蛇口の秘密
僕の鼻は蛇口になっている。学校の水飲み場にあるような銀色のあれだ。その出口は口の上にある。しかもその蛇口から出てくるのは自分が欲しいと思ったものだ。コーラが飲みたくなったら、口を上に向けて蛇口を捻るとコーラがでてくる。お茶も、ジュースも、水もでてくる。サッカー部の僕にとってはとても便利だ。好きな時に水分補給ができる。
監督に隠れて、練習中に大好きなサイダーを飲むことも。
今年で小学校も卒業だ。でも今年の春はなんだかおかしい。鼻がむずむずするようになった。お母さんに聞いたら、僕は花粉症になったらしい。
喉が渇いていつもの通り鼻の蛇口を捻ったが、蛇口が硬く、あのサイダーが出てこない。両手にできる限りの力を込めて目一杯蛇口を捻った。
手を滑らせ、頭を打ってしまった。痛みで思わず涙が出てきた。
もう大人なのにこんなことで泣いてしまう自分が恥ずかしく、余計に涙が溢れてきた。涙が頬をつたい、唇に触れる。思春期の涙は甘く、弾けた。