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少女


ゆらゆらと煌めく水面にブクブクと泡が集まり、やがて「それ」は幼い少女に形を変えた。

白いスリップワンピースを着た、アッシュブラウンの髪色の、腰まである緩いウェーヴのロングヘアーの少女。
歳は…8歳くらい?
でも何故か大人びて見える。

「ひさしぶり。」

少女は、『私』に挨拶した。

「何年……いや、何十年ぶりかな?もう会えないと思ってた。」

いつの間にか水面はなくなり、少女はそのまま跳ねるように歩き始め、少しずつ鮮やかに色付き始めた世界を微笑ましく眺めながら、その先に見える『私』を覗き見た。

「ふーん、あの人かぁ。今までと全然タイプ違うのね。でもあなた、凄く楽しそうだし……まあ、色々細かい事は置いておいてあげるから、幸せになってね。」


少女が着ていた白いスリップワンピースがパフスリーブのワンピースに変わり、咲き始めて2時間後くらいの酔芙蓉の花のようなデザインに変わっていた。

「キレイね。布地もフワフワ揺れて素敵。もっと可愛いおようふく着たいから、もっともっとあの人と楽しい事してね。」



それから2年少し前くらいから、『彼女』の心が揺らぎだした。
あんなに鮮やかだった世界が、少しずつ歪んでいく━━━

「あれ、こんなシミいつの間に出来たんだろ……ねえ!このジェラピケのモコモコなおようふく、肌触りもいいし、私凄く気に入ってるから、脱ぎたくないんだけど。」

少女は顔を顰めながら、『私』に文句を言った。

「ねえ、聞いてる━━━━あれ?なんか周りの色のトーンが変わってきてる……?」

慌てて、彼女を覗き見た。

「嗚呼……気がついてきちゃったのか…。ごめんね、私、なんとなくわかってたけど、私が話しかけてもあなたには伝わらないもんね……。」


ぽつぽつとシミが増えていくおようふくに、私は何も出来なかった。

ある日、違和感に目覚めてみたら、身体中が重い。
海鳥の羽が汚染された海のヘドロで飛べなくなったように、ドス黒いコールタールをおようふくに塗りつけられていた。

「やだ!なんでこんな事に?!どうしたの?何があ━━━━━」


鮮やかだった世界はとうに鉛色に変わってきていたが、漆黒の世界に変わっていた。

朧気に光がみえた気がして、そこに向かって少女は走り出した。

「まだ…まだ間に合うよね?!ねえ、お願いだから、元に戻って!!」

光がみえた場所にたどり着いた少女が見たものは、眼球がないヒトガタの男性の様な物体が、彼女の世界を工事用の巨大なハンマーを使って、叩き壊していた。

嗚呼━━━━━

おようふくについたものは、コールタールだと思っていたが、これは彼女の流した血だったんだね……。

この世界まで壊そうとしてくるような人を愛しちゃったのね、可哀想に……。

もっと、色々みていたかったけど、ここまで壊されちゃったら、またあなたに会えるのはもう難しいかも……。


私は先に消えてなくなるけど、でも、もし叶うなら、また私を生み出して欲しい。

また、それまでお別れだね。また会えたら今度は━━━━━━━。

そして少女は世界から消えた。

ガンガンと世界を破壊する音だけが、ずっと響いていた。











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