認知症老人をうっかり拾ってしまった
※2017年1月の記事をピックアップしました。
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先日の夜のこと。裏のマンションの1階に佐川急便とヤマト運輸さんが入っている。
不在通知が入っていると、再配達も近くて申し訳ないので、そこに荷物を取りに行く私。
叔母から卵やプリンを大量にいただいたので、その大きい荷物を持って歩いていたら、お婆さんに声をかけられた。
「あの、武蔵小山はどこですか?」
「駅ですか?あっちの方になりますが」
「あの、私、家がわからないんです」
「えええええええええ!?」
お化粧をきれいにしているし、着衣の乱れもない。
一見、認知症のようには思えないんだけど……。
この日の私は、朝は幼稚園のコンサートで歌って、ハイヒールに長めのスカートのまま午後から職場で仕事してた。
子どもたちは学校から職場に来てもらって、仕事が終わり次第一緒にマンション帰って。
郵便受けに不在通知があったので、子どもたちだけ先に部屋へ入れて、私は佐川急便さんへ行ったという状況。
時刻は20時前。辺りはすっかり暗い。
一瞬、110番しようかと思ったんだけど、とにかくもう少し話を聞いてみることに。
「ここまでどうやって来ました?」
「よくわからないの……」
「お名前は?」
「○○○子」←けっこうはっきり答えた
「電話番号とかわかりますか?」
「045-○○○-○○○○」←これもはっきり答えた
慌てて、今度は目の前のヤマト運輸さんに飛び込み、ボールペンを借りてメモする。
え、045って横浜とかじゃないの?
どうやって来たんだ……。
とりあえず、その番号に電話してみる。
そしたら、ほどなく旦那さんが出た。
聞けば、奥様は認知症があって、いないことに気付いたので、探していたところだと。
家の場所はあざみ野。
こちらが武蔵小山だと伝えると、どうやって行ったのだろうとかなり驚いておられた。
どうやら迎えに来るのは難しいらしい。
だとすると、警察に連絡するのは気の毒だよなぁ。きっと迎えに来てくれって言われるだろうから。
「困ったな、どうしよう。えーっと、仕方ないのでタクシーに乗せてもらえますか。」
と、かなり迷ったあとにそうおっしゃったので、住所を聞く。
タクシーだと1時間ぐらい? 7000円-8000円はかかる。
「あの、どうして武蔵小山にいらっしゃるんでしょう?」とおずおずと聞いてみる。
すると「女房の実家があるんです。今は親戚が住んでいます」とのこと。
どの辺りか聞いたら、住所は小山台でかむろ坂だという。
自転車だと10分かからないぐらいか。なんだ、近い。
「差し支えなければ、そちらにお送りしましょうか?」
「え、ほんとですか!そうしていただけると助かります!」とのこと。
とりあえず、私はこのままじゃ動けないので、荷物を置きに自分のマンションへ。でもお婆さんから目が離せないので、ついてきてもらう。
ところが、歩きが遅い。5歩ぐらい歩いては休憩する感じ。
途中で「荷物を持って欲しい」と言われる。
見ると、スーパーの袋に果物が入っている。けっこう重い。
この人、これ抱えてどれぐらい歩いていたんだろう……。
マンションのエントランスに荷物を置いて、帰りのことを考えて自転車を出して押して、一緒にかむろ坂方面に歩く。
本当はヒールを履き替えたかったけれど、お婆さんから目を離すのが怖い。
ここですぐに、タクシーにしたほうが良かったかなぁと思ったけれど、タクシー乗り場まで行くのも、かむろ坂に行くのも変わらんだろうと、歩くことに。
歩きながら、娘たちに電話。次に仕事場の夫に電話。「ごめんね、ご飯作るの遅くなるよ」。
夫はあきれていたけれど、仕事で身動きできないから、「気をつけてね」と。
話をしながらゆっくり歩く。
聞けば、年齢は78歳とのこと。旦那さんは10歳年上の88歳。
老々介護の現実……。
5歩行くと、立ち止まって話に夢中になるので、時折「歩きましょうか」と言う。
しっかり話はするけれど、やはりどこかチグハグなところがある。
普通なら15分から20分かからないような所を、40分以上かけてかむろ坂に着いた。
旦那さんから電話を受けたご親戚の年配の方と、若いお嬢さんが待っていてくれた。
「おばちゃん、すごい久しぶりよね。大丈夫?」と声をかけていたところを見ると、あまり普段の交流は無いらしい。
親戚の方からも、旦那さんからも、御礼をしたいからと何度も住所を聞かれたけれど、丁重にお断りする。困ったときはお互い様だ。
その後あわてて、自転車で子どもたちが待つ自宅へ。
ヒールで歩いた足がパンパン。普段の運動不足が身にしみる。
何時間あのお婆さんが歩いていたのかわからないけれど、事故がなくて本当に良かった。
そして、自分への戒めとして書くが。お婆さんの身体の負担も考えて、こういう場合は近距離でもタクシーを使うほうがいい。
そのためにも、タクシー会社の電話番号は常に持っておかないとな。
とにかく、認知症の人と歩くのは、幼児と歩くより大変だというのはよくわかった。
認知症は老人だけとは限らない。それにいつかは行く道。明日は我が身。
老いというのを、急に身近に感じた出来事だった。
(長文を最後まで読んでくださった方、ありがとうございました!)
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最近、ご高齢の方の迷子が増えているので再掲しました。
当時の私はガラケーで、タクシーアプリなどはなく。
こちらの経験不足で、不測の事態に備えられてなかったので「うっかり」と書きました。
このご高齢のご夫婦が、今も健やかに過ごされているといいなー。
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