![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/156897218/rectangle_large_type_2_e5b5f4f0278f5786873d58a97ad98ca5.png?width=1200)
少女
ゆらゆらと煌めく水面にブクブクと泡が集まり、やがて「それ」は幼い少女に形を変えた。
白いスリップワンピースを着た、アッシュブラウンの髪色の、腰まである緩いウェーヴのロングヘアーの少女。
歳は…8歳くらい?
でも何故か大人びて見える。
「ひさしぶり。」
少女は、『私』に挨拶した。
「何年……いや、何十年ぶりかな?もう会えないと思ってた。」
いつの間にか水面はなくなり、少女はそのまま跳ねるように歩き始め、少しずつ鮮やかに色付き始めた世界を微笑ましく眺めながら、その先に見える『私』を覗き見た。
「ふーん、あの人かぁ。今までと全然タイプ違うのね。でもあなた、凄く楽しそうだし……まあ、色々細かい事は置いておいてあげるから、幸せになってね。」
少女が着ていた白いスリップワンピースがパフスリーブのワンピースに変わり、咲き始めて2時間後くらいの酔芙蓉の花のようなデザインに変わっていた。
「キレイね。布地もフワフワ揺れて素敵。もっと可愛いおようふく着たいから、もっともっとあの人と楽しい事してね。」
それから2年少し前くらいから、『彼女』の心が揺らぎだした。
あんなに鮮やかだった世界が、少しずつ歪んでいく━━━
「あれ、こんなシミいつの間に出来たんだろ……ねえ!このジェラピケのモコモコなおようふく、肌触りもいいし、私凄く気に入ってるから、脱ぎたくないんだけど。」
少女は顔を顰めながら、『私』に文句を言った。
「ねえ、聞いてる━━━━あれ?なんか周りの色のトーンが変わってきてる……?」
慌てて、彼女を覗き見た。
「嗚呼……気がついてきちゃったのか…。ごめんね、私、なんとなくわかってたけど、私が話しかけてもあなたには伝わらないもんね……。」
ぽつぽつとシミが増えていくおようふくに、私は何も出来なかった。
ある日、違和感に目覚めてみたら、身体中が重い。
海鳥の羽が汚染された海のヘドロで飛べなくなったように、ドス黒いコールタールをおようふくに塗りつけられていた。
「やだ!なんでこんな事に?!どうしたの?何があ━━━━━」
鮮やかだった世界はとうに鉛色に変わってきていたが、漆黒の世界に変わっていた。
朧気に光がみえた気がして、そこに向かって少女は走り出した。
「まだ…まだ間に合うよね?!ねえ、お願いだから、元に戻って!!」
光がみえた場所にたどり着いた少女が見たものは、眼球がないヒトガタの男性の様な物体が、彼女の世界を工事用の巨大なハンマーを使って、叩き壊していた。
嗚呼━━━━━
おようふくについたものは、コールタールだと思っていたが、これは彼女の流した血だったんだね……。
この世界まで壊そうとしてくるような人を愛しちゃったのね、可哀想に……。
もっと、色々みていたかったけど、ここまで壊されちゃったら、またあなたに会えるのはもう難しいかも……。
私は先に消えてなくなるけど、でも、もし叶うなら、また私を生み出して欲しい。
また、それまでお別れだね。また会えたら今度は━━━━━━━。
そして少女は世界から消えた。
ガンガンと世界を破壊する音だけが、ずっと響いていた。