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奥行きを認識する

写真は6年前のニュージーランド。
母曰く、小説やドラマ、映画など創作物の世界へ過度に入り込んでしまう私の性質は異常だという。自分はそうしていろんなものを発散している。海外旅行に似ている。この趣味はそのためどうしても失いたくない。

このご時世、特に映像や舞台の関係者の方々は作品一つ作るのでさえ本当にご苦労されていると思う。必須の所用以外、状況が収束するまではどうしても家から出られない身です。こちらにできることは微々たるものだけれど、いつも楽しませてもらっている者としてはすぐ動けるよう常に心の準備をしている。

昨年話題になった某連続2クールのドラマも、もれなく毎週楽しみに見ていた。そんなふうに過ごしていたとある終盤、ストーリー上、浅香航大演じる刑事役がこの先出演することはないと気付いた時に突然寂しくなった。それまで単なる一出演者として見ていたどころか、刑事の悪さっぷりに憎しみまで抱いていたし、きれいな顔をして意地悪で冷たい役が似合う彼自身に対してもあまり良い印象を抱いていなかった(のめり込みすぎるとたまにこういう弊害がある)。それが、ほんの数分流れた人間臭いシーンでどこかしらの感情が動き唖然とした。そのあとにはオフショットの満面の笑みにまんまと捕まった。ギャップというのは本当に罪です。これが沼の入り口だろうかと覚悟した。
 
それからというもの常に浅香航大に飢えている。次の出演作を、今までの作品をと、暇を見つけてはチェックすべきタイトルを探して回る。珍しく熱量の高いその執着に、友人は呆れながら嬉々として私を眺める。するともともと好きだった作品にも、欠かさず見ていた作品にも、話題作にも、その名前が載っていることを知る。『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』でギリギリの気持ち悪さを匂わせていたのも彼だ。『奇跡の人』の明晰で現実的な眼鏡の若者も彼だ。『グッドドクター』で最後まで嫌味ったらしかった同僚も彼である。あれにもこれにも、もしかして舞台にも出演していたのでは?などなど。嘘でしょうと何度も口にした。

何気なく見てきた作品の中に惹かれた役者の出演が判明した時の衝撃と嬉しさはきっと経験した人間にしか分からない。それは別に役者に限ったことではない。もっと早く知っていれば、もっと早く出会っていれば。そんなことは日常にもあって、それがタイミングというものなのでしょう。気になるのには理由がある。あの時でもダメだったし、ああなった時でもダメ。いくら目の前にいても気づかない。自分でも分からない内面の変化に引っ掛かってしまう時期や出会いは不思議なことにあるものなのだ。

そんな風にして突然に浅香航大を認識した私は、さらに気づいたことがある。彼の演じる役柄の気持ちを慮るようになっていたのである。これも世界にのめり込みやすい人間の悲しい特徴だと思っている。認識してしまった以上、否が応でも画面に映れば浅香航大(が演じる役)の一挙一動が気になる。そして、これは私自身が持つイメージなのだが、その役柄はよく主人公と正反対の位置にいる。もっと言えば対立している。ドラマは主人公の視点で描かれることが多い。それに沿わない者に負のイメージを植え付けることはたやすい。
 
もし逆の視点で見るとどうなるのだろう。思うように会話が成り立たない相手に苛立つことはないか。他人の才能を素直に認められない場面はないか。天才的な直感を持って相手の懐に入る人間を羨み、同時にどうしてもっと上手に立ち回らないのかと歯がゆく思うことはないか。きれいごとだけで生きていけると思うなと感じることはないか。すると善し悪しの境目が曖昧になる瞬間が薄っすら見える。主人公の魅力に奥行きを出すものが、そういった立場を演じる人間たちなのだろうなと思う。

ただただ憎らしかったあの役柄の感情に少し近寄ってみることで、「そうは言ってもこの世にはこういう考えがあるのも事実なのだ」とまた違った楽しみ方もできる。それはさらに想像力を身に付ける一助にもならないだろうか。

どうやらコミカルで可愛らしかったり、情けなかったり、真っ直ぐで一生懸命な男子の役も演じているようで、それもまた魅力なのだろう。救いようのない悪で、こちらが思い切り嫌悪感を表せるのも素晴らしい。その悪にどこか色気を感じるのもご本人の持ち味と思う。それらを時にさらっと、時に笑えるくらいオーバーに演じる浅香航大が、それ故楽しみでしかたがない。

とてもありがたいことに最近は立て続けに彼の演技を目にする機会が多い。画面に映っている時間は短いもののなぜか強烈に記憶に残る。たまには気分転換をしながら、どうか楽しみながら、今後のご活躍と幸せに満ちた人生を切にお祈り申し上げます。

すべてただの一般人が感じたままに書いていることです。たまたま駄文を目にしてしまったファンの皆さまがいらっしゃったらどうかご容赦ください。

※以前別ブログに掲載したものを加筆修正したもの。