見出し画像

日傘男子とジェンダーフリー。

日傘男子が広まっています。
環境省がクールビズの一環として男性の日傘利用を推奨する時代となったこともあり、街でもスーツ姿に日傘を指す男性が多くなりました。
デパートでも男性用日傘のコーナーが開設されるなど、これからますます普及していくことになりそうです。

ひと昔前までは、真夏の炎天下でも日傘を指す男性の姿はほとんど見られませんでした。
「日傘は女性のもの」という社会通念が一般的で、男性が利用するのは「男らしくない」という感覚がありました。
そんな“古風”な考えも、今ではも古いのかもしれませんね。

今では、学校教育の場でも日傘が推奨されています。
日傘は子供たちの熱中症対策としても有効で、うまく活用すると体感温度が2℃から3℃下がるといいます。
女子もちろん男子に対しても、教育現場で正しい活用が進められつつあります。
世界的な温暖化の影響で、真夏の屋外では30℃どころか35℃に迫る日もあり、文字どおり健康を守るためにも必要なアイテムですね。



なぜ男性は日傘を指してはいけなかったのか?
日傘の歴史を紐解くと、そんな社会通念はそもそも普遍的な価値でも何でもなかったことが分かります。

その昔、日傘は権力者である男性のシンボルでした。
日本でも古来から天皇や皇室が用いていたことが知られ、権威の象徴として儀礼的な役割をはたしていました。
それが平安時代の頃からしだいに実用化されはじめ、鎌倉時代や室町時代になると庶民も利用するようになっていきました。

江戸時代になって大衆文化が興隆すると、江戸や京都を中心に老若男女に日傘が流行し、とりわけ将軍綱吉の絢爛豪華な日傘は全国に知れ渡っていました。

ところが相次ぐ飢饉や財政悪化によって倹約令が発布される世の中になると、華美な服飾の象徴である日傘も幕府の規制の対象となり、日傘禁止令が敷かれることになります。
ここで禁止されたのは大人の日傘利用であり、子供の利用は例外として認められました。男性だけでなく、原則として女性の利用も禁止されていた点は、興味深いところです。

時代が幕末に近づくとしだいに規制は緩和の方向に向かい、大人も日傘を指すようになりますが、服飾の一環として日傘を用いたのは女性だけでなく、男性の姿も見られました。



男性は女性のもの。男性が使うのは好ましくない。
このような文化が根付いたのは、明治時代以降の軍国主義の影響からであり、その歴史は意外にも浅いことが知られます。

文字どおり、富国強兵の国策によって欧州列強に追いつき、追い越そうとすることが国民全般に求められ、「男は男らしく」「女は女らしく」という社会通念が国家主導によって強化されていくことになります。

そして日本は目覚ましい経済発展を遂げ、アメリカや西欧諸国と肩を並べる国になりましたが、結果として多くの国民の犠牲を伴い、強力に推進された国策のしわ寄せが後世にも残ることになりました。



それから日傘男子が出没して、国が推奨する時代になるまでじつに70年以上。あまりにも多くの月日がかかったと感じるのは私だけではないと思います。

上でみたように、何となく昔からの常識だと思われているようでも、実際には特殊な戦争の時代にできた慣行に過ぎないということが、日本でも数多く存在します。
日傘は、その典型的な例かもしれませんね。

ジェンダーフリーの時代。機能面はいうにおよばずファション的にも使えるアイテムである日傘を、男女問わずに有効活用していきたいものです。

「男性なのに・・・」
という時代は、もうとっくに終わっていると思います。

学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。