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美容室の会話で今日この後どこ行くんですか?とか聞かないで。

日差しが徐々に暖かさを帯び、春の気配を感じる日が多くなった。少し凍った、お菓子だったらザクッとかじりたくなるような大地を踏みしめ、ふきのとうがひょっこり居てくれそうな、これからは徐々にあったかくなっていきますよ〜〜!と静かに進んでいる感じが好きだ。寒すぎる新潟の冬は何かにつけて面倒くさくなる。これからは春だ。待っていたよ。

冬の間、寒さを理由にサボっていた片付けをした。何年も開けていなかった引き出しの奥から赤いフレームのサングラスが出てきた。四角い大きなレンズにD&Gのロゴが効いている。なんか強い。もう要らない。

ちょっと前の新聞に、長年通っている美容室で話しかけられるのが苦痛でどうしたらいいか?というお悩み投稿が載っていた。

今ではこちら側の私も、昔はあちら側だったわけで、上手く切ってくれさえすれば世間話なんてどうでもええねん!!と心底思っていたので、わかる、わかるぞ、わかるすぎる、、と思いながら興味深く読んだ。

美容室に限らずだけれど、何かをしにお金を払ってサービスを提供してもらう時、静かに過ごしたいお客さまは一定数いると思う。たとえそこが馴染みの店でも。そんな方の意も汲み取れずに必要以上に話しかけてはウチの店の真価が問われる。

逆の立場となった今、常々わが身を振り返らないとな、と思った。何かいい方法はないかな。

そして私は閃いた。こんな案はどうだろう。

先程のD&Gの赤いサングラスに一役買ってもらう。これをお客様の席の傍に置く。

今日は静かに過ごしたいの、というお客さまは席についたらかけていただく。それを暗黙の了解の合図とする。

慣れないうちはお客さまも少し勇気が必要かもしれないから、菩薩のオーラを私は放つ。お客さまは、息を吸うように、朝起きたら歯を磨くようにサングラスをかければいい。失うものなど何もない、躊躇わずに行けばいい。

こんな試みをやっている店は、まだ原宿や青山界隈でも聞いた事がない。ましてや上越でも。ましてのましてや柏矢町でなんて斬新だ。

『静かに過ごしたい日にはD&Gの赤いサングラスを装着する』

引き出しから出てきたサングラス越しに拡がる世界は、若かりし日の私のように、放っておいて欲しいと願う人々のユートピアなのかもしれない。



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