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空の神 #8
maingame in
Fifth memory 1
『したごしらえ』
暗い部屋で1人の美青年がホログラムに映像を写しながら辞書程厚いカタログを軽い音を立てて捲る。
モニターの向こうでは10代半ばの少年2人が長文を復唱しながら何かの暗記をしているのが見受けられる。
どうやら自分はこの部屋で寝ていた様だが、なぜこの部屋にいるのか、頭がぼーっとしていてよく思い出せない。
目前で寝ている仲間を起すため手をついて立ち上がろうとすると身体に痛みが走る。
自分の身体を見渡すと赤黒く濁った半透明な棘が身体中に巻き付いていた。
なんだよコレ……。
動けば動く程に棘は身体中に絡み着き体を蝕む。
どうにか抜け出せないかと試行錯誤していると背後から男性の悲鳴が聞こえる。
この声は聞いたことがある。
あれはボスの声……何で……何でボスが悲鳴をあげるんだよ……! そこまできてようやく視界の端にいた美青年がいない事に気がつく。
「辞めろ……! 辞めてくれ……! 何だ! なんなんだよテメェがぁぁぁぁぁ! ぐぎゅぅぅぅぅぅぅあぁあぁぁぁあ! …………はぁ……はぁ……はぁ……。もう、もう嫌だ! 嫌だ! 一層の事殺ゼッ! 殺してぐでっ……!」
聞くに耐えない声と何かが裂ける音が混じり合って余計な考えが頭に浮かぶ。
耐えきれずに目を強く瞑った。
何かが近くで落ちた様な音と背後から鳴り続ける肉が裂ける様な不快な音が耳にこびり付く。
大丈夫。大丈夫。大丈夫。と自分に言い聞かせ、何とか頭の中にある恐怖のビジョンを振り払うと瞑っていた目をそっと開ける。
そこには決して顔立ちが良いとは言えない、どう見ても不細工な顔。歯はボロボロで明らかに数週間も風呂へ入っていない様な何とも言い難い匂いを放つ口臭。いつも見ている、いつも嗅いでいる。自分ら盗賊の長の顔だけが、ポツリと自分の目の前で自分と目を合わせている。
「ひっ……………‼︎‼︎‼︎」
目の前の光景に思わず口から勝手に音が漏れる。
自分の声に反応したのか、背後で鳴り続けていた耳障りな音が止む。
足音が近づく。
自分の真後ろまで来た足音は止まり、自分の顔の上に影を作る。
恐る恐る上を向くと、美青年がこちらへ顔を覗かせていた。
メッシュの入ったサラサラで上品にセットしてある髪がひらりと垂れる。
顔立ちもハッキリとした美青年の肌は白く、そこに着いたペンキで塗った様な真っ赤な血が段々と垂れて、自分の顔に一滴落ちる。
不気味を取って付けた様に笑う青年は青く透き通る瞳で此方を見つめ続けている。
「あら、お目覚め? おはよう。」
青年は笑顔のまま手に持ったノコギリを振り上げる。
「辞ベッ………………‼︎」