書評『喉に棲むあるひとりの幽霊』掲載のお知らせ
「図書新聞」No.3661・ 2024年11月2日号に、デーリン・ニグリオファ『喉に棲むあるひとりの幽霊』(吉田育未訳、作品社)の書評が掲載されました。
「図書新聞」編集部の許可を得て、投稿いたします。
書評は下記リンクよりお読みいただけます。
感想:
オートフィクションという手法が取られた本作はとても複雑な作品で、主人公の日記のようでもあり、荒々しい論文のようでもありました。詩の断片のようなものが散りばめられていることもあり、少しダークな幻想小説の世界が広がることもありました。
ただ、そのどれもが本作の主軸となる主人公の物語と深くかかわっているのが非常に面白く、小説の構成に着目しても興味深く読むことができる作品だと思います。
日本語版では、作品内で言及されているアイリーン・ドブ・ニコネルによる『アート・オレイリーのための哀歌(クイネ)』をアイルランド語、英語、日本語の三か国語で楽しむこともできます。
英語版のオーディオブックでは二か国語での朗読があるようで、実際に聴いてみると、アイルランド語で響くクイネは神秘的でもありました。
(いつも勝手な見解で申し訳ないのですが…)アイルランドの文化と「円形」には古代から強い繋がりがあるように思います。亡霊や妖精のような人ならざるものたちとの距離も比較的近いはずです。
彼らはリングフォートと呼ばれる円形の砦によく出没するようなので、その場所に立ち寄った主人公が別の世界の存在を感じとったのも不思議ではないのかもしれません。
本書を繰り返し読んで目に浮かんできたのが、憑りつかれたようにクイネに関する資料にかぶりつき、必死に光をつかもうとするひとりの女性の姿でした。傷ついてぼろぼろになっても突き進む様は美しく感じます。
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