見上げた空の黄金龍
分厚い雲を突き抜けて一台の小型ジェット機が空へと舞い上がった。
「やった!」
雲を見下ろすなどできないかもしれないと思っていた。
「本当に……来れたんだ」
見渡す限り切れ目のない雲の上には青く光る月が浮かび、雲の上を優雅に飛ぶ龍の姿を照らしている。
龍。
空の支配者と言うべきもの。
沢山の人が空へと挑み、そして散っていった。
人は彼らを見下ろす事を許されず、近付く事はできなかった。
今日、この瞬間まではそれが常識だった。
「あっ!写真!」
あまりにも幻想的で美しい景色に見惚れた後、思い出したようにカメラを取り出して撮影する。
「あれ?もしかしてこっちにきてる?」
遠くに見えていた龍のいくつかが明らかに大きくなっている。
お爺ちゃんの記録では彼らは五月蝿いのが嫌いらしい。
エンジンは雲を越えたあたりで止めており、ゆっくりと滑空している状態だ。
複数の龍が取り囲むように旋回をしている。
生きた心地をしないが、機体を下に下ろしたいという恐怖心より最後まで見届けたいという気持ちが優った。
黄金の色をした龍はしばらくして離れて行った。
まもなく雲へと沈む小さな者の事など、直ぐに忘れてしまうだろう。
だが私はきっとこの景色のことを忘れない。
お爺ちゃんがホラ吹きと呼ばれた様々な体験談には本物がまざっていたのだ。
忘れられるはずもない。
いや、忘れてたまるものか。
人に理解されなくてもかまわない。
今日という日を、いつか死ぬその時まで抱えて生きるのだ。
もうすぐ雲へと入ろうかという時、異変に気がついた。
影が、大きい?
機体の構造上、見えたとしても片側に見える程度のはずだ。
にもかかわらずこの影は前後左右に広がっているようで……
「雲の中にも居たのか!?」
慌てて操縦桿を握るが落ちるだけの機体には真下にある影を避けて行くことなどできない。
ましてや、進路を逸らしてなお真下に滑り込む影にどんな対応ができるだろうか。
エンジンを掛ければ避けられるかもしれないが、撃墜の可能性が生まれる。
ついに雲から浮かび上がった龍はこれまで見ていたものとは比べるまでもないほどに大きく。
真下で羽ばたくとと同時に機体に強い衝撃を受け、直後に私の意識は暗転してしまったのだった。
サイエンスでファンタジーと聞いて突如降って沸いたアイディア!
ホラ吹きと笑われるお爺ちゃんの遺品には龍を間近で撮影したモノクロの写真がっ!
という感じです。
あんまりサイエンス的じゃないって?
ほら、一人乗りで雲を越えられるジェット機とか個人で作れる時代だったらすごいでしょ??ね?
へたすんは、むつぎ大賞を応援しています。
https://note.com/mh_fk/n/nb6f77c249cb1?magazine_key=m03270fab216c