アーキテクトにおける職能の拡張 -ASIBA インキュベーションプログラム2期を終えて-
『建築だけじゃ、生き残ることは難しい。』複雑化する社会の中で、変化速度が圧倒的に遅い建築業界。そんな業界の渦中にいる僕が感じる漠然とした疑問である。
先日まで3か月間、一般社団法人ASIBAのインキュベーションプログラムに参加していた。ファイナルピッチでは、まちにイノベーションのお試し体験を届けるサービス「Sukima」を発表した。
結果は、オーディエンス賞を頂き、メインの清水建設賞では惜しくも受賞は逃したが2番手に候補としての声を頂いた。
この背景には、「如何にして、建築を学び探求する自分の能力をもって、ソーシャルインパクトを起こしに行けるか」をテーマに身を削った努力がある。
そんなイチ等身大の建築大学院生の僕が、どんな経緯で参加し、様々な変遷を経て、最終アウトプットに行きついたのか、そのフローを紹介したい。
この記事を読んで、少しでも挑戦する勇気をもってもらえたらうれしい。きっと誰にでもできるはず。
1.傍観者をやめる、その決意
これまで、大学の授業を受け、本を読み、設計の課題に取り組む、そんなザ・フツーな生活を送っていた僕は、大学2年の頃からArchiTapを友人と共同創設しました。
きっかけは、建築を勉強していくうちに、「様々な領域の知識を持っていないと社会に有効な建築を立てることは難しい。」という至極シンプルな課題感を持っていました。
けど、ただでさえ大学の授業は眠い。設計は熱を持って取り組む人はいるが、インプットはおろそかになってしまいがちな現状。
低ハードルに分野横断をできるメディアを創れないのか。そんな課題感から、webではなく、フランクに見るInstagramで、分野横断するメディアArchiTap(旧Sfida)を開設しました。
フォロワー数は1.4万に到達し、市場シェアでは建築学生界隈の中でも桁数一個抜けるくらいには大きなインパクトを生むコミュニティが作れました。
しかし、Instagramでの発信活動を行って2年、まだ何も成し遂げてない自分が領域横断を謳うことに限界を感じた。
自分自身がロールモデルになる、その体験も込みで改めて発信を行う。メディアの信頼や人柄がより一層重要になる中で、今の発信スタイルから変えなければいけないと考えた。
2. 『飛び入りで』 ASIBA2期生に
そこで、気付いたら即行動、領域横断をテーマに社会実装が出来る「二瓶さんだな。」と、当時メディアで共創させていただいた、ASIBA(当時は一般社団法人化されていなかった)の代表二瓶さんとの縁もあり、急遽参加させていただくお願いをした。
自分の手持ちのフィールドとしては、メディア・建築計画・心理学の大きく3領域を挙げることが出来た。
さて、これらを如何に料理していくか。リアルな話、こういったところから始まった。(正直なところ、見切り発車であった。)
研究室に籠っている仲間を集め、「せっかくなら実社会でプロジェクトやってみない?」と誘いユニットを組む。チーム名は”reAct”。建築を含む人間を包む広義な意味での環境に「呼応」するデザインを追求するチームとして名付けた。
3.ソーシャルインパクトの出発点を探す
僕は、昔から新しいものを知ること、触れることが人一倍好きである。東北の辺鄙な田舎から出てきて、東京には沢山の新しい価値であふれている、そんな「夢」を持って上京した僕は半年後ぐらいに失望した。
毎日、一般人として生活していく中で、同じような景色、大企業がさぞお金をかけて、必死になって訴求する五月蠅い広告で充満された電車で、つまらない大学の授業を聞きに通学。うんざりだった。
そんな中、少し頑張って足を延ばせば、Instagram運営でのつながりで様々なアイデアを持っている人達と出会うことが出来た。そう、都市には本来イノベーションが内包されていたのである。ただ、何かしらの影響で巨大資本による「価値観塗りつぶし計画」が実行されている事実がある。ここに一石投じられないかと。
そこで考えたのが、最終プレゼンしたSukimaの原案モデルであった。ここでは、広告の代替としてパブリックファニチャー的な体験型広告のビジネスモデルを組み、大量の広告会社にアポを取っては話を伺わせて頂いた。
結果は、惨敗。歴史ある広告業界でもはや、歴代の偉人・賢人が尽くしに尽くした故に、空席など何処にも在りはしなかった。残念ながら、価値を広めることに最大特化しているのが、皆さんが今手に持っているようなデバイスに映る全くもって面白みのない広告なのである。(とか言いつつ、僕自身、たまに面白くて見入ることもある。(笑))
さて、ここで考えるべきは、どのようなポジショニングで事業を成立させるのか?である。一方で、プロダクトや仕組みとしては、割と社会では見ないような掛け合わせの物が出来上がっていた。チームはビジネスモデルや使われ方を主にdriveする部門と、モノづくりに特化させる部門の2つで分け、自分が横断的にキュレーションしていくような立場で進めていた。つくったものを一度大学内で試して使ってもらうことで、発見を抽出し、抽象的なプランやスキーム(計画)に反映させる。こういった往復で解決を試みた。
実際に、経験の少ない僕たちにとっては最短の経路であったかもしれない。ビジネスモデルに変更をかけることで、価値体験を実現していく際に、誰もがポジティブな状態に変化させることが出来た。
3.PJ初の社会実装 in吉祥寺
従来の広告や価値体験では、制作と設置に110万円以上の価値がつく故に、プロトタイプをエンドユーザーに使用してもらうには多額の費用が掛かってしまう。一方で、エンドユーザーが実験のモルモット的な存在になってしまうことは当然ながら、誰も望みはしないであろう。
そこで、僕たちのミッションは「エンドユーザー」と「開発者」ともに低ハードルなお試し体験の場を提案することとした。
エンドユーザーには、いつもの生活体験が「ちょっぴりよくなる+新しい発見付き」で彩りが与えられる。開発者には、制作費を抑えるために、圧倒的製作費の削減を実現させた。その手法については、建築計画と空間知覚の知識がある僕だからこそできる分析方法で都市を測り、実はインタラクションの多い場所だけど、広告枠化されていない都市の場所を発掘することで、実現させた。(詳しい手法を知りたい方は、僕のInstagramにDM下さい!)
結果は、制作・設置費100万円削減、たった半日のモックアップでしたが、380人以上のエンドユーザーにお試し体験を届けることが出来た。
嬉しかった半面、予想通りでもあった。
さて、あとはこれを如何にして、運用し広げていくのかである。
4.ASIBAフェス 共犯者を増やす
「共犯者を増やす」これは、ASIBA代表の二瓶さんやキングコングの西野さんがよく使われる言葉である。
僕たちの理念としては、この仕組みで都市が発見で満ちた彩のある都市に還元していくこと、或いは氷山の海面下にある価値観に触れる体験を広げていくことを第一に挙げている。
勿論、僕たち自身で広げていきたい思いもありつつも、もっと多くの人が似た業態で活動をできれば、社会的なインパクトも大きいことは間違いない。
今、この文章を書きながらも、今後の運用展開は少し楽しみながら悩んでいるところである。
そんな心境の中、ファイナルピッチでは、都市を彩るreActのようなペインターの仲間を1人でも増やしたいという思いでプレゼンを行った。どちらかというと、クリエイターや投資家視点のピッチではあったと思う。そのため、ASIBAの他のメンバーからは少し受けないだろうな、、、とも思ったが、それでもよかった。
結果、クリエイターが多いファイナルピッチの観客席の方には届けることが出来たのではないのかと思う。
5.ファイナルピッチから始まる
今回、もとより社会実装をすること、自分の思想を形にして、社会に出すこと、その手段としてASIBAのインキュベーションプログラムに参加させていただいた。
このプログラムで歩みを終えるつもりは毛頭ない。この3か月の経験を血肉とし、僕が次に打つ一手を動かし始めている最中である。
今回のreActの動きでは、自分が建築×心理学で学術的新天地を開拓してきたものを社会に放ってみた。そうすることで、今見えている自分自身の課題感がある。そこで「新たな新天地を気づき、実世界に卸してみる」このサイクルが建築のソーシャルインパクトへ化ける可能性を何倍にも高めてくれるとプログラムを通して感じた。
最後にASIBAの運営の方々には、この場をお借りして御礼申し上げます。
この記事を最後まで見てくれた方、あなたにでも、きっとソーシャルインパクトは起こせる。ぜひ、アーキテクトの可能性をともに広げる「共犯者」になろう。