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夢を見失った元コンサルが「週末農業」で見出した希望。コミュニティで仲間と共生する魅力とは
便利な家電製品が普及し、オンラインサービスも充実している現代。一人暮らしや核家族など、「個」での暮らしが一般的になりました。新潟県長岡市でコミュニティ作りを支援する唐澤頼充(からさわよりみつ)さんは「生きるうえで複数のコミュニティに属し、人とつながり、共生することが重要だ」と言います。唐澤さん自身、農業コミュニティや地域コミュニティに深く関わる中でその価値を実感しているそうです。現代に生きる私たちにとってコミュニティの一員になることはどのように重要なのか、お話を聞きました。
「農ある暮らし」を気軽に楽しむ週末農業グループ「まきどき村」
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妻と二人の子どもと共に新潟県の角田山の麓にある福井集落で暮らしている唐澤さん。長岡市のNPO法人で働きながら農業コミュニティ「まきどき村」の運営に携わり、地域行事にも積極的に参加しています。
まきどき村とは「農」をテーマにしたコミュニティで、福井集落の田んぼや畑でお米や野菜を育てています。日曜日の午前中に参加者で農作業に勤しんだ後、集落のアイコン的存在の茅葺古民家にてみんなで食事を楽しむのが恒例です。
まきどき村の活動は毎週1回、朝からお昼までの半日ほどですが、唐澤さんの活動はそれだけにとどまりません。朝や夕方に農作物の手入れをしたり、畑を耕しておいたり。さらに週末は草刈りや道路のミラー清掃など地域活動にも積極的に参加しています。忙しい毎日を送りながらも「まきどき村も地域のコミュニティも大切な場所です」と語る姿から、充実した様子が伺えます。
農家を応援するはずが……理想と現実のギャップ
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現在は海に近く山もあり、田んぼや畑が広がるのどかな景観を望む場所でゆったりと暮らす唐澤さん。しかし、かつては公私ともに何よりも効率を重視する生活を送っていたそうです。
農業に関心があった唐澤さんは、4年制大学の農学部で学びました。農業の新技術を現場で応用し、普及することで農家の利益を増やすことに興味を持つようになったことから、自主的に経営学部の授業にも多く出席していたそうです。
大学卒業後はマーケティングを通じて農家を支援しようと考え、コンサルティング会社に就職します。そのときから唐澤さんの生産性と利益を追求する日々が始まりました。
「当時は自分の頭脳を家事に使うのも惜しくて、全て外注していました。自分の時間を最大限、価値のあることに費やすべきだと思っていたんです」
唐澤さんは農業以外の業種も含め、クライアントがビジネスで収益を上げるためのマーケティング戦略を昼夜問わず考えるようになりました。そうして見えてきたのは「志していたものとは違う」という不本意な現実でした。
マーケティングでは対象の商品が売れるように競合商品と差別化、ブランディングし、競合よりその商品が魅力的だと伝わるようにします。つまり商品の優劣を付けるということです。それは「等しくより多くの方々の収益を上げる支援がしたい」と思っていた唐澤さんが望む結果ではありませんでした。理想と現実の間で葛藤するようになった唐澤さん。そんなときに東日本大震災が起こりました。
「震災後、広告やマーケティングが無力だと痛感しました。誰もが日々の生活を立て直すために必死で、本当に必要なのは水や食料の調達、医療支援、土砂の撤去、建物の再建など、生きる基盤を支える基本的な活動だけだったのです」
この体験が、唐澤さんの人生観を大きく変化させるきっかけとなりました。
農業コミュニティ「まきどき村」で見えた新たな希望
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その後会社を退職、独立した唐澤さん。ライター業を中心に仕事をしているときに、知人の紹介で農業コミュニティ「まきどき村」を知りました。元々農業に興味があった唐澤さんは軽い気持ちでまきどき村の活動に参加しました。
「農作業するのはすごく楽しかったんです。農業は『作る』や『生産する』という実感が得られるのが魅力ですね。仲間と一緒に自分たちで食べる物を自給することで心が健やかになるのを感じました。このような体験ができる場は現代では貴重だと思います」
まきどき村では田んぼや畑での農作業のほか、集落内の古民家にある竈(かまど)で炊飯して、食事もみんなで楽しみます。
「農ある暮らし」を気軽に体験できることに魅力を感じた唐澤さんはその後も週末に福井集落で農作業をするようになりました。
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まきどき村で農作業に携わるようになり、唐澤さんの「時間の使い方」に対する価値観はガラリと変わりました。農作物を育てるには数ヶ月の時間がかかります。今週苗を植えたら来週収穫できるわけではなく、自分の都合で収穫時期をコントロールすることは不可能です。
会社員時代、時間対効果を何よりも重視していた唐澤さんにとって、農作物を育てることはその対極にある時間の使い方でした。効率とは真逆の過ごし方を経験するなかで「自分のために時間を使う豊かさがある」と気づいたといいます。
「コンサルティング会社で働いていた当時、仕事中はクライアント、つまり『他人のため』に時間を費やしていました。休日は外食したり、買い物したり、休むというより『消費』をしていました。対して、まきどき村での農作業は『自分や家族、仲間のため』にお米や野菜などを作り出す、いわば『自給』の時間だと気がつきました。自分のために何かを生み出す時間はとても心が休まるものでした」
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また、農作業を通じて得られる「自己肯定感」も、まきどき村に参加する大きな魅力の一つだと唐澤さんは語ります。
「農業のおもしろいところは、熟練の農家一人より、未経験者でも大勢がいた方が作業が進むことなんです。道具を運んだり、草取りをしたり、一つ一つは簡単な作業ばかりですから、小さな子どもや障がいがある方も貴重な戦力として歓迎されます。そこが、農業をテーマにしたコミュニティに参加する良さですね」
特に子どもたちにとって、まきどき村に参加する意義は大きいようです。
「保育園は子どものために特別に作られた空間ですが、まきどき村では子どもも大人も一緒に活動します。特別な配慮や区別はなく、そうした環境の中で子どもたちは自然と社会性を学んでくれたらいいなと思います」
地域の人々とつながり助け合う「地縁コミュニティ」の安心感
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まきどき村の活動に参加していた女性と結婚した唐澤さんは、2018年に家族でまきどき村がある福井集落へ移住しました。この集落で暮らすようになり、唐澤さんは自分が住む地域コミュニティに参加する安心感に気がついたと言います。
「コミュニティを『テーマ型』と『地縁型』に分けると、農をテーマに人が集うまきどき村はテーマ型で、誰かが意識的に働きかけて運営しなければ続きません。一方、町内会といった地域コミュニティは地縁型です。常にそこにあり続ける存在で、その安心感は大きいです」
地域コミュニティに所属する豊かさを感じながらも、「大変さはあります」と唐澤さん。なぜなら福井集落での地域活動はやるべきことが多いからです。元旦マラソン、春祭り、草刈り、秋祭り、防災訓練、秋の芋煮会など福井集落では毎月1〜2回は何らかの行事があります。
移住前は行事の多さに不安もあった唐澤さんですが、今では地縁コミュニティならではの価値を実感しているそうです。町内の人にまつわるこんなエピソードを教えてくれました。
「ある日帰宅すると立派な庭木が植えられていました。別の日には、自宅の薪ストーブに使う薪の保存棚が設置されていたこともありましたね。いずれも集落に住むおじいさんの手によるもので、ログハウスも自身で建ててしまうほどの腕前です。これまでは何かあれば業者さんに代金を支払ってサービスを提供してもらっていました。でも今では、困ったときに頼れる人が身近にいると思うと心強いです」
地域のお祭りのポスターやチラシ作りなど積極的に行事を手伝うことで反対に唐澤さん家族が町内の人たちを助けることもあります。このように福井集落での暮らしは住民同士の助け合いで成り立っており、その関係性を唐澤さんは心地良いと考えています。
「人とのつながりへの投資」が叶えてくれること
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志していたマーケティング職に希望を失い、まきどき村の活動に参加する中で「コミュニティ作り」という新たな希望を見出した唐澤さん。「人生のポートフォリオに複数のコミュニティがあった方が絶対に良い」と断言します。
「仕事をしていれば勤務先とのつながりはあります。勤務先で得る収入で様々なサービスを利用することもできます。でも、それだけに頼るのはあまりにもリスクが大きい。なぜならすべてが金銭を介したやり取りになってしまうからです。
一方で、複数のコミュニティに所属し、様々な人とつながっていれば、例えば子育て中の母親同士が集まって悩みを共有しながらお互いに解決できる問題も多くあります。こうした金銭に頼らずに助け合える関係こそが大切だと思うんです」
唐澤さんは、コミュニティに所属してこの人間関係を築くことは「人とのつながりに投資すること」だと言います。また、どのコミュニティが良いということではなく、自分の居場所を複数のコミュニティにバランスよく持っておくことが安心感につながるのではないかと語りました。
「お金を稼ぐという観点では、コミュニティ活動は非効率かもしれません。会社員時代の私のように仕事に時間や労力を注いだ方が大きな収入を得られるでしょう。でも人とのつながりがある方が人生が豊かになると思います」
現代社会では、意識的に行動しなければ人とのつながりが自然と希薄になりがちです。そんななか、コミュニティへの参加は新たな人とのつながりを育む貴重な機会となります。そこで得られる経験はお金では買えないかけがえのない価値があります。
コミュニティは困った時の支え合いの場としてはもちろん、唐澤さんのように新しい視点に出会える場でもあります。そうした経験は現代に生きる私たちが「豊かさ」の本質を見つめ直す大切な契機となるでしょう。
唐澤頼充(からさわよりみつ)さん
地域編集者・ライター/「人生の保険」「社会的処方」としてのコミュニティが溢れる地域社会をつくる/ながおか市民協働センター運営のNPO法人・理事/かやぶき古民家佐藤家のNPO法人・理事/週末農業サークル・まきどき村運営/米づくり7年生/仕事はまちづくり支援、取材執筆、広告・編集物制作、企画、講座講師など