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不殺系主人公はきらら世界へ旅立つべきか?

不殺系主人公という報われない人たちがいる。彼らは、暴力に満ちた僕ら向けの世界で「人を殺さない、傷つけない」という当たり前のことを守っているのに、当の読者から袋叩きにされるのが定番だ。

東へ行けば喧嘩を止め、西へ向かえば暗殺を阻止し、南へ行けば自らを襲った者に情けをかけ、北へ向かえば戦争を防ぐ。彼らは実に忙しく働いているのに、読者から評価されず、全く報われていない。子供のように力を振りかざして暴れるだけで褒められる暴力系主人公とは酷い違いで、不公平極まりない。

一方で、まんがタイムきららを始めとする「きらら系」の世界では、女子高生が平和にギターを弾くだけでチヤホヤされる。積極的に平和をもたらそうとする不殺系主人公は評価されないのに、だ。こんな不平等がまかり通るなら、高い志を持った不殺系主人公であっても、キルミーベイベーの世界あたりに転生して、ドタバタ暗殺コメディを演じたくなりそうなものである。

しかし、彼らはできない。いや、そうすべきではない。彼らがナードたちから叩かれるのは、実は当たり前なのである。暴れる子供たちと一緒に暴れるのは、3歳児でもできる。しかし、暴れる子供たちを叩かずに大人しくさせ、二度と暴れないよう納得させるのは、保育士の免状を持った歴戦のプロでさえ難しい大変な仕事なのだ。

そんなプロの大仕事を為すためには、作者の方にも不退転の決意を伴う高い志、経験に裏打ちされた真剣な考察、そして友との飽くなき討論といった尋常ならざる努力が求められる。

そんなに大変なら、やはり不殺系主人公なんかやめるべきじゃないかって? そうじゃない。報われなくてもやめないから、暴力を愛するガキどもと諦めずに戦い続けるから、不殺系主人公はカッコいいのだ。不殺系主人公は、闘争に満ち溢れた僕ら向けの世界で、読者と戦い続けるべきだ。だって彼らは、そんな世界を変えようとする本当の英雄なのだから。

だから、愛すべき不殺系主人公よ、きらら世界へ旅立つな。
僕らを大人にするために戦い続けてくれ!

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