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術後113日目 化学療法4回目の15日目 「血圧データが変えた診察室の空気──研究者としての視点が交わった日」

診察室に入り、主治医の言葉を待つ。
「白血球が少し少ないですね。ただ、生ものを制限するほどではありません。」
いつも通りの淡々とした口調。
それに続いて、前回処方された胃薬の経過を聞かれた。
「問題なく飲めています。」
短く答えながら、私は次の準備をしていた。

「前回、看護師さんに血圧測定値を先生に見せるように言われていましたので。」
そう前置きして、私はファイヤータブレットを開く。
「測定値はこちらになります。どうぞ。」
タブレットを差し出した瞬間、診察室の空気が変わった。

「データを扱う者同士」へと変わる瞬間
主治医は一瞬視線を落とし、そして確認するように聞いた。
「見てもいいですか?」
「もちろんです。」私は頷く。

タブレットの画面には、入院前後の血圧データが並んでいた。
今回、初めて血圧データを提示することを考え、入院の影響や薬の有無が考慮できるよう、入院1か月前からの記録を用意していた。
ヘタなグラフを見せるより、日々の数値の方が有用だと判断し、まずは一覧表を表示する。

主治医はじっと画面を見つめ、やがて興味深そうに尋ねた。
「グラフはありますか?」
「こちらにあります。」
グラフを表示すると、主治医の声のトーンが変わる。
「スマホ連動ですか。いいですね!」
その瞬間、私は確信した。

──やっぱりこの医師は研究者だ。
そこにあるのは、単なる診察の義務感ではなく、目の前のデータに対する純粋な興味だった。

──この人の本質は、医師である前に「研究者」なのだ。

「数値は嘘をつかない」
医療は、データに基づいて判断されるべきもの。
主治医はまさにその視点を持つ人だった。

データに意味を見出すのは、研究者としての習性ともいえる。

そして私も、かつて研究に携わったことがある。
この瞬間、私たちは「医師と患者」という枠を超え、「データを扱う者同士」として交わったのだ。

数値は、嘘をつかない。
だからこそ、血圧の記録は単なる「数字」ではなく、治療の羅針盤となる。

ふと、主治医の表情が少し和らいだ気がした。
私も同じように微笑みながら、心の中で思う。
──この日が、私にとっての転換点だったのかもしれない。

この出来事が、後に「感謝の手紙」へとつながっていくことを、私はまだ知らなかった。

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