SHEINで物を買う後ろめたさ
SHEIN(シーイン)はZ世代から爆発的な人気を得ているECアプリだ。自社ブランドで洋服や小物の製造を行っている。私はZ世代というよりZ戦士世代だけど、すぐにサイズの変わる子ども服とかをたまに買う。最近、SHEINの時価総額は、ZARAとH&Mを合わせた額を越えた。
利用者なら分かると思うけど、なんと言っても安い。そして商品点数が多い。Amazonや楽天での買い物体験とは異なり、まるでアジアの夜市で宝探しをしている感覚になってくる。ちなみに、破損したり色落ちしたりするケースも多いらしい。それもまた夜市っぽい。
ただし夜市とは異なり、SHEINはAIを武器に戦うゴリゴリのテクノロジーカンパニーだ。TikTokやインスタグラム等のSNSから、動画と画像をクローリングし、流行の傾向を分析している。その分析結果から、商品をテスト生産するけど、失敗しても良いよう最小ロット数は100着だという。このロット数はアパレル業界では異常に低い数値だ。
通常、このロット数では売れても利益を生まないが、AIが徐々に賢くなり、今では「当たる」商品を高い確率で予測できるという。そして当たった商品だけを大量生産し、外れた商品はすぐにアプリ上から消してしまう。その結果、低価格でありながら、ファッション性の高い新商品を毎日のように追加できている。このサイクルを阻害する要素は極力持たない。実店舗も当然ない。
ファストファションという言葉があるけど、SHEINはそれを越えたウルトラファストファッションと呼ばれている。当然、大量生産・大量消費の申し子であるSHEINは、サステナビリティのトレンドに逆らう企業として非難されている。
少し話は飛ぶけど、消費活動の拡大を前提とする資本主義は、既に限界を迎えつつあるという指摘がある。モノ余りの時代と言われ、地球環境の限界が見え始めた現代では、持続的な消費活動の拡大を期待できないという考えだ。こういう指摘に対して、取り得る立場はだいたい次の2つしかない。
加速主義 … テクノロジーやマーケティングによって消費活動を加速し、さらなる経済成長を目指す立場。
減速主義 … 無理な消費活動の拡大をやめ、経済成長の減速を目指す立場。
SHEINは加速主義の典型だ。AIによるマーケティングと、徹底的なコスト削減で実現した低価格を武器に、モノ余り時代の私たちから取れるだけの購買意欲を絞り取っている。すごい企業だ。
一方、減速主義の企業を探すのは難しい。上場企業ではまず無理だろう。それでも減速主義に近い会社はいくつか思いつく。中でもアウトドア用品大手のパタゴニアは際立っている。パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードは著書の中でこう述べている。
パタゴニアは元々、登山家であるシュイナードと仲間たちが、登山資金を稼ぐために始めたビジネスで、最初は手製のピトン(岩に打ち込む釘)を売っていた。その後、評判が広まって大きな売上を出すようになった。ある日、シュイナードが数年ぶりにエル・キャピタンに登ったとき、他の登山客が打ったピトンのせいで岩壁が傷ついているのに気がついた。帰宅したシュイナードはピトンを作る事業をやめてしまった。
パタゴニアは毎年10%以上の利益を環境保護団体に寄付し、iFixitにお客さんが自分で商品を直せるよう動画を掲載し、大規模な修繕工場も持っている。そして、お客さんに商品をあまり買わないよう勧めている。
環境問題に関してはこういうグラフがある。
オレンジ色が経済成長の指標で、青色が環境負荷の指標だ。これを見ると、たしかに私と私の祖父ちゃん達のせいで、環境負荷は高まっているようだ。「購買は企業への投票」という言葉があるが、その企業が向社会的であるかどうか、モノを買うときになるべく意識したいと思っている。
最近はあまり使わなくなったけど、SHEINはやっぱり便利だ。ソフトウェアエンジニアの端くれとして、そのテクノロジーは素直に尊敬する。これからも夜市を歩くような感覚で、子供服をSHEINで買うかも知れない。でもそのとき、表題の感情を覚えてしまうと思う。
リーダブル秋山 (@aki202)
参考文献
business leaders square wisdom, 『中国発EC「Shein(シーイン)」は「究極のビジネス」か?「売れる商品」を特定し、速く、安くつくる仕組み』
斎藤幸平『人新世の「資本論」』 2020, 集英社
イヴォン・シュイナード『社員をサーフィンに行かせよう パタゴニア経営のすべて』 2017, ダイヤモンド社
広井良典『ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来』 2015, 岩波書店
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