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空の神 #7
maingame in
firstmemory 5
『神言と畏能』
喫茶店地下室。
持って来ていた珈琲の最後の一滴を喉に流し込む。
俺よりも先に珈琲を飲み干していた和馬は床に散らばっている武器を弄っている。
「さて、そろそろ能力の話に戻るか」
急に和馬が話しかけて来たので「お、おうふ」とちょっと気持ち悪い返事をてしまった。少し変な目で見られたけどあんま気にしないでおこ!
「さっき説明した才能は稀な能力だ。まぁ、滅多に会う機会は無いだろう。だが、次に教える『神言』は訓練次第で誰にでも習得可能だ。使い方や能力の理解度しだいでは先に説明した才能に引けず劣らずの戦力になる。なんだったら誰でも使える分才能より勝手がいいかもしれないな」
和馬は頷きながら答える。和馬くん偉いベタ褒めですね。
「じゃあ、その神言っての使ってれば、敵なしじゃね?才能とか必要なくなっちゃうじゃん」
んだよ、才能とか珍しいだけじゃんか。ごにょごにょと呟いていると、まだ説明は途中だったらしく和馬の訂正が入る。
「確かに極めれば相当強いだろう。
だが、神言には『過撃』、『電撃』、『井撃』、『悲撃』、この4種類に分かれ、またそこから、各々0〜99章まで振り分けられている。1章の神言を使いこなすまで常人で1年〜10年掛かる。『才能の能力内容や保有者が何処まで才能を引き出せているかによる』、というのが前提にはなるが、才能を使いこなせている、または、武術を極めている物と渡り歩ける様になるなら最低でも、30章以上の神言を習得して使えこなせていなければならない。」
和馬の説明を聞いて正直引いた。さっきのベタ褒めどこ行っちゃったの?! 和馬くーん??
そしてある最悪の状況が頭に浮かぶ。
「え? まって。じゃあ、才能保持者が神言も使えたら敵なしなんじゃ…」
「まぁ、そうなるな。実際に俺も軽く120以上は使える。」
そう言うが早いか、和馬は手で弄んでいた拳銃をこちらへ投げ渡す。助走をつけられ、振り子の要領で投げられた銃は曲線を描いて胸に飛び込んでくる。
「っと、とぉっ!」
慌てて受け止めた拳銃は見た目で判断していたよりずっと重い。
「あっぶな! 急に投げんなよ! 暴発したらどうす……」
文句を言う俺の声を遮り和馬は話し出す。何でさっきから俺の話遮るの? 泣くよ?
「馬鹿、最近の銃は暴発しないようになってんだよ。いいから、それしっかり握ってこっち向けろ」
意味が分からない。
暴発しないにしても、暴発するしないを把握できない素人に拳銃を持たせて、しかも自分へ向けさせるなんて。
「はぁ?! 何で俺がお前に銃なんて向けなきゃいけないんだよ!」
躊躇っていると和馬に「早く」と急かされ、ゆっくりと銃口を向ける。そして銃口が自分に向けられたのを見届けてから和馬は自分の胸に指を指す。
「ゆっくり、肩に力を入れろ。なるべく銃と腕を水平に持て。両手で、強く握る。そうだ。しっかり狙え」
今この場で自分が数センチ人差し指を引くだけで人を殺してしまう。そんな状況に手が震え真面に照準が合わない。
力一杯に銃の持ち手を握りしめて、手の震えを強引に黙らせ、無理矢理に照準を合わせた。
握る拳銃は責任感という体重をずっしりと、ゆっくりかけて来る。
「撃て」
和馬のその一言で引き金を引く。
激しい破裂音と共に手が後ろへ引っ張られ腕が上へ仰け反らされる。
思わず目をつぶってしまうほどの大きな音と腕にくる衝撃。銃の反動で痺れる腕を気にしつつ目を開けると、信じられない状況が目に映った。
撃ち出された銃弾が和馬の30センチ程手前で止まってったままピクリとも動かない。
まるで銃弾の時が止まっているかの様に空中に浮いていた。しばらくするとその浮いていた弾丸もポトリと地面に落ちる。
「お、おい。なんだよ今の……またお前の才能か?」
俺の問いに和馬は落ちた銃弾を拾いながら答える。
「いや、俺の才能はさっきも言った通り生物を誕生させる能力だ。まぁ、確かに似たようなことはできなくないが……とにかく今のが、神言……正確には悲撃の66章の空虚だ。指定した場所に境界線を引き、境界線上の外と内を遮断する。所謂透明な壁を作る能力だ。悲撃はさっき教えた5項目の1種類で物体に直接に影響するのが多いのが特徴だ。わかったか?」
さっきの弾丸を止めたのは、その悲撃って神言で作った透明な壁ってことか。
「なるほど……てか神言の種類毎に特徴があるの? あるなら全部教えて欲しい」
和馬は頷きながら話を進める。
「過撃は炎熱に影響を与える事を得意とし、全体的に攻撃的なのが特徴だ。次に電撃だが、名前の通り電気に影響を与えるのを得意とし、丸みを帯びた動きをする過撃と違い、直線的で且つ、素早く次の神言に繋げやすいのが特徴になる。最後に井撃だが、水分に影響を与え易く、絡め手が多い印象だ。大体こんなところか」
和馬の言う神言は何だが馴染みがある。ラスゲにも似た様なシステムで言霊と言う攻撃方法がある事を思い出す。
言霊は技を選択しキャストタイムと呼ばれる待機時間を待ってから発動される類のスキルで物理、炎熱、雷撃、水流の四つに分かれていた。
それがどうも今説明された神言に思えてしょうがない。丁度種類や技の数、属性も一致する……いや、待てよ、まだ一つ説明されていないのがあった。
「なぁ、さっき『5項目の一種』って言ったよな? まだ1つ説明受けてないけど……?」
和馬の言い間違いかと思ったけど、何か気になる。オタクくん特有の揚げ足取りだったか……?
俺の予想に反して、和馬は一瞬だけ目を開いてこちらを向くが、また直ぐにいつもの表情に戻る。何でこの子そんなに目が座ってるの? 怖いよ。
「意外とめざといな。万撃は……何というか説明しづらいんだが、基本的に神言は1〜99章で構成いされて……」
そこまで説明した和馬の話を止める。
「いや、待って。さっき0〜99って言ってなかった?」
俺からの指摘に和馬は「あぁ、それは…」と口を濁し少し躊躇ってから話出す。お? なんだ? ガバガバ和馬くんか?
「まず初めに、神言は神話を謳にしたものだ。謳には神の加護が掛かっていて、詠唱する事で効力を発揮しているんだが、それが各4項99章ずつ存在する。コレが基礎知識だ。そして、そこに謳の一部を切り抜いたり、貼り付けたりして強引に神言を創作するやつが現れる。できると解れば話は早い。0章は段々と増えていった。始めは同系統の謳を合わせて作られていたその例外だが、更に例外が現れてしまう。それが万撃だ。万撃は異系統の謳を合わせて作られた神言の総称で、コレが1番お前に教えたくない理由なんだが……中には術者自身にも後遺症が残る神言もあるらしい……俺としては、出来れば余り知って欲しくもなかった……」
先程までの激しい銃撃音の後とは思えない程、静かになった部屋にはコーヒーの残り香と火薬の臭いが入り混じって少し臭い。
何とか話しを変えようと和馬へ話しかける。
「神言ってのはやっぱり重要になって来るの? 聞いた感じだと戦闘の基本はこの神言を使う様にも見えるけど。
そうなると、一つ覚えるのに1年か……厳しいな……。」
ラスゲ通りに行くならば今後戦闘は避けられない。そうなった場合、やはり神言は使えた方が便利だろう、たが1章1年は長すぎる。
1年以上もこの世界に入り浸る訳には行かない。早く妹の春比を見つけ出して帰らなければ……それに、学校の授業休むと課題がクソ面倒いんだよなぁ……。
思考を巡らせていると和馬が先程の俺の発言を訂正する。
「1年? いや、今から俺が教える奴は要領が良ければ、1週間で終わるが?」
……は? こいつ何言ってんの? 何が終わるが? だよ! 殴るぞ。
和馬が銃に気を取られてる隙に握り拳を作って振り上げると、いつの間にか銃口がこちらを向いて居た。待って! それ、さっき俺が撃ったやつ! まだ弾が入って居た気がするんですが!?
振り上げて居た拳を開き苦笑いしながら両手を挙げると、和馬はこちらを見向きもせずに銃をゆっくり下ろして会話の続きを始める。
「さっき言ってた1年掛かるというのは平均だ。神言は0章を除いて章の数字が上るに連れ習得難易度も能力の効力も高くなって、数が若ければ若いほど習得はしやすくなる。戦闘の基本技術として基礎中の基礎、電撃の7章『電波線』、悲撃の1章『禊』、井撃の5章『推弾』の3つを覚えて貰う」
和馬は上を向きながら指を折る
「多い!! 多いですよー、和馬さーん? 僕、暗記苦手なんですけどー?」
駄々をこねて嫌がる俺をよそに、和馬は淡々とこれから行う訓練の内容を話す。
「それと並行して軽い戦闘訓練、『畏能』の解説、武器類の扱い方を教えてやる。」
□■□■
地下室トレーニングルーム。
和馬に「付いてこい」とだけ言われ、先程の地下室の部屋から何部屋か隣の部屋に移動させられた。いや、広過ぎでしょ。本当ここどうなってんの? 怖いよ。喫茶店という事を忘れてしまいそうになる。
「先ずは戦闘訓練だ。殺す気で掛かってこいよ? じゃなきゃ死ぬぞ、夏比」
そういった和馬は欠伸をしながらズボンのポケットへ手を忍ばせる。
「舐めやがって……こちとら知り合いの塾で一応なりに武術は習ってんだよ!」
一泡吹かせてやる。そう意気込んみ、深呼吸をして、息を整える。
教えて貰ったのは型も技もない不思議な格闘術だったが、対応力に優れた物で合気道に近いものらしい。
思考を落ち着かせ、身体の中の空気の循環を全身で感じ取る。
よし、行ける。
一気に間合いを詰めて拳で突く。
初撃は躱された。透さずに次の一手へ繋ぐ。
次。
二。
衝。
継。
襲。
終。
全ての攻撃を躱された。
全く当たらず、まるで自分が明後日の方向にわざと空振らせているように感じる。
直ぐさま次の攻撃へ移ろうと脚を踏み込もうとした時、和馬が口を開く。
「最後に『畏能』について説明する。説明途中だろうが関係無く掛かってきていいぞ。説明を始めたらこちらからも手を出すからな」
言うが早いか和馬は話を聞こうと手を緩めた俺の胸めがけて足を蹴り上げた。それをギリギリの所で躱して、そのまま少し間合いを取る為に数歩下がる。
「この世界には『ニィール》』と呼ばれる生命体が存在するのは知って居るな?」
その名前を聞いて相槌を打つ。
ニィール。それはラスゲに置いて、他ゲームでのダンジョンに出るモンスターといった位置づけである。
姿形は様々で石ころの様なものから人型まで多種多様な種類が発見され、生物学で言うところの3界説の4番目という設定らしい。正直説明されても何言ってんのかよくわからなかった記憶しかない。
ニィールは最大の特徴として心臓や脳、臓器または細胞を必要としない代わりに『コア』と呼ばれる鉱石の様な特殊な臓器を有しており、個体によっては頭や体の半分が無くなっても動き続ける者もいる。
だが、コア自体を破壊もしくは身体から完全に引き剥がしてしまえば生命活動は停止する。確か、最新のバージョンで今までなんの用途もなかったコアに加工技術たらなんたらが追加されていた様な気がする。後、今後は漢字表記になるとか何とか。
知明らかに睡眠不足の顔で興奮気味に話している友達の姿と共に、自分が知っているニィールの情報を思い出す。
「まぁ、大体は? けど、俺が知ってるのはあくまでゲームでの知識だぞ」
俺の言葉に対して、和馬は話を思い出そうとしているのか、少し目を瞑って考える素振りを見せた後に俺の情報へ補足をする。
その考えてる間も攻撃を避けるの何なんですか? 1発くらい当たれよ、ちくしゅう。
「なら、コアを素材にした『エクトス』の説明からだな。コアはその特殊な力からここ100年前後で研究や加工技術の開発が実用化段階まで進められた比較的新しい技術だ。ただの有害生物と認識されていたニィールもここ近年は重要視される様になって来た。エクトス最大の利点は神言さえ使えない様な人間ですら、きちんと加工技術が施されている物でさえあれば大きな力を手に入れられる所だな。欠点としてはコストが高く着いてしまう事と同時に時間と金がかる事だな。どの様なコアの性質なのか。コアのレートは幾つなのか。どんな加工を施すのか。調べるにも加工するにも時間も金もかかる。だからエクトスはかなり貴重な物と言う扱いだ。」
和馬君説明ご苦労。では、質問させて頂こう。頭の中で和馬の説明を往復しながら、話を振る。
「レートったら相場だろ? ニィールやコアにランク付けなんかされてんのかよ」
和馬は頷く。
「まぁ、そうだな。ニィールにもランクがある。そのランクが高ければ高いほど危険度や個体の平均的な強さが変わる。」
そういいながら和馬は何やら手を胸の下辺りまで上げて指をくにゃくにゃと機敏に動かし始める。
その間もきちんと俺の攻撃をよけ次は反撃までし始めた。初心者にもっと手加減してほしいものだ。
「テキストにしてチャットに送っておいてやったぞ」
そう言われてチャット機能がある事を思い出す。
「メニュー。メッセージ、オン。」
言葉で指示を出すと勝手に目の前にウィンドウが現れて指示通りにウィンドウを操作してくれる。本当に音声認識式だ! ラスゲもVRが追加されたらこうなるんかな。そう思いながら開かれたテキスト画面には、『D-1.D-2.D-3/
C-1.C-2.C-3.C-4/
B-1.B-2.B-3.B-4.B-5/
A-1.A-2.A-3.A-4.A-5.A-6/
S-1.S-2.S-3.S-4.S-5.S-6.S-7/
SS/
SSS』と書かれた文字が映し出される。
「えーっと、なになに? でぃーまいなすいち??でぃーまっふっぐっっ。」
読んでいる途中に和馬の蹴りが横腹に直撃する。
「てめぇ……。馬鹿にしてんのか? あ? マイナスな訳ねぇだろ……。後、気を抜いてるお前が悪い。」
クリーンヒットした横腹を摩り痛がっていると和馬に小馬鹿にされてしまう。容赦なさ過ぎでしょ……読んでる時位手加減して……。
「このD〜SSSが強さや危険度の大きさを簡単に表した表だ。SSSに近くなる程強くなるイメージ。
レートは言わば大まかに括り分けされているだけでレート内でも力の強さが個体によって違う。
それをはっきりさせる為にレート内でもランク分けが存在し、レートの横の数値が高いほどレート内の序列が上がって行く。」
和馬は加減する気が無いのか、蹴りを受けてよろけている最中も攻撃を仕掛けてくる。
「うっつ! 危ね。で? 具体的にDレートとかはどれ位の強さなんだよ」
必死に和馬の攻撃を避けながらも質問を投げかける。「これ位、避けれて当たり前だ。手を抜いてやっている内に早くこの動きになれておけ。」
今の今まで手を抜いて貰っている感覚は一切ない。文句を垂れようとした時和馬が話を再開させる。
「Dレートは殆ど被害は無いもの〜大型の動物、近接武器を持った一般人程度。CレートならDレートを制圧できるもの〜訓練を受けた一般兵士程度。BレートになるとCレートを複数人制圧でき、且つ街一個団体を壊滅させることが出来るレベルになる。ここから上のレートになると段違いに強くなって行く。Aレートになると1国家の武装した軍隊を全滅させる程度。Sレートまで行けばAレートとBレート複数人を一度に制圧し国一つを丸々壊滅に追い込める様になり、SSレートを超えるとS-5を2人程度を制圧できるようになる。SSSレートに関しては未知数。力が強力過ぎで他と比べられない程度だな。」
和馬は器用に攻撃しながらテキストに指を刺しながら説明してくれる。
休憩する暇無く説明を聞きながらの攻防。ほんの数分しか経っていないのに体がバテてくる。
「はぁ……はぁ……で……? そのニィールとエクトスってのがどう畏能に関わってくるんだよ」
そもそも畏能の説明してくれるんじゃないの?
和馬はその問いかけでやっと動きを止め、何処からか取り出したペットボトルを投げ渡してくる。それを受け取り地べたにへたり込み、消耗した分のエネルギーを補給しようとペットボトルの中の液体を一気に喉に押し込む。
「さっきまでの勢いはどうした? まぁ、いい。やっと本題だ。畏能に関してはニィール、コア、というものが重要になる。先ず畏能の修得は今まで説明してきた3つの能力で1番簡単だろう。」
そう言いながら和馬も一口ペットボトルに口を着ける。和馬が飲み終わるのを見守る形になり、改めて彼の容姿をじっくり眺める。俺よりは身長が少し低いだろうが、子供っぽさは無く逆に俺よりも大人っぽい印象で、引き締まり鍛えられた綺麗な身体つきの印象は今も変わらない。初めてあった時と違う所と言えば前ほどの、威圧感を感じなくなったことぐらいだろう。
和馬は中身が少しだけ減ったペットボトルのキャップを軽く締め、自分の横へ、然もゴミ箱があるかの様に捨てた。重力によって自由落下したペットボトルが、視界の隅から消えようとすのを目で追うと、ペットボトルが白い何かに開いた穴へ落ちて、消える。
ペットボトルの通り道にはピッタリな大きさの口を開いた白い何か、いや、白いてるてる坊主が居た。
ペットボトルを飲み込み、口を閉じたてるてる坊主と目が合う。
目が合うと同時にてるてる坊主は首に括られた紐を引きずりなが短い脚を必死に使い、ぎこちない足取りで和馬の背後へ隠れようとする。
気になって上半身を動かし、和馬の背後を覗くがそこにはもう何もなくなって居た。
え? え⁇ えぇ? どこ? どこに消えたの? あんなスッって出てサッって消えるの?? ファッ!
そんな事を考えながらキョロキョロして居ると和馬に声を掛けられる。
「おい。いつまでコブラ踊り見たいな事してんだよ。誰も笛を吹いちゃいねぇよ。」
いやぁ、それがですね、あなたの後ろに今……わかった、わかりました、だからそんな睨まないで。
適当な場所にペットボトルを転がしてから立ち上がる。
「で?畏能が何だって?」
腰を落とし身構えてから話の続きを和馬へ振る。
「あぁ、そうだな、畏能を使えるのはこの世界で2種類の生命体のみ。1つはニィールもう1つが尸人だ。どちらも共通して、体内にコアを所有している。才能は器の中身を用いて使用する能力だが、畏能はコアの中身を用いる。ニィールには心臓や内臓を必要としない他の生物とは変わった生き物だ。そのためか器も存在しない。そしてその代わりとしてコアが存在する」
成る程。ニィールのコアは俺らの器、いわば魂みたいのが具現化したものって事か。
「ニィールなら誰でも畏能を使えるのか?」
その質問と同時に繰り出した拳が和馬の髪を掠める。
今まで触れる事すら出来なかった和馬に、当たるまではいかなくとも掠めた。そう喜ぶのもつかの間和馬に顎を蹴り上げられる。
「いや、ニィールで畏能を使える個体はそう居ないだろう。Bレート以上がコアから漏れだすアフリクシオンと呼ばれる霧状のいわば微弱な畏能を多少操る程度だ。
畏能として扱える様になるとAレート以上の個体だけだろう。まぁ、居るには居るって話だな。」
蹴り上げられて仰け反った身体を強引に落とし、転がる。そのまま体制を立て直して、追撃をしようと迫る和馬へ牽制の水面蹴りを披露するもジャンプして避けられてしまう。
「チィッ!! 当たれよ!」
嘆くと高く跳ねた和馬の脚が顔に迫り来る。
「よく避けたな。だが、顎に1発貰う時点でマイナス1点。ニィールとよりも尸人の特有能力という認識で問題ないだろう。尸人はニィールとは違い、すべての個体が畏能を保有している。他の生物やニィールとは違い心臓とコア両方が存在する生物……というより、後天的に生体が変わった人間だな。そして1番大事な畏能の習得だが、尸人になった瞬間に習得し、その能力や規模は尸人になった際の負の感情に大きく影響されている。感情が深ければ深い程能力は強大になる」
話を聞きながら和馬へ蹴りを入れようと足を上げる。
「コアを宿した人間……。それ、本当に人間なのか……?」
「さぁな」
今まで避けていた和馬がいきなり蹴り上げた足を掴み、そのまま肩を押しのける。強い衝撃に体制を崩し、そのまま転げる。浮遊感の後に後頭部へ衝撃が走り、反射的に「ダッッ‼︎」と声が漏れた。
上半身は地面に着き、下半身は和馬に足を掴まれているため、宙ぶらりんな状態で器械体操の背倒立の様な姿勢になる。
「はぁ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ……やべ……もう無理! 限界!」
会話をしながら動き続け、近頃、体育の時間以外の運動をしていなかったせいか肩で息をする。一度止まると疲労という疲労が身体に圧力をかけて動ける気がしない。
息切れをして倒れている俺に溜息を吐いた和馬が何かに気づき声を掛けてくる。
「まぁ、こんなものか。丁度いい、ほら見てみろ、お前の相棒が来たみたいだぞ」
そう言われて、和馬の視線の先、扉の方へ顔を向ける。
開いた扉の先に1人の美青年が立っていた。
「はぁあいっお待たせ。なっちゃんにぴったりの子探してきちゃいました」