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【元夫のこと①】一言で言うなら優しい人。

そして、人当たりが良く社交的で、どんな人にも「良い人だね」と言われるような人だ。仕事から帰って夕食が用意できていなくても嫌な顔一つしたことがなかったし、休みの日には、自分が息子の面倒を見ているからと快く私を送り出してくれた。日常的に私のことを尊重してくれていたと思う。

私たちはよく「似ている」と言われていた。顔も、雰囲気も。初めて手を繋いだ時には、合わせた掌が馴染む感覚にびっくりしたものだ。その瞬間「なんだか気持ちがいいね」と彼に言われてさらに驚いた。この人は、運命の人かもしれない、と思った。

その時、彼には既に付き合っていた女性がいた。そのことがわかった後も、私から別れを告げることはできなかった。彼の「二番目の女」として数年を過ごし、私の存在が明るみに出て彼が彼女と別れたのをきっかけに付き合い、妊娠し、結婚した。友人たちは「大恋愛だね」と言ってくれたが、世間的には「略奪婚」になるのだろう。

一日中彼のことを考え、少しでも会える時間があれば会い、出張先ならばゆっくり会えるからと何度も航空チケットを買って彼の元へと飛んだあの頃。眠れなくなり心療内科にも通った。これはもう人生をかけた恋だと思っていたから、結婚という形で成就させることができて、本当に幸せだった。

しかし不思議なもので、結婚前に魅力に感じていたところが、結婚後は不満に変わってしまうこともある。例えば、誰にも優しいために付き合いが良すぎるところや、人からの頼みを断れず、なんでも引き受けてしまうところ。だからこそ、二股状態の私ともなかなか別れることができなかったのだろう。結婚してから何度もあった彼の無職期間にも、家計からお金を持ち出してまで人に奢ってしまう人だった。そのお金は私が稼いだものだったのに。

家族になった私にしか見せない顔も増えた。これが一番堪えたかもしれない。仕事が忙しい時期などには明らかに不機嫌そうになり、缶ビールを煽りながらテレビに悪態をつく。それは、彼の穏やかで明るい姿しか見たことがない、会社の人や友人たちが見たら驚く光景だったろう。

発作的に仕事を辞めてしまったり、何カ月にもわたって生活費を入れてもらえないことは許せても、優しく穏やかだった彼の豹変した姿を見て、幾度となく離婚を考えた。

私が用意した夕食を食べながら話すのは、仕事の愚痴や職場の人の悪口。彼の厳しくきつい言葉を聞くたび、耳をふさぎたくなった。人を小ばかにする口ぶりは、彼が嫌っていた実の父親そっくりだ。さらにそんな時には、私が何を話しても「だから?」「それで?」とイライラとした表情を見せるので、自然に夫婦の会話も減っていった。

付き合ったばかりの頃の自分や、新婚時代を懐かしむ時もあった。また、普段、彼が朗らかに対応している友人たちや、そんな顔を知らずに別れていったであろう彼の恋人だった人たちを羨ましく思った。大好きだったからこそ、夫の豹変する姿は切なかった。


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