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空の神 #5
main game in
First memory 4
『才能』
湯気はもう昇っていないが、香ばしい香りをまだ部屋に満たす黒い液体。それを包む白い容器を口に運び、残りわずかなほろ苦いそれを口の中に注ぎ込む。
熱過ぎるよりは少し冷めている方が飲みやすいものだ。
カウンターの向こう側に佇む美青年は飲み干したのを見送ってからニコリと微笑むと、できあがったばかりのまま時間が止まったように、温かい煙で表面を曇らした瓶を持ち上げる。
手に持っているティーカップに注いでくれようとしているらしい。
「話を始めていいか?」
隣に座っていた、知り合ったばかりの知人__和馬がそう言いながら手を挙げ、それを制す。
このままお茶をしていてもよかったのだが、本来の目的がきちんとあるらしい。少し残念。
青年は残念そうに珈琲の入ったフラスコを置くと、またニコリと微笑んで口を開く。
「そ? じゃあ本題に入ろうかしら。用件は何かしら? 子犬ちゃん。お友達と珈琲を飲みに来たのなら、おねぇさんは大歓迎なんだけども」
「おい……その薄ら寒い冗談と顔を辞めろ。情報と武器の調達に来た」
笑顔を崩さない青年とは逆に、和馬は口角を少しも変えずに、話を進める。
「へぇ……依頼の件もあるし、今日はどんな子が来るのか楽しみだなぁ……あはは」
青年は、まだ何かを言おうとしていた和馬の言葉を待たずに、自分の手を顔の横で合わせて、唇を釣り上げながら怪しく笑う。その気味の悪い笑顔のままこちらに目を逸らす。
青年と目が合った瞬間、全身を何かが這い回る様な、異様な寒気に襲われる。
「それでぇ〜? 武器はその子に? 珍しいわね、一匹ワンコじゃなかったの?」
青年はこちらから目を離すと、和馬との会話に戻る。悪寒から解放されて安心したせいか、自然と口から溜息が漏れた。
「ニヨニヨするんじゃねぇよ、気持ち悪い……それにワンコでもねぇ」
和馬はワンコと呼ばれるのが気に食わないのか、その名前で呼ばれる度にこれでもかと言う程に嫌な顔をする。
「いいじゃない、ワンコ。私は好きよ? それにその子のこと、そろそろ紹介してくれてもいいんじゃないのよ」
青年はこちらに目配せをしてから、和馬にアイコンタクトを送る。
「あぁ、わかってる」
それだけ言うと和馬はこちらに顔を向けて、顰めっ面のまま首だけ動かして自己紹介をしろと促してくる。
「どうも、湊 夏比です。宜しくお願いします」
素っ気なく、単純明快、自己紹介の究極系とも言える俺の渾身の自己紹介に軽い会釈を加えたものを披露したのだが、カウンターの向こう側にいる青年は、疑問符を浮かべたまま、何かを待つ様に黙っている。
「……? どうかしましたか?」
自分が質問されるのを想定していなかったのか、青年は少し時間を置いてから、慌てて返答する。
「あ! いや、名前だけなのかなぁ……って思っただけよ?」
どうやら青年からしたら、俺の自己紹介は不十分だったらしい。なんだ? なんかやらかしたか? 陰キャ発動か? お?
「す、すすいません。自分、自己紹介はいつもこんな感じなんでしゅけど、駄目でしたか……?」
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、どどどどもったぁぁぁぁぁぁ。第一印象おお終わった。もダメダァ、死ぬんダァ。
「あら、そうなの? ならいいわ。私の知り合いの愛想の悪い子にもこんな感じで自己紹介された事あるわ〜。懐かしい」
最近の若い子は皆んなこうなのかしら? と付け加えながらあまり気にしてなさそうに、笑い返してくれる。あーはい。も、俺は愛想悪い判定なんですね。プレイミス・プレミさん通りまーす。
「私、いい?」
後悔の連鎖でバタンキューしそうになっていると、青年は自己紹介が待ち遠しいのか、自分の方に柔らかく指を指しながら発言権を申請してくるので、二回ほど頷いて見せる。
「やっちゃ! ども! ローゼ・ヘスリッヒ・ブラウです。一応二六ですよー。趣味はカフェ経営とか……色々かな? 因みにぃ、おねえや、同性愛者の類ではございませーん。ふふっ。ヨロシクね〜」
時々ジェスチャーを交え楽しそうに、要領を得たのか得ていないのかわからない自己紹介をしながら、最後はこちらに軽く手を振るサービスまで行ってくれる。どんだけ自己紹介好きなんだよ、好き過ぎるでしょ。因みに、僕は十六でぇーす。さきほどは取っ付き難い自己紹介してすいませーん。
ローゼさんの印象は、いつでも笑って笑顔を崩さない人で、それが逆に信用できないところでもあると言うところだろうか。後、おねぇじゃないと言うのは信じないからな!
「ささっ! 自己紹介も済んだとこだし、早速武器から見に行ちゃいますか!」
ローゼさんは急に思い出したかの様に、手を叩くと、立ち上がる。
奥入っちゃって〜と言い残し、ローゼさんは店のカウンターの向こうにある『関係者以外の立ち入りはご遠慮いたします。』と目立つ色の看板が掲げられた扉を開けて消えていってしまった。
「おい夏比、俺らも行くぞ」
そう言った和馬は立ち上がろうとする俺の肩を掴み自分の方へ引き寄せる。そのせいで体制が崩れて和馬の方に体が傾き、お互いの肩が重なる形になってしまう。
少し強めに引っぱられた事に、文句を言ってやろうと口を開とうとしたが、和馬が先に話始めてしまい、吸った息の息場所を失ってしまう。
「あいつは化け物だ。気を許すなよ? 少しでも気を緩めりゃ、喰われるぞ、心も体もな」
静かに、他の誰にも聞かれない様に囁いた声は、物凄く重みがあった。まるで実際にその現場に居合わせたかの様に、見たくなかったものを見てしまったかの様に。俺の魂が一瞬縮こまる。一体どう言う意味で喰われちゃうんだよ……めっちゃ不安なんですけど。
□■□■
喫茶店地下。
最初は武器から決めて欲しいと言うローゼさんからの要望で、店の地下までやって来たのだが。
「すっ……すげぇ……」
地下の何部屋かある内の一室。部屋の広さは二〇畳程だろうか、地下室にしては中々の広さのこの部屋には銃や刀、それに加えてドラマやアニメでしか見たことのない様な武器は勿論、使い方がわからないような見たことない物まで様々なものが、壁、天井、床に至るまで凡ゆる所に飾られている。いや……訂正しよう、床のはただ散らかっているだけでした。そっと足の踏み場作ってるの見えたぞ、ローゼさん!
「そうかしら? こんなのうちの商品のごく一部よ? はい、こっちがリストね」
ローゼさんは表紙にパンフレットと書かれた一冊の辞書を笑いながら差し出してくる。
「ローゼさん……普段は一体何してる人なんだ……」
辞書ほど分厚いパンフレットを一、二枚捲りながら、ふと疑問に思った事を口に出してしまった。何で思ったことがすぐに口に出てしまうんですかね〜。このポンが!
「私〜? 私は何だろうなぁ……うーん。ちょっと変わったカフェ店主かな……あはは。後、そんなに堅苦しくなくてもいいよ〜。もっと軽く読んで! ……あ、ねぇねぇ! 和馬きゅん! 私って、普段なんて呼ばれてるかな?」
ちょっと変わっている位のカフェの店主が、地下にこんな武器庫なんてぜっったいに持ってないから! 怪し過ぎるから!
そんな俺の心中などお構いなしに、ローゼさんは和馬にねぇ〜ねぇ〜と無理に迫ると、嫌がる和馬が押し負けながら返答する。
「ああ! ウルセェなぁ! 大体、ロゼ、ロゼ姉、ババァぐらいだろ! 俺にそんなこといちいち聞いてくるな!」
床に散らばった武器を少し手荒に漁る和馬に、ローゼさんは肩を掴み、初めて笑顔とはかけ離れた表情を見せる。
「え! ちょっと! 誰よババァとか言ってるの! ねぇぇ!」
「おい夏比、コレとかどうだ?」
和馬はローゼさんを無視しながら、床に転がっていた一丁の拳銃を拾い、マガジンを取り出してみせてくる。
声をかけられて和馬の方へ首を傾けると、すかさずローゼさんが和馬に何やらよくわからないツッコミを入れている。案外、この二人は仲がいいんじゃないないかと思う。
「えーっと、じゃあ、まぁ……ロゼさんで、どうでしょう」
流石にずっと、無表情の和馬にあしらわれているローゼさん改め、ロゼさんを見続けているのも忍びないので、会話に割って入る。
「うんうん! おっけー! まだちょっと硬いけど、それでよし! なっちゃんは良い子で宜しい! ふふっ」
俺が出した提案が気に入ったのか、ロゼさんご機嫌な様子ではしゃいでいる。ところでなっちゃんって人はどこに居るんですか?
「ロゼ……いつまで遊んでるつもりだ。さっさと仕事しろ」
ロゼさんは和馬からの文句を聞くと、さっきまであった爽やかな笑顔の逆、先程の笑顔が嘘の様に感じる位ドス黒い嗤いを顔に貼り付けていた。
「へぇ……私に仕事しろって言うんなら、わかるでしょ? 報酬が先だって。話はそれからよ」
ロゼさんから紡がれる重く絡みつく様な不気味な声は、耳から全身に廻り、毒の様に体の自由を奪って行く。
その毒を緩和する様に和馬は立ち上がり、いつもの冷たい声でロゼさんの問いに答える。
「解ってる」
和馬は音もなく、意識しなければその動きも目で追えない程に、自然と手を前に出す。
「パク」
ボソリと、微かに聞き取れる声で、小さく何かに呼びかける。
口を閉じた和馬の手には、赤い紐が握られていた。
紐の先には白いてるてる坊主の様な、縫ぐるみの様なものが、握られていた。
「…………お、おい、和馬……その変なてるてる坊主いつから持ってた……?」
和馬の知らぬ間の早技をみて声が少し上ずっている俺に、和馬は顔だけこちらに向けて最初に出会った時の様な、酷く冷たい目でこちらを見下ろし、ゆっくりと俺の頭にしみ込ませる様に喋る。
「よく見ておけよ、夏比……これが俺の『才能』だ」
和馬は俺の顔を確認してからそっと首を戻し、もう一度「パク」と、てるてる坊主に囁く様に呼びかける。
10センチあるかないか程の大きさだったてるてる坊主はの呼びかけに応える様に、頭部を段々と膨らまして行く。え……いつから隠し芸大会始まったの? まだ俺、何の準備もしてないんですけど。
際限なく膨張して行くと思っていたてるてる坊主は1メートルを超え、頭の一部が床に着く大きさにまで巨大化すると、ピタリと動きを止める。
止まったのを確認したかの様に次は首から、骨の音が折れる様な不快で耳障りな音を鳴らし始めた。てるてる坊主の首が捻れ、顔が逆さまになると、次は口を再現しているであろう、縫い付けられたファスナーがひとりでに、しかも不気味な事にぎこちなく開き始めた。いや、
「怖っ……」
おっと、怖すぎて、声が漏れた。
「毎度、毎度思うけど、普段は可愛いパクちゃんが、どうして能力発動時だけこんなに恐ろしい状態になるのよ……? アンタ……この子が一体何をしたって言うの?」
若干引き攣った表情のまま放った俺の独り言が聞こえたのか、ロゼさんが同じく引き攣った表情のまま哀れみの声をかける。あぁ、毎回これ見せられるのか。夢に出てきそう。
そんな思考に至り、パクと呼ばれるてるてる坊主から目を逸らしていると、急に重たい物が落ちる様な大きな音がして顔を戻す。
その時驚愕したのは、パクと呼ばれるてるてる坊主が人間を口から吐き出している事実もそうだが、何より一番驚きを隠せなかったのが、吐き出している人物だ。
「か……和馬……? ソレぇ、さっき俺を襲ったやつらろ……?」
意識がないチンピラの集団を指差しながら質問をするが、驚き過ぎて呂律が廻ってないのが自分でも十分にわかった。
個人ワールドで感じた不安感が頭を過ぎる。
突然のチンピラの登場に驚きを隠せないでいると、和馬が口を開く。
「あ? さっき夏比のワールドを出る時に縛って回収してたろ」
和馬のあっさりと流れるかの様な回答に「いつの間に……?!」と叫んでしまった。確かに、よーく見ると手足がきちんと縛られている。
「あー! この子たち、もしかして私が頼んでた盗賊の屑たち?」
ロゼさんが目をキラキラさせながらチンピラに駆け寄る姿を見て、確かに和馬も誰かの依頼とかって言ってたっけ、と思い出す。
無駄な心配だった事に一安心して、気になっている事を訊こうと和馬に話しかけ得る。
「え? いつ? いつそんなことやったの?! マジで何の気付かなかったんだけど!」
って違う! 俺のバカ! それを気になってたんじゃない! ……それになんかこの世界に来てから少しオーバーリアクションになった気がする。
「お前がゲート前であたふたしている時だが、本当に気付いてなかったのか……」
和馬はこちらの質問をサラリと流すと、ロゼさんに「追加だ」と赤黒く濁った水晶玉の様な物を手渡す。ええぇぇぇ……それはちょっと声かけてもらっても良かったんじゃないですかね! てかその血溜まりみたいな綺麗な色の球体なんだよ。
「あの……それはいいんですが、先ほど仰っていた才能って何のことでしょうか」
そうそうこれ、これが訊きたかったんですよ、ふぅ……訊きた過ぎて敬語になちゃったんですけど。も、本当、これが俺の才能だどやぁ、とか急に言い出すからちょっと厨二病心を擽られちまったじゃねぇかよ。ちきしょう。
「あぁ、忘れてた。今から説明する」
いつの間にかてるてる坊主を消して手ぶらになった和馬が咳払いをして息を整える。え……? この才能ってやつそんなに簡単に説明忘れちゃっていいものなの? 絶対ダメだよね? ね? うん。
「まぁ、そうだな。能力の説明の前に、『器』の説明からして行くか」
そんな前置きをしてから、和馬が語り出す。
「命や魂ってあるだろ? 俺らはそれ自体を器だったり、魂魄と呼んでいる。その器には常に様々なものが入っているんだが、そいつが感情だったり、人格、性格、記憶だったりする。その中の様々なものの一つが才能だ」
器の身は何となく理解した。だが、確認したいことがあり和馬の話を遮る。
「じゃあ、皆んなが皆んな才能を持ってるってことか?」
急に話を遮った俺に、和馬はコクリと顔を縦に振る。
「まぁ、そうなるな」
その肯定に、まだ疑問が浮かぶ。
「そりゃ、ダウトだよ……。俺の世界ではそんな瞬時にてるてる坊主出せる様なやつ見たことないぞ、俺もそんな隠し芸みたいなことできないし……。それとも俺の世界の人間には、才能は魂や器に含まれていないってのか?」
確かに元の世界と、この世界では色々と原理や物理法則の概念に歪みがあるのはもう目の当たりにしている。
「いや、多分だが、俺らとお前らの世界の人間の構造に大した違いはないだろう。そちらの世界の人間も才能を持っている。勿論、夏比もな」
「何言ってんだよ、それじゃむじゅ……」
そこまで言うと和馬に止められてしまう。
「最後まで聴け。才能ってのは今から説明する三つの能力の中で最も所有者の少ない能力だ。この世界でも、ちゃんと才能を特殊能力として扱えるのは、一部の極々少数こ人間だけだ。つまり、殆どがお前の世界と同じく、才能なんて特殊能力は持っていない。現にロゼは才能非所有者だ。才能の能力自体が何かに影響を与えられる様な内容なのか、実際にコントロールできるのかは人それぞれだ。才能が全員に備わっていても、それを表現する術が無かったり、表現出来るほどの能力自体のポテンシャルが備わってなかったりする。これが才能と言う能力の所有者が一番少ない理由の一つだ」
この説明までされてやっと、何となく理解する。
つまり、才能の素になるになる何かは器に備わっているが、それが何かに影響を及ぼさない限り、才能として扱わない。だから、全員に才能が備わっているが、才能所有者は少ないと言う難解な説明になったのか。
「成る程な……。なら皆、コントロールする術を身に着ければ多少なりとも才能を自由に使えるんだろ?」
それを聞いて和馬は渋い表情をする。
「確かに、何かに影響を与えられる様な素質を持っている者なら、その通り、才能を扱える様になるだろう。だが、そこが問題だ。そのコントロールする術は自分で見出さなければいけない。さっきも話した通り器にはその人物の人格なり性格なり、記憶、経験なんかも含まれる。それは一人一人違う物なのは言うまでもないが、そこに類する才能も人によって様々だ。ここまで言えばわかると思うが、才能のコントロール方法や感覚自体も人それぞれあり、誰からも教わることはできない。それに既に能力としての何かを発現して、自分が才能保有者だと自覚している者は今のやり方が通じるが、能力を一度も再現できていない者は、自分が何を秘めているかすら分からない状態にある。そんな状態では何をコントロールすればいいのかすらわからない。才能を使うなんて夢のまた夢だ」
確かに言われてみればそうだ。じゃあそのたまたま能力に気づけて、その扱い方をマスターしている和馬ってめっちゃすごいんじゃね?
「けど、俺のいた世界の人口は七〇億人以上だぞ? もし、俺らの世界にも才能って概念があるなら、いくら珍しいと言っても数人……いや、数千人単位でいてもおかしくないだろ? 流石にそんだけの特殊な人間がいたら研究されたり、もっと大々的に報道とかされそうな気もするけど、一切されない……やっぱり、こっちの世界からすれば才能は突拍子もない能力に見えるよ」
世の中世知辛い。俺だって厨二能力全開で無双ハーレムを築きたかったよ。
少し黙っていた和馬がこちらを見て、少し間を置いてから話出す。
「その可能性は確かにないとは言い切れないが、この世界に来て、夏比の存在に何の影響も与えてないところを見ると、やはり、そちらの世界にも才能に類する能力はある気がする。今までの夏比の話を聞くと、どうもこちらの世界とそちらの世界での規格が違う様に思える。なんだか、個々の本来の能力が存分に発揮できていない様な……制限が大きい様な」
え? なんで急に故郷disられてんの? キレそう。
「何だよそれ……こちらの世界では才能が発現しずらいように元々なってるってのか?」
「簡単に言えばそうなるな」
少し喧嘩腰に言ったにも関わらず、何も意に返さず梅酒ぐらいサラリとした即答で返されてしまった。えぇ……そんなバッサリ言わんでも……だけど人間の脳みそは本来の一割程度しか使われていないとかいうしなぁ……辛味噌汁。
「因みに和馬の能力って、そのよくわからん不気味てるてる坊主を出したり消したりするだけのクソショボショボな才能なの?」
見てろとか言った割にしょうもなくね? という本心を包み隠し、和馬に問いかけると、和馬が鬼の形相で、こちらを睨んでくる。
「あぁ? 殺すぞ」
「怖い。怖いよ……顔のおかげで洒落になってないから! わー! わ−! ごめんなさい! 調子乗りました! 僕が悪いです反省してますから、本当はどんな素敵な能力なのか教えてください! お願いしますこの通りですだから殺さないで虐めないで痛いのやだ言葉の暴力も反対ですしお寿司!」
物凄い早口で誠心誠意謝ったのが通じたのか、殺されるのは回避した様で、和馬は渋々能力の説明をしてくれる。なんだかんだで説明はちゃんとしてくれるジェントルメン。それが城崎 和馬。
「才能の名前は【狭世(ファーレ・レーゼ)】。簡単に言うと、新たな生命を創造する能力だ。造り出せるのは生物限定で、一度造り出した生物は俺が死ぬまで死ぬことはない。普段は俺の……何て言うか、器の中にいるイメージだが、器からの出し入れは俺の自由。生み出せる生物の数や能力は、俺の器の中に収納出来るまで。大体こんな能力だな。さっき出したパクは俺の生み出した生物の一つだ」
え、新しい生き物作り出せるとかチートかよ、もう神様の領域じゃんか。そら、馬鹿にされたら怒るし、自慢したくもなるわ。
「え、え、何そのつよつよな能力! 極論、いっぱい猛獣とか出して突撃させれば怖い者なしじゃん」
俺の画期的な提案に、和馬はそうもいかないと能力について補足し始める。
「生み出した生命にも、感情や痛みはある。死にはしないと言っても死なないだけで、傷も負う、体力も減る。そうなれば苦しみ動かなくなる。生み出した生き物たちは俺の器の中の住人、つまり俺の分身とも言える存在だ。自分自身も同然の生き物に、そんな酷いことはしたくないし、やりたくとも、できない」
「確かに、作り出した生き物だからって、感情がないわけじゃないもんな。動物も同じ生き物、命は大切ってやつか」
当たり前のことだ、変なことを口走ってしまったのを反省しながら、和馬が確かに言った、言葉に少し引っかかった。
「でも、やりたくてもできないってどういうことなんだ? まだ何かしらの熱い心温まる心意気でもあるの?」
和馬は俺の新しい問いかけに、「そんなもん、最初からねぇよ」と付け加えてから、自身の能力について解説を再開する。
「俺の能力は、新しい生命を誕生させる能力だ。つまり裏を返せば、新しくない、既に存在している生命体は造り出せねぇ。そして、俺の能力で作り出した生命体は既存の生命体扱いになり同じ種族は二つと存在できない」
和馬は最後に「だから、俺の能力で軍隊や集団は作れないし繁殖もできない」とだけ言い残すと、話を〆める。なんだかんだで、使い勝手がいいのか悪いのかわからない能力でした。まる。っておい! 動物に対する熱い心の優しさがないとかどうなっとんねん! しばくぞ!
「俺の能力の制限なんてどうでもいいんだよ! 才能についてはまだ説明する事もあるが、一旦、次の説明いくぞ」
おおぅ。びっくりしたぁ……心の声もれてて、逆に和馬さんにしばかれるのかと思った…… 急に話しかけてくんなよ! 全然会話の途中だったけど。
和馬の唐突なツッコミに心臓が止まりそうになっていると、この和馬君、また変なことを仰っている。
「い、今結構説明パートありましたよね? このままぶっ通しですか? もうワタクシ、聞き飽きましてよ?」
とうとう集中力が切れて言語能力がイカレ始めた俺を見て、和馬が休憩の合図を出す。
「…………はぁ、わかったよ、俺も少し話疲れた」
和馬のお許しの言葉を受け、昼休み後の授業終わりの様な開放感に、握り拳を作った両手を、思いっきり天に伸ばす。
「やっちゃー!」
大きくストレッチをして、上にあった両腕を後ろに回すと、ふと天井を見上げる。白いライトで煌々と光る天井には無数の武器が飾られており、博物館と見間違う程にラインナップが充実していた。
この世界に来てからどれくらい時間が立っただろうか。
大人気ゲーム、RAST GAMEに似た世界からどうすれば生きて元の世界に帰れるのだろうか。
上の喫茶店から持ってきておいた珈琲で喉を潤しながらこの不思議な数時間に思いを馳せる。
みんなは今頃どうしているだろうか、俺はどんな扱いになっているのだろうか。
暖かい珈琲の温もりが、すっと胸に馴染んでいく感覚を残しながら、元いた世界の友人達の顔が脳裏に溶けていった。