学生インタビュー85!後藤那月さん
🕊出展作品🕊
『胎虚、或いは安息の地で』/後藤那月
時間、塩、水、土、水性樹脂
2023年秋、北アルプス標高2600mm付近に位置する溶岩大地、雲ノ平へと足を運んだ。 朝4時、小屋を出てまだ真っ暗な闇の中をヘッドライト一つで照らして歩く。ハイマツや岩には霜がおり、固く付着している。昨夜の大雨は丘の窪地に溜まり、それがピンとした水鏡となっていた。樹皮の片側にのみついた氷が夜にふく息吹の強さを想起させる。 山の影から日が登り、段々と熱を帯びる身体。手指を押し付けると木先から一夜分の時間が溶け出していく。音もないこの場所で、世界の動きだす気配を予感する。 旅先での体験から、自身の記憶の中だけにある風景を空間に描き出すことを試みる。その不在の風景を「安息の地」と称し、まだみぬその姿を追い求めている。
🕊学生インタビュー85🕊
アーツ&ルーツ専攻 後藤那月さんにインタビュー!
後藤那月
──どのようなものを研究、制作していますか?
言語未生以前の感覚を辿り、不在であり不可視の地につながる通路を、作品を介して立ち現すべく活動
を続けています。流動的に土地を渡りながら、そこに在る信仰や風景、土地の余白に浸透する記憶や気配との接触をはかり観察・記録する。
その中で掴んだ本質的かつ普遍的なものを基軸に、根源を垣間見ることのできる場をインスタレーショ
ンやパフォーマンスなどで空間に展開し表現しています。
──制作活動をするうえで大事にしていることはありますか?
直感を信じる事。同時に、いつも意識しているのは何度も疑い直すことかなと思います。違う視点で捉えること、ミクロとマクロを行き来すること。きっと追い求めている答えは一つではないので、それを実践でも取り入れています。
──卒業制作ではどのようなものを制作しますか。
広く時間を主題とし、〈今ここ〉に向き合うこと、そして近く/遠くの事象に触れる為の場所を生み出したいと思います。
自分の作品には常に舞台となる場所や物語が孕まれているのですが、それらを伝達する手法を模索して
います。私もあなたも誰も、聞いたことのない音、行ったことのない場所、嗅いだことのない匂いに、導いていく方法。
──大学入学前と比べて、自分自身が変わったと感じるところはありますか。
自分の思っていることを、少しは言葉で表現できるようになった気がします。
そしてむしろ複雑になってしまった気もします。後は悩んでもまず飛び込んでみる癖がつきました。
──大学生活の中で印象的だった出来事を教えてください。
アーツ&ルーツでケーキをつくって祝いしたこと 三年次にコロナの勢力が弱まったことで、沢山の土
地に足を運べたこと
──最後に一言お願いします!
運営お疲れさまです!
最後まで頑張りましょう
【作品・制作物】
「息の緒の通い路」
インスタレーション パフォーマンス
マルチシート、スモーク、粘土、FRP、雄物川の石 新屋浜の砂、心音、鯨の鳴き声
魂 と 浸り - あわい - の領域について
魂、存在と不在、生と死などについて、自身の内省やフィールドワークを 通して咀嚼し、「浸りの領域」として描き出すことを試みた。肉体と思考は乖離しており、私を規定するものはこの身ではない。 皮膚は、私が外のものに触れる為の膜でしかない。絶えず続く思考だけが、 確固たる存在の肯定だと考える。
私は粘土を自身の現身(うつしみ)と仮定している。 現身とは、本来 現世に生きている人やその人の身体
をさして使う言葉。我々が常に行っている呼吸は、縄文の時代、さらに我々の祖先がいた古代の海の中でも続いているもの。絶えず続く呼吸を行う限り、我々は個体差も時間軸をも逸した空間の中に浸っており、その空間もまた我々の身体の中に確実に存在している。全てのものが混じり、めぐり、その輪郭が滲んでいる領域。 夢と現実のあわいのような空間。私はこれを「浸りの領域」と呼んでいる。常に我々がめぐりの中にいるのであれば、私の指先を伝い、粘土もまためぐりの中に在る。粘土は私自身、更に言うと世界そのものを内包している。粘土に触れるそのひと押しは”祈り”であり、魂を宿す様。思考と思考の融合、又は生まれの再現。 肉体を持たずとも、思考や意志が目に見える物質として蓄積していくのであれば、粘土は、私よりも”私”として存在しえるのではないか。
「ゆりかご、みみもとでゆれて」
インスタレーション パフォーマンス
布、ビーズ、羊毛、牡蠣殻、米
佐渡での牛の出産、遠野でのカモシカと出会った体験から生まれた作品。自身の手でさばき、内側を知
る。自らの体験をもとに空間を設えた。(外の世界との繋がりを保ちながらも、空間は個人の主観から構
成されている)そこに自らの身体を介入させることで、空間は 表情を変えて物語のように進んだり、戻ったりする。刻刻と変化する時間を鑑賞者と共有し、目の前の出来事を鑑賞者の中に保存・共有することを目標とした。個人の経験をそのまま他人に共有することは不可能だが、その一端を垣間見せることはできるのではないか。自らの身体は、空間を動かす黒子でもあり、語り部にもなりうる。会 期中は実験的に空間に介在することを試みた。
半透明の布で囲われた直径 4 メートルほどの空間の内部には、白い生き物とその顔の 先に鉄砲ユリの花
が一輪咲いている。ある土地では、鉄砲ユリは空き家などの人の立ち入らなくなった場所に生える。私/
パフォーマーの呼吸音と声だけが空間に響き渡り、どこまでも満たしていく。 布を隔てて私と鑑賞者は
緩やかに干渉し合う。 祈りのカタチはそれぞれが必ず持っている。それは生活の中での癖、ルーティン
のようなものだと考える。普段と変わらない時を過ごす為に必要な些細なこと。そんな民 間信仰にも似
た個人の中にある祈りのカタチを考える。
会期中はパフォーマンス/「いのる」「さばく」を行った。
安息所をめぐるリサーチより
雲の平にて撮影
写真
飛騨山脈・黒部川源流にある、日本一標高の高い溶岩台大地。夜に歩きながら対象にライトを当て、 30 秒露光させたもの。
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