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【金字塔】第3部第1章 竜の角

金字塔
秋帽子

第3部 宙空の住居
第1章 竜の角

1 ミュージカル

 ―《首席出題者》トマルダかく語りき―
〔「時は金なり」というが、物事は何でも早く済ませればいい、というものではない。たとえば、「今日はゆっくり芝居でもみようか」と劇場の客席に座ったはよいが、始まったと思ったら、無駄なくテキパキと筋書きを進めてハイお終い、では興ざめだ。もちろん、ダラダラと長すぎるのはもっといけない。要は、適切な時間に収めることが肝要である。
 落語の演目に「初天神」という噺がある。父親が幼い息子を神社の縁日に連れていくストーリーである。この噺は、果物屋、飴売り、団子屋、凧揚げといった小さなエピソードが連続し、それぞれのユニットごとに完結しているので、その場に合わせて取捨選択ができる。寄席やテレビの出演時間の関係で短くしなければいけない場合は、途中で終わらせてもよいのである。逆に、独演会などで時間があるときには、ゆっくり最後まで演じてもよい。客も「おっ、今日は凧が揚がったな」などと喜んでいる。
 タイトルに「初」天神とあるように、新年最初、一月の縁日が舞台である。したがって、季節の遊び「凧揚げ」で終わるのが、本来の筋書きだ。しかし、最後に感動のエンディングが待つわけでもないから、無理に凧を揚げなくても構わないのだ。ストーリーが完結しなくても、楽しさの本質に影響しないのが優れている。
 ちなみに、菅原道真公のご縁日は毎月二五日だから、初天神が開かれるのは、一月二五日となる。神社によっては、「鷽(うそ)替え」の神事などもあって賑やかだ。いかにも幼子が「連れてって、連れてって」とねだりそうな時期である。なお、「初天神」の噺は、江戸の落語家も得意とするが、上方で成立したもののようで、特定の神社が舞台というわけではない。元々菅原道真公は都で出世し、怨霊になってひと暴れした後、神として祀られたのも西である。菅公が最初に天神として分譲された地は良喜山という。〕

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30周年で六角形に!?深まる秘密が謎を呼びます。秋帽子です。A hexagon for the 30th anniversary! A deepening secret calls for a mystery. Thank you for your kindness.