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術後66日目 化学療法2回目・16日目 生産計画と診察室─行間を読む仕事、読めない医療


「生産計画と診察室──行間を読む仕事、読めない医療」

夕方になると、決まって取引先の担当者から電話が入る。

「8件ありますが、よろしいですか?」

このやり取りも、もう10年近くになる。
相手の一言で、私はすぐに状況を察し、必要な手配を整える。
向こうも、私の判断基準を理解している。

お互い、余計な言葉は必要ない。
行間を読み、最適解を導く。

──だからこそ、病院での診察が異質に感じられたのかもしれない。

医師は、患者が求める情報を察して伝えるというより、まずは事実ベースで伝える。
患者の不安や疑問に立ち入ることなく、診察は淡々と進む。

「これは業務連絡なのだ」

そう思えば納得がいく。
あの短いやり取りは、まるで効率重視の生産現場での確認作業のようだ。
医師の「お疲れさまです」が、ねぎらいというより、業務上の一区切りの合図だと気づいたとき、妙に腑に落ちた。

ただ、腑に落ちたからといって、納得できたわけではない。

私は「行間を読む」仕事をしている。
言葉にならない情報を汲み取り、先回りして動くのが当たり前の環境にいる。
だからこそ、病院でも、もっと言葉の奥にある気持ちやニュアンスを汲み取ってほしいと期待してしまうのだろう。

けれど、医療の現場では、患者が求めなければ与えられないものもある。

仕事と医療──行間を読む側と、読ませる側。
その違いに気づいたとき、私はようやく、自分の期待と現実のズレを理解した。

医師と患者の間にある「行間」は、私の仕事のように埋めるものではなく、患者が自分で言葉にしていくものなのかもしれない。

私はこれから、その「行間」をどう埋めていくのだろう。

それを考えながら、今日も生産計画の調整に取りかかった。

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