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春の海から始まるあの子との物語

「海に行きたい!」

そのひとことからすべてが始まった。

振り返れば、そういうことなんだ…と。

あれは、まだ肌寒い季節。
桜が咲く前、だったね。

なぜ海だったのかはわからない。

駐車場にいたハトたち。
砂浜に降りて、濡れないように
岩場を飛び遊んだね。

そんな何気ない時が流れた。

あの子の記憶のなかに
あんなに強烈な思いとして残るなんて
考えもしなかったし、意識もなかった。

環境に慣れるために、できる限り
思いを叶えてあげたいという思いだけだった。

父親の影を見ているんだということに
段々気づいてきたけれど
まさかそれが、とてつもないはやさで
恋する気持ちに変わっていくなんて
まさに想定外だったんだ。

いや、それは単なるモテないおっさんの
勘違いだったのかもしれない。

勘違い?

幻想か?

それとも、恋じゃなくて依存だったのか?

中年になるまで、性的少数者だった自分には
女の子との免疫が皆無だし
わかってあげることできなかった。

さらに、ずっとずっと年下で
全く違う世代を生きてきたってのもあるし
彼女のその想いがいっぱいに膨れ上がるまで
なんにもできなかった。

ただ心に傷を負わせてしまっただけ。
なのかもしれない…

「もう一回ふたりで海に行きたい」

叶えられなくて本当にごめんね。

あれから2年の月日が流れた今
心からそう思う。


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