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パキスタン(ギルギット・バルティスタン)旅行記3 〜ギルギット市→グルミット(ゴジャル谷)〜
2024年4月28日。前日深夜に、無事ギルギット・バルティスタン地方の中心都市ギルギットへと到着した。今日は、今回の目的地のひとつであるゴジャル谷(上フンザ)のグルミットへと向かう予定である。
ギルギット市にて
朝、窓の外は晴れたり曇ったり雨が降ったりを繰り返していた。ギルギットの町を囲む山も、時として青空を背後に映え、時として雨と雲とでよく見えなかったりした。窓から外を見ていると、Sさんに遠くに見えるカラコルム大学を紹介された。ギルギット・バルティスタンで唯一の大学だという。
朝食は台所で摂った。台所ではSさんが自分やおじさんの家族を紹介してくれた。朝食はおじさんの奥さんが準備してくれ、飲み物としては私の希望で塩ミルク紅茶(ナマキン・チャイ=塩紅茶)をいただいた。
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塩ミルク紅茶はタジキスタン側パミールではシールチョーイ(ミルク紅茶)と呼ばれており、ギルギット・バルティスタンでも飲まれていると聞いていたので飲んでみたいと思っていた。
タジキスタン側では紅茶にミルク、塩、バターを加えたものを大きめの器に入れて出てくるのが一般的だが、ここでは普通のマグカップにミルク紅茶を入れ、それに自分で塩を入れるスタイルだった。後に聞いたところによると、昔はパキスタン側でもバターを入れていたらしい。
台所には小さなひょうたん型の黒い鉄製の竈が据えられていた。このタイプの竈は、この後訪れたゴジャル谷でもヤスィン谷でもどこでも見かけた。
市内散策
今日はゴジャル谷(上フンザ)に向かう予定である。ゴジャル方面の車が出るまでやや時間があり、またSさんも市内で少し用事があるとのことなので、Sさんの親戚のQさんとともにギルギットの町を少し散策した。
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Sさんの用事が終わり、ゴジャル方面への乗合バン乗り場に向かう途中、ギルギット空港の西端付近の三叉路にタリバンの旗っぽい旗が掲げてあった。タリバンの旗なのか、単に類似したデザイン(白地にシャダーハ)の旗なのかは不明である。
ゴジャル方面へのバン乗り場の近く(と後に判明)のお店でSIMを入手した。イスラマバードで買ったSIMは結局通じないままだったが、このSIMは無事に機能した。代金は、私はゲストだからということでSさんが払ってくれたと思う。感謝の限りである。
(↑フンザ・ゴジャル方面行きバン乗り場。町の中心部のような印象だったが地図で確認してみるとけっこう町外れ?)
ゴジャル方面へのバン乗り場は、ラーワルピンディーなど各方面へのバスも発着しているギルギットのメインターミナルのようだった。グルミットまでの運賃は800ルピーとのことだったが、ここでもSさんが払ってくれた。
乗合バンは、出発まで1時間ほどあるとのことなので、近くのカフェで軽食を取った。ATMでお金も下ろそうと思ったが、手持ちのカードではどれもお金は下ろせなかった。下ろせるATMを探さねば、と思ったが、今ある現金で十分だろうとのアドバイスをSさんからもらい、そのままゴジャル方面に向かうことにした(※ただし、ゴジャル滞在最終日に訪れたフンザで追加でお金を下ろした)。
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ゴジャル方面行き乗合バン
バス・乗合バン乗り場に戻り、乗り場周辺で写真を撮ったりしながらゴジャル方面行き乗合バンの出発を待った。
ゴジャル方面行き乗合バンの中には、ワヒー帽(赤紫系の刺繍のほどこされた円筒形の帽子)に薄く白いヴェールを被った、ゴジャルの写真でもよく見かけるワヒー・スタイルのおばあさんも乗っていた。これからいよいよワヒー語地区に行くんだな、と気分が高揚した。
Sさん、Qさんとはここでいったんお別れ。3日後、ギルギットに戻った時に再会予定である。
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ギルギット→グルミット
30分ほど待って、乗合バンはバス乗り場を出発した。車は5列で、後ろ3列は1列に4人が座り、私の席は4列目の一番左になった。かなり狭かったが、窓の外を見るのに不都合は無かった。
ギルギットからフンザへ
乗合バンはギルギット市を出発すると、橋を渡った。川岸はかなり高低差のある崖になっており、タジキスタン側パミールでは見たことのない光景だと思った。
ギルギット市を出発してからフンザに近づく途中までは、私の座っている進行方向左側が川側になり、タジキスタン側パミールと似ていたり違っていたりする光景を満喫した。
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フンザにて
乗合バンはフンザ周辺にさしかかり、カフェやお店の集まっている建物の半地下の駐車スペースに到着した。後に調べたところによると、アリアバードという場所のようである。
トイレに行きたくなっていたので、まずはトイレに向かったが、使用中だった。しかもなかなか開かない。他のトイレ待ちの人も困惑しているようだった。かなり待つと、トイレからおじいさんが出てきて、無事トイレに入ることができた。体感時間ではかなり長く感じたが、実時間はそんなに長くなかったのかもしれない。おじいさん、急かしてしまってすみません……
トイレの後は、2階のカフェ的な場所で軽食を取った。
食事を終えての発車待ちの間、同じ車に乗っていた青年と少し話をした。英語はほとんど話せないようだったが、私の拙いウルドゥー語でコミュニケーションを取ることができた。パンジャーブから来た観光客とのことで、パンジャーブのどこから来たのか等を話した。
フンザ地区では、東ブルシャスキー語(の一種であるブルシャスキー語フンザ方言)が話されている。私が勉強しているブルシャスキー語は西ブルシャスキー語(ブルシャスキー語ヤスィン方言)だが、東ブルシャスキー語にも可能であれば触れたいという思いはあり、「現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。」のブルシャスキー語フンザ方言のページもスマホで写真を撮っていた。しかし、今日の短いフンザ立ち寄り中は、東ブルシャスキー語をそれと識別することはできなかった。
(↑行きは写真を撮ってなかったが、ゴジャルからの帰りも同じ駐車スペースに停った。帰りに撮った写真によると、Jubilee Hotelと銘打っている建物の駐車スペースだった模様。)
フンザから上フンザ(ゴジャル)へ
乗合バンは休憩を終えて再び走り出し、カリマバード等のフンザの中心と思しき場所を通過した。フンザはパキスタン北部の観光の中心地であり、今回ゴジャル(上フンザ)に滞在する予定の私も、時間があればフンザのほうも見てみたいと思っていたので、車窓から外を眺めていたが、どこに何があるのかはほとんど把握できなかった。
どこが何なのかよくわからないうちに、乗合バンはフンザの町を抜けたようだった。ここから先は、比較的最近(2010年)の大規模な山崩れでできたアッターバード湖のほとりを通って上フンザ(ゴジャル)に入り、今日の目的地のグルミットに到着する予定である。
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フンザの町を抜けるとすぐにアッターバード湖かと思ったが、だいぶ距離があるようだった。アッターバード湖を作った山崩れの一部だろうか、周囲の風景は新しめの荒々しさを示しつつ、道は標高を上げていった。
トンネルを抜け、ついにアッターバード湖の湖面が車窓から見えた。
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湖面が見えた場所からさらにトンネルを抜け、再度湖面が見えるところに来ると、乗客の何人かが下車した。アッターバード湖は現在は観光地にもなっており、観光客向けと思しき建物や湖面に浮かぶ観光客向けの小さな船も見えた。
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グルミット到着
乗合バンはアッターバード湖を過ぎ、間もなくグルミットに到着した。今日の宿は、「Diwan House」という宿である。
事前に調べたところでは、私が泊まるにしては高い値段だったが(※本稿執筆中に改めて調べたところ、大幅に安い値段になっている)、グルミット出身の知人のFさんに勧められた宿であり、また私の好きなパミール・ハウス風の宿であるので、一泊はここで泊まろう、ということにしていた。
宿は幹線道路(カラコルム・ハイウェイ)からは少し離れた坂の上にあり、スーツケースを持って歩いていくのは少し大変そうである。他の乗客の人にグルミットで泊まる予定の宿について話すと、タクシーで行けということになり、グルミット到着時にタクシーを準備してもらえた。
パミール・ハウス(パキスタン版)
タクシーは夕暮れの近づくグルミットの集落の坂を登り、本日の宿のDiwan Houseに到着した。宿のご主人が迎えてくれた。宿のご主人のIさんはFさん(現在はタジキスタン在住)の親戚でもあり、Fさんのほうからも私のことを伝えてくれていた。
宿は、玄関を入ってすぐのところに小綺麗な洋室があり、そこが私の部屋であった。
ご主人のIさんは宿の奥のほうも案内してくれた。奥には、四角形を組み合わせた独特の窓が天井にある、いわゆる「パミール・ハウス」風の大部屋があり、布団がいくつも敷かれいた。パミール・ハウス風の部屋をパキスタンでも見ることができ、かなりの感動だった。
パミール・ハウス風の部屋は、タジキスタン側パミールのパミール・ハウスとよく似た雰囲気だったが、いくつか違いもあった。タジキスタン側では、部屋はほぼ正方形で柱が5つ(4つの頂点+入口のある辺の入口の頂点ではない側)にあるが、ここでは部屋は長方形で柱も6つ(4つの頂点+長辺の途中)である。また、中央部分はタジキスタン側では周囲と大きな段差のある土間状になっているが、ここでは中央部分は段差があり低くなってはいるものの、タジキスタン側と比べると小さな(但しやや複雑な)段差である。
タジキスタン側との共通点と相違点が興味深い。いつかグルミットに団体で行って、このパミール・ハウス風の大部屋で泊まってみたい、と思った(誰か仲間を集めて一緒に行きませんか?)。
なお、パミール・ハウス風の部屋の構造は、翌日見たグルミットの別の家でも、さらに後日見たヤスィン谷でも同様であった。これがパキスタン側でのパミール・ハウスの構造ということだろう。
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ご主人のIさんは、さらにひとつ奥にある台所も案内してくれた。夕食はここで出してくれるとのことである。
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30分ほどして、ご主人のIさんが夕食の準備をしてくれた。干し杏と即席麺で、ご主人のIさんは、竈の横のキッチンで即席麺をかなり丁寧に作っていた。
ご主人のIさんとの会話は、主には英語だったが、ワヒー語での会話も試みたり、ワヒー語について聞いたりもした。
杏は、前年に訪れたタジキスタン側ワハーン谷のワヒー語では「チュワン」だったが、ゴジャル方言でも同様に「チュワン」と言うとのことだった。また、干し杏は「カク(qak?)」と言うとのことだった。
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夕食後はシャワーを浴びた。今回のパキスタン滞在中、一番広くてきれいなシャワーだったと思う。
まだそんなに遅くない時間だったので、夜はいろいろネットもやっていたはずである。しかし、この時はたまたま通信状況が良かったのか、特にネット環境で不自由は感じなかった。ギルギット・バルティスタンではネットが通じないことが多々あることを前提に行動しなければならない、ということを思い知ったのは、翌日になってからである。
(続く)
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