月とうさぎ
ここから見える人々とても小さい。その彼らからはどんな風に見えているのだろうか。いつも通り当番制の役割を終え、体を少しだけ折りたたんだ窮屈なポーズから解放された。次に並んでいるのはカニの彼だ。
月では、それぞれポーズをとりながら人に見られてもいいように順番に役割をこなす。カニ、ワニ、髪の長い女性、老婆、新入りの親子カンガルー、そして僕だ。
殺風景な宇宙にアートをという太陽からのオーダーだった。
しかも、ポーズをしていない間は月を漕いで進めなければならない。
地球から見える表面は丸いが反対側は真四角なのだ。そこで必死に宇宙の中を漕いでいる。宇宙の空気はねっとりとしたものだ。それを掻くように進んで、地球の公転に追いつかなければいけない。月は丸い、は絶対なのだ。
しかしある時、人間が月に来ようとしていることがわかった。
このままでは秘密がバレてしまう。人が乗っているであろう乗り物がすぐそこまできていた。
僕らの上に人が乗るのだ。ジッとできるものでなければすぐにこの秘密がバレるどころか、彼らの命も危うい。
大慌てで担当を決めた。
話し合いの結果、最終的には僕と髪の長い女性が担当することになった。
経験も長く、普段から落ち着いているから、というのがみんなの意見だ。
二人で息を合わせるのは大変で、女性は苛立っていた。
早速ポーズを取ろうとすると彼女の頭にぶつかってしまったらしい。
「ちょっと、のそのそ動かないでよ!落ち着かないじゃない!」
前代未聞の事態だ。苛立つのも仕方がないだろう。
問題は人々がどこに着地するかだ。僕の背中か、耳か、足か。
一番危ないのは僕と彼女の接しているところだ一番ムズムズしてジッとしているのが難しい。僕の足先が彼女の顎に触れているのも今となってはとても気になってしまう。
「足!』
意識するあまり動いてしまうらしい。
すぐ目の前まで彼らがやってきた。
僕と彼女は息を潜め、心の準備をした。
彼らは僕たちに気付くだろうか。裏ではみんなが音を立てないように漕いでくれているはずだ。髪の長い女性もさっきまでの苛立ちは何処へやら。非常に落ち着いた表情だった。さすが古参は格が違う。
彼らがすぐそこまできた、そしてゆっくりと降り立った。
彼らは女性の鼻先に止まった。
髪の長い彼女はくしゃみをこらえることに悶絶していた。