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【金字塔】第4部第2章 夢見る者たち

金字塔
秋帽子

第4部 王の間(承前)

第2章 夢見る者たち

1 高貴な死者

 ―《首席出題者》トマルダかく語りき―
〔アメリカ合衆国のアポロ計画により、これまで一二人の宇宙飛行士が月面に降り立った。このうち、アポロ十五号の船長であったディヴィッド・スコットは、月面に羽根とハンマーを持ち込み、ガリレオ・ガリレイがピサの斜塔で行ったとされる有名な実験の現代版を披露した。
 テレビカメラの前に立ったスコット船長は、左手にはハヤブサの羽根を、右手にはハンマーを持って、視聴者に実験の趣旨を語り掛けた。空気抵抗のない場所では、軽いものと重いものとが、同じ速度で落下するというのだ。お茶の間でテレビを見ている善男善女が注目した頃を見計らい、船長が手を離すと…ご喝采!羽根とハンマーは、見事に同時に月の地面に到達した。船長は飛び跳ねて喜びを表現した。素晴らしい。このミッションが科学調査のために行われていること、望遠鏡で月面を観測したガリレイに敬意を表すること、人類を代表してこれを行うのがアメリカ人であることが、テレビ番組の映像として歴史に残った。ザッツ・アメリカン・ウェイだ(とはいえ、公平を期すためには、船長が努めてドイツ語を用いていたことにも触れなければなるまい。これはもちろん、フォン・ブラウン博士以下、地上で支援する多くのドイツ人スタッフに感謝するためである)。
 ちなみに、船長は科学者ではない。この時のクルー三名は、全員が空軍の軍人だった。ハヤブサはアメリカ空軍の公式シンボルマークだったので、彼は月着陸船を「ファルコン」と名付けた。ハヤブサの羽根を使ったのも、これと関係があるかもしれない。
 また、このミッションでは、初めて月面車が使用された。クルマ(ローヴァー)で走り回ることで、大量の貴重な岩石が採集された。四一億年前の石「ジェネシス・ロック」を見つけたのも、アポロ十五号の乗組員たちだ。ちなみに、クルーが帰還した後も、月面に置かれた機材は風化しない。自由落下したハヤブサの羽根も、今でも同じ場所に落ちているはずだ。そこで、旅の記念として、クルーは愛車の上に、四つ葉のクローバーと聖書を残して帰還した。クローバー(CLOVER)とローヴァー(ROVER)を掛けた駄洒落なのだろう。ザッツ・アメリカン・ウェイだ。〕

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30周年で六角形に!?深まる秘密が謎を呼びます。秋帽子です。A hexagon for the 30th anniversary! A deepening secret calls for a mystery. Thank you for your kindness.