindness.