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空の神 #1
manegam e in
prologuememory No.1
『湊 夏比の日常』
鳥の囀る早朝。
著作 : 空気
ある住宅街での、とある一室。
イラスト・キャラクターデザイン : 空気
ある部屋のシングルベッド。そこには高校生位の歳の少年が横になっていた。
ベッドの棚に置いてある小さな時計の秒針が首を傾げると、今日の朝で何度目かのサイレンを静かな部屋に送り込む。
少年は目を開ける事もなく時計の頭を叩くと、そのまま薄い掛け布団に手を伸ばし、布団に包まろうと身じろぎするが、目覚まし時計の音が鳴り止むのを待ってましたとばかりに、先程とは別の音が部屋に鳴り響き、少年の二度寝を妨害した。
ここまで睡眠を邪魔されてようやく少年は動き出す。目を開けるのを躊躇いながらも気怠げにゆっくりと起き上がると、手探りで、ベッドの脇でぐちゃぐちゃに絡まったまま放置してあるコードの束の一つ、その先に接続されている最新式の携帯端末を手に取る。
目を擦りながら端末をタップすると、同時に音が止まる。それに少し遅れて少年は端末に耳を当てた。
そして、また新たな音が少年の部屋に送り込まれる。
『おい……お前。今何時だと思ってんだ……?』
少年には慣れ親しんだその声は、先ほどまでの無機質な機械音とは違い、人の声だ。
低い男性の声。その声も少しノイズが走っていて端末から発せられている。
「……? どちらさん?」
今度発せられたのは部屋のベットの上から。どこか気怠気で、覇気はなく、眠たそうな声は機械を通した様子はない。
少年は寝ぼけていて端末から流れている声の主が誰だか分かっていないらしい。
『はぁ…まだ寝てたのか? もう7時40分だぞ?』
端末の向こう側では、風の音、人の声、車の音が溢れ、電話の相手が室外にいる事を説明していた。
少年はまだ状況を把握できずにぼーっと考える。
「……」
『……』
先ほどまで音が絶えなかった部屋に沈黙が走る。
その沈黙を破ったのは端末の方だった。
『はぁ……学校は……?』
端末越しでも分かる大きなため息混じりの呆れた声が、少年をカレンダーの方へと導く。少年は重たい首を横へ向け、壁に掛けられたカレンダーをぼやけた目で凝視する。
今日は平日……。
平日の7時40分……。
学校……。
少年の目が一気に覚めたと同時に、端末から漏れる声の主にも気付く。
「あ……今日学校じゃん……」
『やと気付いたか。 てか俺、もういつもの所に居るんだが?』
「悪い、今から行く」
少年は通話相手にそう言い残し、目もくれずに端末の画面に映る通話終了をワンタップすると、絡まったコードを抜き、ベッドの横に放置したままの青く四角い鞄へ端末を放り込む。
□■□■
頭はボサボサのまま、服は着崩れていて、シワのついたシャツに、学校指定のズボンを履いた少年が階段をそそくさと駆け下りる。
先ほどの端末でのやり取りから丁度10分程度たっただろうか。
少年に余り余裕はなさそうだ。
現在は午前7時50分。
家から20分もかかる学校に通学している一学生がまだ家に居るのだ、焦るのも当然だろう。
駆け下りた階段を尻目に、降りた先の通路側、左手にある扉を開ける。
開けたのと同時に少年は部屋へ走り込む。
急いで入った部屋は十八畳程だろうか、一つの部屋にしては広々としている。
右から大型の液晶テレビに、ソファーを挟んで、大型のテーブル、それを囲む様に椅子が四つ並べられ、キッチンが左側にある。
その四つ並べられた椅子の手前左側に、髪を胸あたりまで伸ばした、まだあどけなさが残っている中学生位の少女が座っていた。
少女は皿に並べられたトーストを齧りながら、部屋に入って来た少年に対して「あっお兄ちゃん遅―い」と親しげに話しかける。
それを完全にスルーして少年は少女に___兄は妹に話しかけた。
「へい、ハル、今日の天気は?」
少年の言葉にはまだやる気は感じられず、眠そうな欠伸をしている。
「んー? 今日? えーっと…じゃあ、晴れで!」
ハルと呼ばれた少女は、少年の問いに元気によく、だが適当そうに返事をする。
「じゃあって、なんだよ……俺のスマホのAIの方が正確に答えるぞ」
少年はそう呟きながら、最初から少女に期待してなかったのか、既にテレビ画面の左上に映し出される時刻表のすぐ隣、天気予報欄を見ている。
液晶画面には丁度少年の住んでいる地域の天気が表示され、〈晴れ〉と分かるように太陽のマークがニコニコと笑っている。
それを少女も見ていた様で、「おっ! 私の勘当たってんじゃん!」とケラケラと笑う。
少年はそんな少女を横目に見ながら、やっぱ勘かよ……と一応つっこんでおく。コレがこの兄弟のコミュニケーションなのだ。
『__えー最近多発している連続特殊失踪事件ですが、4年前に失踪した双子のものであると推測される靴が富士の樹海で発見されており__』
『__行方不明者はまだ一人も見つかっておらず、不可解な事も多いことから、警察は誘拐と集団失踪の両方を視野に入れて捜査を進める方針で__』
『__外出する際は充分に気をつけて下さい__』
下らない兄妹の会話を気にする事もなく、液晶画面に映るアナウンサーは最近起きたある事件の原稿を淡々と読み終わると、周りの出演者や専門家に話しを振っている。
「最近また、行方不明者多いよな?」
少年は少女にアナウンサーが話していた事件について話を振る。
「だよね〜お兄ちゃんも気をつけなよ?」
そんな稀にある事件の話していた兄妹の片割れはあることに気付き、自分の兄に対して過現実を突きつけた。
「てかさ、お兄ちゃん。 学校は?」
「……」
数秒の沈黙。
少年には余りに厳しい現実だった。
少年は妹のコップに入っていた牛乳を一気に飲み干すと、急いでリビングから抜け出す。
リビングを出てすぐ左、階段とは逆方向にある玄関へと向かう。 履き慣れたボロボロのランニングシューズを履き終えると、後ろの方から「私のコップ勝手に使うなー!」と少女の叫び声が聞こえるが、少年は御構い無しに玄関の扉を、この家で一番分厚いであろう扉を開け放つ。
□■□■
六月下旬。
梅雨の時期には珍しく晴れ間が続いている最近だが、暑苦しくもなく、少し乾いた風が心地よく少年の肌をすり抜け、髪の毛をふわふわと弄ぶ。
風を浴びている当の本人は、そんな季節の情緒を堪能する余裕はなく、先ほどの電話相手の待つ「いつもの」集合場所へ向かって疾走中だ。
少年はしばらくの間家の前に隣接する大通りを真っ直ぐ学校方面へ走り続けると、集合場所の目印である傾いた電柱が目に入る。
そこには既に先客がおり、高校生位の少年が斜めに刺さった電柱に凭れ掛かっている。
「はぁ……はぁ……ぜぇ……はぁ……ぜぇ……わ、悪い旭……寝過ごした」
少年は荒い息を整えながら、待っていた少年に平謝りをする。
「ハァ……まいい…毎日、毎日怒ってるのも飽きてきた」
旭と呼ばれた少年はきつく釣り上がった目を光らせ、周りを常に警戒した様な雰囲気で投げやりに少年に言葉を返す。
旭と呼ばれた少年はこの態度のせいで、よく不良に間違えられたり、絡まれたりと周りの気苦労が絶えないが、本人は余り気にしてない様だ。
倉橋 奈央曰く、狩野 旭は全体的にツンツントゲトゲとした近寄りがたい雰囲気を醸し出していて、それに加え、左目の特徴的な二つの傷跡がより近よんじゃねーよオーラを出しているらしい。
そんなモノローグを自分の中で形成する少年はある事に気付く。
「そういやば光輝は?」
少し強面な旭に、少年は待ち合わせをしているもう一人が見当たらず、周りを見渡しながら話しかける。
「そう言えばまだ来てないな」
そう呟く旭は待ち合わせ場所に時間通りに到着しているのが自分一人な事に頭を抱えた後、怒りを通り越しているのだろう、ため息混じりに両手を胸の位置まで上げて見せてから首を振ってみせる。
「遅くね? どったよ」
少年は旭の反応に、台詞だけで全く心配してなさそうな声で対応する。
「知らね。昨日の夜に、そこらのリア獣と一緒に爆発したんだろー? それよか早よがっこ行かねぇと遅刻しちまうぞ」
既に待ち合わせ場所で随分と待たされているのに、やっと1人来たと思ったら、今度はもう1人待たなければならないのが気にくわないのだろう旭は、冗談混じりに文句を漏らした後、少年を急かす。
「そうかもな、そうだよな、それしかないまであるから、そう願おう」
少年も旭の冗談に乗っかり、光輝と呼ばれる同級生の事を少し雑にからかうと、旭と少年は相槌だけ交わし、学校の方へと歩き出す。
□■□■
歩くこと10分頃、少年達の目的地である学校が見え始めた。
「おーーい! 待つっすっっっっ!」
少年達の後ろ、二人が歩いて来た方向から何かが迫ってきている。
すさまじいスピード追って来た人物に、旭は物凄い形相で睨みを利かせていた。
「ひっ!」
少年には何処からかそんな悲鳴が聞こえた気がした。
「うおっっ! こっわっ! どうしたんすか? そんな怒っちゃって」
気は抜けているが、声優やアナウンサーが話している様な美声で旭への感想を漏らしながら、追いかけて来た少年は二人のすぐ後ろまで来ると、二人のペースに合わる様に一緒に歩き始めた。
「光輝、遅いぞ? また寝坊か?」
どうやら追いかけて来た少年は、先程少年達と待ち合わせをしている筈だったもう一人の人物らしい。
「いやぁ〜寝坊したのは事実なんすけど……なんか来る途中で女の子の軍団に足止め食らちゃって。んで、いつもの場所行ったら誰も居ないんすもん」
敬語としてはあまりに雑な言葉使いで今朝あったことを話しながら光輝は「もぅ、大変だったんですからね〜?」と、わざとらしく肩を落とす。
勿論本人に悪意など微塵もないのだが……。
「あー! うぜ」
旭は心底嫌そうに顔を引きつらせる。
「寺島 光輝君は天然の金髪で御顔も良く、総合成績は138人もいる学年のトップ20以内。運動成績は学年でトップ三に入る資産家のおぼっちゃまは、ファンクラブの出待ちが理由で知り合いとの待ち合わせに遅れる程すごいとは。いいごゴミぶんですね」
少年も同じ表情で光輝に嫌味を言う。
「酷いっすよ! 二人ともぉ! 被害者っすよ、俺! あと、ご身分の所は悪意しか感じなかったんだけど」
光輝は必死に反論するが、途中で無意味だと知り黙って二人に着いて行く事にした。
□■□■
校門まで来ると三人を中心に車道を塞いでしまう程の集団が出来上がっていた。光輝のファンが殆どを占めているようで、三人が移動するのもやっとだ。
人の数の多さに車道を塞いでいるため、車も移動することができずに渋滞ができる。そんな人集りができれば他の生徒も登校できなくなるので更に人は増えている一方だ。
人混みにもみくしゃにされて少年と光輝は全くこの渋滞に気付けなかったのに対して、周りに何故かできた人一人分のスペースのおかげで状況を把握していた旭のひと睨みにより、一瞬で渋滞はなくなった。
□■□■
校内、下駄箱。
ラブレターがパンパンに詰まった下駄箱を開け、溢れ出す手紙にあたふたする光輝を置き去りにして、少年と旭は階段を上ろうとしていた。
「おっすっ! 夏比! 旭!」
少年達二人は、背後から明るい声とともに小さい手のひらに叩かれる。
少年が振り返ると、髪を軽く巻き左目と唇の左下にホクロがあるのが特徴の背の低い活発そうな女の子がニコニコしながら二人に手を振っている。
「おう、倉橋。今日も無駄に元気が有り余ってて羨ましいんだけど、地味に痛いから叩くのヤメテ」
少年__湊 夏比は皮肉なのか、お願いなのか分からない挨拶を少女に返す。
「無駄とは何さ、失礼な! 夏比はさ、な〜んでそんなに捻くれてるかなぁ?」
少女__倉橋 奈緒は何も気に留めていないようで、わざとらしく顔だけ膨れてみせる。
「いつものことだろ? もう諦めろって」
慣れた様子で二人の会話にツッコミを入れる旭の様子を見て倉橋は「そうだね」とクスクス笑う。
そんないつも通りの下駄箱での会話後、三人は階段を登り始める。
「ところでさ〜、毎回思うけど、光輝の下駄箱さ、ラブレターあんなに毎日パンパンに詰まって壊れたりしないの?」
「「あれ五回壊れてる」」
素朴な疑問を投げかけた倉橋に、二人は迅速に息を合わせ、無表情だが僅かに苛立ちの篭った声で答えた。
三人が階段を登り終えると学校の至る所に設置されているスピーカーから、校内放送の合図であるチャイムが鳴り響き、学校全体にこだまする。その音が鳴り終わると、放送委員の生徒が聞き慣れた朝の放送を始める。
朝の日課である放送は順調に終わると、また校内放送の合図であるチャイムを学校中に響かせ、何事も無かったかの様に音は止まる。
放送が終わる頃には、時計の針が午前8時10分を指していた。
放送終了を合図に学校全体の廊下に居た生徒は別クラスの友人へ挨拶を交わし、別クラスで駄弁っていた生徒も各々の教室に戻り始めた。それを見て、夏比達も自分たちの教室へと別れていく。
結局光輝は遅刻した。
□■□■
午前の授業が終わり、昼休み。
学校全体は生徒たちの賑やかな声に包まれていた。
2−1と書かれた看板が張り出された教室に夏比と旭、光輝が椅子を寄せ合って、とあるゲームについて話し合っていた。
「見たっすか? 昨日のラスゲーのアップデート0.10.0.0の公開情報! ついに新スキル詠唱破棄と0.7.46.4からのアイテム、コア武器の強化機能が、念願の導入決定!」
興奮気味に話す光輝の目には若干のクマができていた。
「お前…まさかとは思うが、そのせいで寝坊かぁ?」
光輝のクマに気付いた夏比は、呆れ気味に光輝に揶揄いながら言い寄る。
それを見ていた旭に、ジト目で見られた光輝は「ギクっ?!」と声に出し、分かりやすい反応をする。
「ゲームで寝坊って、馬鹿なの? 流石の俺でも途中まで見て、後は録画ソフト回したぞ……」
夏比は、自分の寝坊が光輝に知られてないことに、ドヤ顔をしながら自分を棚に上げて行く。
「お前も見てたのー」
「ちっ! ちっ! ちっ! 甘いっすね! 夏比! 本当のファンというものは録画回しながら生でも見て、次の日には暗記しとくもんすよ!」
夏比の発言に呆れをとうに通り越したなんとも言えない表情の旭がツッコミを入れようとするが、光輝の声で遮られてしまう。
「限度を考えなきゃ…この馬鹿みたくなるがな!」
自分の声を遮られた腹いせと言わんばかりに、横目で睨む旭にトドメを刺された光輝が「グフォ!」と喚きながら膝から崩れ落ちる。
夏比達が熱く語っているのは、日本だけで約3000万人のプレヤーがこのゲームをダウンロードしているといわれている正式名称をLAST GAME project(仮)。略称名称はラスゲーと呼ばれる大規模多人数同時参加型ロールプレイング。いわゆるMMORPGと呼ばれるPCゲームだ。
中高生〜40代と幅広い年代の間で人気を誇り、サブストーリーの豊富さ、設定の濃さ、グラフィックの綺麗さ、自分だけのアバターを細かく作れる事に加え、箱庭要素も備わった自由度の豊富さを売りにした作品で、ゲーム名に(仮)と着いているのは「このゲームの完成版にはvirtual reality機能が埋め込まれる予定となっていて、virtual reality機能が搭載していなければ完全版とは言えない」と言う公式サービス会社の発表から来ている。 このゲームが完成すれば世界初、視界だけではなく、神経全体で味わえる完全virtual機能のゲームとなるため、ゲームユーザーは勿論のこと、各国の技術者にも注目を集められている作品だ。
夏比もまたそのゲームのプレイヤーであり、二人の話について行ける程度の知識は持ち合わせている。
ゲームの話を熱く語っている内に昼休み終了の合図のチャイムが学校に鳴り響く。それに気づいた二人は夏比の周りから各々の席へ戻っていった。
□■□■
午後の授業が終わり、ホームルームも済ませた下校中。
夏比、旭、光輝、倉橋の四人で下校していた。四人は毎日学校帰りに倉橋の父親が経営している喫茶店に集まっていて、この面子での下校は習慣になっていた。
旭が光輝にガミガミ文句を言い、倉橋がそれを見てクスクス笑う、夏比が無駄な一言混じりに止めに入る。そんないつも通りの帰り道。
いつもと違う事があるとすれば、夏比がふと、不自然なことに気が付いてしまった事だろうか。
妹の春比が小さな、それも人が一人入れるかかどうか程の幅の路地裏に入っていくのが見えた。
路地裏に春比が入るのもおかしいが、何より今日、春比は修学旅行に出かけていてこの街は当然、県内にすら居ないはずだ。
夏比は妹が路地裏に入る瞬間、何か不気味な寒気に似た感覚に襲われ、今、胸にあるモヤモヤとした感情を晴らすべく、仲間に問いかける。
「なぁ、今、ハルがあそこの路地裏に入って行かなかった?」
その問いかけに他の三人は何かが喉に引っかかる様な違和感を感じたが、そのことに夏比は気付くはずもない。
「は? 何言ってんだよ。今日から春比ちゃんは修学旅行なんだろ? 見間違えだろ。」
旭の言う通り見間違いだと思いたいが、自分が見たのが見間違いだとも思えず、路地裏へと向かう足を速める。
「やっぱ俺、気になるから、ちょっと見てくるわ」
夏比の足が次の一歩を踏み出そうとした時、光輝に肩を掴まれて、夏比は繰り出した足の踏み場を失ってしまう。
「あの路地裏って行き止まりだし、このまま歩いて行けば覗けるんだから、今行かなくても良くないっすか?」
三人は、夏比が路地裏へ近づけば近づく程に、自らの違和感が、段々と不安感へと変わって行くのに気付き、光輝に続いて他の二人もそれに賛同し、夏比をやんわり引き留めようとする。
「な、なんだよ…なんでちょっと軽く本気で止められてんの? 怖いよ。 逆に直ぐそこなんだからすぐに追いつくでしょ。」
そこまでして、やと光輝が手を離す。
「そ、そっすよね〜。あははっ。 なーに焦ってんだろ、俺。あー、でも、ほんと、気を付けるんすよ?」
念押しする光輝に「わーかったよ」それだけ伝えて、倉橋に鞄を投げ渡すと、路地裏へと向い、駆け出す。
□■□■
早く向かわなければと言う使命感と、何か嫌な、モヤモヤとした違和感と振り払おうと、俺の足は普段軽く走るよりも少しだけ早まっていた。
路地の角を曲がり、駆け込む様に路地裏へと足を踏み入れる。
駆け込んだ先。視界に入ってきたのは、普段そこにあるはずの路地裏の光景ではなく、空を遮る物がある訳でもないのに、陽の光すら届かない様な真っ暗な暗闇が広がっていた。
□■□■
夏比が路地裏へ入った瞬間の周りの不自然な程の静けさは、三人の不安感を煽った。
三人は何かを発するでもなく一斉に駆け出し、夏比が入って行った路地裏へと顔を覗かせる。
路地裏へと入った三人の視界に映るのは、数メートル先で巨大な壁に阻まれ、人一人がギリギリ入れるかどうか程のなんの変哲のない小さな路地裏だった。
唯、そこには湊 春比の姿は勿論、湊 夏比の姿は無かった。
ロード中………
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ロード中…………………