見出し画像

【金字塔】第1部第2章 カルテット

金字塔
秋帽子

第1部 見つけられない女(承前)

第2章 カルテット

1 ワン・モア・タイム

 ―《首席出題者》トマルダかく語りき―
〔『三銃士』(トロワ・ムスケテールス)という小説がある。いわずと知れたアレクサンドル・デュマの名作冒険物語(いわゆる「ダルタニャン物語」三部作の第一部)だ。しかし、考えてみれば不思議なタイトルである。なぜ、三銃士なのだろうか。
 この小説の主人公はダルタニャンという若者で、推薦状と夢を抱いてパリにやってくる。そこで出会った三人の銃士(アトス、ポルトス、アラミス)と意気投合し、みなさんお馴染みの「王妃の胸飾り」に関する、英仏両国を股にかけた冒険が繰り広げられるのだが、ダルタニャンも含めた仲間は四人だ(銃士それぞれに個性的な従者が一名ずつ付くので、一行の合計は八人になるのだが、それはさておく)。
 ダルタニャンも物語の途中で念願かない、国王銃士隊への入隊を認められるから、この物語にふさわしいタイトルは、「四銃士」(クアトロ・ムスケテールス)ではないのか?いやダルタニャンは主人公とはいえ新米、現場で活躍するのは先輩格の三銃士であるから、これでよいのだという反論もあろう。しかし、ダルタニャンは一行の中で最も狡知に富み、自信満々に会議を主導してカリスマを輝かせ、無鉄砲な行動力も発揮して、あっと言う間に四人のリーダー的な立場を獲得してしまうのはご存知か。敵の重要な秘密を握るアトスは別格として、残りの二人と従者たちは、ダルタニャンの手足と言ってもよいくらいだ。
 キリスト教的な背景があるらしいスイスの国民的格言「みんなは一人のために、一人はみんなのために」(トゥ・プル・アン、アン・プル・トゥ)を持ち出して、ポルトスを煙に巻くのもダルタニャンである。その心は、「みんなはダルタニャンのために、ダルタニャンは愛人コンスタンスのために」であろう。内容的には、「四銃士」というよりも、「ダルタニャン及びその他の三名の銃士」のほうがしっくりくる気もするのだが、そんな、法律の条文みたいなタイトルでは、どんなに物語が面白くても、時代を超えて愛される世界的名著には、決してならなかったに違いない。〕

ここから先は

9,935字

¥ 100

30周年で六角形に!?深まる秘密が謎を呼びます。秋帽子です。A hexagon for the 30th anniversary! A deepening secret calls for a mystery. Thank you for your kindness.