人工知能（AI）とアルゴリズムの活用により薬物の検出方法が改善（アメリカ）

　人工知能（AI）は社会でますます活用されるようになり、競馬界でも存在感が増しつつある。

　メアリー・ロビンソン博士（ペンシルベニア大学獣医学部ニューボルトンセンター獣医薬理学部助教授・馬薬理学研究所所長）は1月28日（火）のペンシルベニア州競馬委員会（PSHRC）の会合で、ペンシルベニア州馬毒物学研究所（PETRL）の年次報告を行い、PETRLが競走後検査で薬物の検出を改善するためにどのようにAIを役立てているのかについて説明した。

　PETRLは馬の血液や尿に含まれる多数の薬物を特定する方法を開発してきた。また、競走馬の血漿あるいは尿サンプルの中に存在する禁止薬物をスクリーニング・確認・定量化する新たな手法を開発し続けている。

　ロビンソン博士は、PETRLの機密リストに記載されている数百もの対象薬物の識別プロセスを容易にするのにAIの活用がどのように役立っているかを説明した。

　「リストに記載されている薬物の主な識別特性を調べ、検査に送られてくるサンプルのなかにその特性が見られるかどうかを確認するのがAIの仕事です。これにより、サンプルのすべてのデータをひとつひとつ手作業で調べていたために生じていた時間の浪費を軽減できます。数年間にわたって取り組んできた末の大きな改善です」。

　PETRLのリストに記載されていない対象外の薬物を検出し、馬に投与された薬物を特定するためにAIが活用されることもある。どのような薬物が投与されたか正確に分からない場合に有効である。この研究はペンシルベニア大学獣医学部の馬法医学化学部門の研究教授であるフユ・グアン（Fuyu Guan）博士が主導した。

　ロビンソン博士は、「グアン博士は数学的アルゴリズムを考案しました。これにより“対照サンプル”と“薬物が体内にある馬のサンプル”を比べることができます。すると、実際に体内を調査するよう機械に指示しなくてもそれらの薬物を特定できるのです」と語った。

　アルゴリズムは、関心のピークを示すために特定された２つのパラメータを使用する。

　ロビンソン博士はこう続けた。「どのピークが重要か、どのピークが独特なものか、的を絞る必要があります。私たちは競走後にサンプルを採取し、物質が含まれているものと含まれていないものを調べ、通常そこに存在するものと存在しないものを判断しようとしています」。

　「全データ群を収集し、それらを照会してコンピュータがどのようなパターンを見つけられるかを確認するような作業です。結局のところAIとはパターン認識にほかなりません。コンピュータは膨大なデータの中のパターンを識別し、私たちの脳では容易にできない方法で、ひとまとめにして提示してくれるのです」。

　グアン博士が主導した研究論文は2021年5月発行の『分析化学』（Analytical Chemistry）に掲載された。

　また別のプロジェクトでは、ペンシルベニア大学の博士研究員として薬物規制標準化委員会（RMTC）とPSHRCから支援を受けるベサニー・キーン博士がメタボロミクスを用いてビスフォスフォネートを検出している。

　メタボロミクスはアメリカ国立衛生研究所（NIH）により新興分野とされており、生体試料中のすべての代謝物と低分子量分子の包括的測定と定義されている。ビスフォスフォネートは、破骨細胞（損傷した骨を破壊する細胞）の活動を阻害する医薬品である。

　ロビンソン博士はこう述べた。「骨の破壊を阻害することで、その部位の骨量を増やすことができます」。

　「ビスフォスフォネートは馬の舟状骨疾患（前肢の舟状骨に影響を及ぼす慢性退行性疾患）の治療薬として承認されています。これを発症すると骨に穴が開き、まるでスポンジのようになってしまいます」。

　「この薬品を使用すると、その部位の骨量が増える可能性があります。残念ながら、若馬にビスフォスフォネートが使用されていることも認識しています。セリに上場する若馬のレントゲン写真をよく見せるために使用されることもあります。競走馬へのビスフォスフォネートの使用は禁止されており、いくつかの検査でこの薬品を検出できます」。

　しかし、ビスフォスフォネートの検出が難しい場合もある。この薬品は骨に付着し、非常にゆっくりと放出する傾向があるからだ。そのため血中に含まれる量がかなり少なくなり、競走後検査で検出が困難となる。キーン博士はビスフォスフォネートで治療された馬とそうでない馬を識別するのに役立つ数学的モデルを開発している。

　ロビンソン博士はこう述べた。「薬品そのものではなく、馬体への薬品の影響を見るためのモデルです。これにより、治療を受けた馬とそうでない馬を区別できるのは本当に素晴らしいことです。ビスフォスフォネートそのものが検出できない場合でも、この薬品に曝露した可能性のある馬を特定するためのもうひとつのスクリーニングツールとして使用できる可能性が生まれるのです」。

By Sean Collins

［bloodhorse.com 2025年1月28日

「AI, Algorithms Helping to Improve Drug Testing in PA」］