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超鞠男兄弟


超鞠男兄弟



【おはよう、兄さん。】
そう声をかけてきたのは、弟の類次だ
【今日で桃姫さまが苦痛波に攫われて、一ヶ月だね。】
【そうだな。】
桃姫さまとは、この国の王妃で隣国の城苦痛波城へ先月攫われてしまった。
【今日もこの国は元気が無いね。】
【仕方ないさ、王妃がいないんだから。】
【じゃあさ、僕たちで取り返しにいかない?】
そう類次は片目を瞑り言った。
まるでこれからイタズラをするかのように軽く。
【俺たちで?】
鞠男は驚いた。
隣国の城だけの国とはいえ、一応国であるのだ。
むしろ、城だけなのに国と認められている分その恐ろしさが窺える。
【無理だろ。】
それは当然の返事だった。
誰でもわかることだ。
国に対して2人だけで勝てるわけがない。
【大丈夫だよ兄さん。】
まるで、何か秘策があるかのように類次は笑ったままだ。
【今朝、先代の王様がこれを僕たちに送られたんだ。】
その金色の箱の中には箱と同様に金色に輝く星が入っていた。
【これはスターといって、僕たちを守ってくれるアイテムなんだ。】
【俺たちを守ってくれるアイテム?】
【そうだよ、兄さん。】
【でも、なんでこれを?】
【僕たちは、この国で唯一桃姫さまと年が近い人間で幼少期によく遊んでたでしょ、だからもしかしたら僕たちの身も危ないと案じてくださったんだよ。】
【俺たちの身を‥】
【そうだよ。でも一番心細いのは桃姫さまでしょ?】
鞠男は下唇を噛んだ。
それは理解している。今一番助けを求めているのは誰か。
でも助けに行く勇気が出ない。
わかっているのに情けない自分に腹が立つ。
そんな兄の手を類似が握った。
【僕たち2人なら大丈夫。 今までだって2人で頑張ってきたんだもん。】
【類似‥】
【だから行こう兄さん、それに何かあればこのアイテムがあるしね。】
そういうと、鞠男が抱えている星型のアイテムを指差した。
【分かった。俺は準備をするから類似は朝食の準備をしてくれ。】
【了解兄さん。】

隣国の城へ行くためには、三つのルートはある。
陸、空、海
今回2人が選んだのは陸のルートだ。
これには理由がある。
まず一つに、移動手段だ。
陸は歩いていけるが、空と海は専用の乗り物が必要になる。
海は泳いでいけなくはないが桃姫さまを救出した時を考えると、帰り道姫さまを泳がせる訳にはいかない。
次に食糧問題だ。
空路が最短であり、約半日。
次に水路は約1日
最後に陸路。 こちらは約2日ほどかかるが、食糧が森にあるため、持参する荷物も少なく隠密行動には向いている。
よって彼らは陸路を選んだ。

1-1


【兄さん、この辺りの森は苦痛波の魔力で周りのブロックが浮いてるのは知っているよね。】
【まあな、しかも中にはその中に自生している特殊なキノコがあるんだろ。】
【さすが兄さん! 今回僕たちの食糧はそれになる、多めに探しておこうと思う。】
【そうだな、でも食べても大丈夫か?】
【まあ、そこは食べてみてじゃない?】
【確かに。存在は知られているけど誰も食べたことがないもんな。】
2人はキノコを探しながら森の奥に入っていった。

【さっそくあったな、浮いたブロック。】
鞠男はブロックの下に入り、思いっきりアッパーをブロックに叩き込んだ。
ドゥルルル
そのへんな音と共に赤いキノコが割れたブロックから出てきた。
【つっ〜痛え。】
鞠男が拳を摩っていると類似がその横を走った。
【兄さん、赤いキノコがどこかいっちゃうよ!早く追いかけなきゃ。】
赤いキノコはどんどんと進んでいく。
その後を二人は走って追いかけた。
【あのキノコなんて速さなんだ。】
【そうだね兄さん。でもまって、この先に土管があるよ。】
類似の言う通り二人の先には緑の土管が建っている。
【あのキノコどうするつもりだ。】
するとキノコは土管に体当たりするなり、進行方向を真逆に変えた。
【うわ、こっちに来た。おいどうする類似。】
【どうするも何も、捕まえなきゃ。その為に追いかけてたんだから兄さん。】
【そうだけど、頼む類似捕まえてくれ。俺はまだ死にたくない!!】
【ひどいよ兄さん、僕を切り捨てるつもりかい。】
類似は怒った表情を顔いっぱいに現した。しかしそこは兄弟なので仕方ないなと、兄の前へ一歩出た。
【死ぬな類似。】
【だから死なないよ。魔法がかかっているとはいえただのキノコなんだから。】
類似は正面から赤いキノコを捕まえた。
プルルルン
その変な音と共に二人の目線は頭1つ分ズレた。
【兄さんが小さくなった!!】
【違う。お前が大きくなったんた類似。】
体が大きくなって浮かれている類似とは対照的に鞠男は心配だった。
【大丈夫か?体に痛みはないか?】
【大丈夫だよ兄さん。ただ体が大きくなっただけみたい。あと少し体が動かしやすいかな。】
類似がその場でジャンプしてみた。するとおよそ1mは跳んでいる。
【すごいや兄さん。次は兄さんも取ってみなよ。】
【ああ。次があったらな。】
そう返事はしたものの本音を言えば取りたくはなかった。鞠男にとってはまだ不気味なキノコという印象から変わってはいないのだ。
【さあ行くよ兄さん。】
類似はどんどんと前に進んだ。
途中ブロックが積み重なった壁も大きくなった類似のパンチで道を拓いた。
【兄さんみて、またキノコがあるよ。しかも今度は足が生えてる!!】
類似の目線の先には、足の生えた茶色いキノコが歩いていた。
【ごめん。今息切れでその余裕ないわ。】
【もう、しっかりしてよ兄さん。】
【類似が速すぎんだって。まったく。】
二人の運動能力は現在大人と子供ほどの差があった。
なんとかついて行った鞠男はその場に座った。
ついて行ったというより類似に合わせてもらったという方が的確な表現かもしれない。
【じゃあ兄さんはここで待ってて。僕があのキノコを取ってくるから。】
そういうと類似はキノコを捕まえに走った。
しかしそのキノコは先ほどのキノコとは少し雰囲気が違った。
あのキノコには自我があった。
呼吸が整ってきた鞠男はある可能性を思い出した。
【逃げろ類似、そいつは苦痛波の手下だ!!】
兄の助言に振り返った類似の背後からキノコの手下が類似の背中を掴んだ。
デュルルルン
類似はもとの大きさに戻ってしまった。
【助けて兄さん。】
【戻ってこい類似。】
鞠男は類似の近くのブロックまで走って駆け寄り、上から手を伸ばした。
【掴まれ。】
せーの、という掛け声に合わせて鞠男は類似を引き上げた。
【ごめんなさい兄さん。】
【いいよ、それに幸いあの手下はここまでは登ってこないみたいだ。】
【なんだか力が入らないよ兄さん。】
【大丈夫さ少し休めば治るよ。】
弟を励ます為、優しい言葉をかけたが鞠男の心臓はまだバクバクと激しく鳴っていた。
それは走って助けに行ったからではなく、弟の安全を確認してのことだった。
(俺がしっかりしなくちゃ。でないと本当に弟の類似が死んでしまう。)
鞠男は静かに新たな覚悟を決めた。
(俺が姫さまも弟も守る。)
そして二人は休んだ後、その場から離れて別の道へと進んだ。

二人が別の道へ歩き始めてからおよそ1時間。ようやくこの森の折り返し地点、セーフティエリアに到着した。
【やっと半分だね兄さん。】
【みたいだな。】
二人はその場に座り込み安全に進むためこの先の作戦について話し合った。
【まず俺たちの目的はこの森の奥にある白いポールにたどり着くこと。そしてそのポールにタッチし次のエリアに移動すること、最終的に苦痛波の城で囚われた桃姫さまを救出することが俺たちのゴールだ。】
【そうだね、でもさっきのキノコみたいな手下はどうすれはいいの。触られたら背が縮んで、おそらくこの姿でまた触られたらもうブロックを登れなくて死んでしまうよ。】
鞠男は昔見た魔法の本の内容を思い返していた。
【もしかしたら、あいつらを上から踏み潰せばいけるかもしれない。】
【そうなの。】
【確か魔法は脳に作用するから、そこにダメージを与えれば魔法がとけて動かなくなる筈だ。】
【さすが兄さん。】
【でもこの作戦はまだ確証が持てない。ますはあの赤いキノコを見つけてからにしよう。】
【賛成だよ兄さん。】

そこから2人は辺りのブロックを壊し続けた。
しかし2人の拳が赤く擦り切れていくだけで、赤いキノコは見つからない。
【なかなか出てこないね兄さん。】
【ああ、せめて目印があれば闇雲に壊さなくていいのに。】
【それだよ兄さん。】
類似は指をパチンと鳴らした。
【確か最初にあの赤いキノコが出てきたブロックには、はてなマークがあった気がするんだ。だからはてなマークのブロックだけを壊していこう。】
2人は辺りを見回してマークのついたブロックを探した。
すると丘のてっぺんにはてなのマークがついたブロックを見つけた。
【あった、行こう兄さん。】
【おう。】
2人は走っていく。

【兄さんおそらくこのブロックを壊せば、中から赤いキノコが出てくるよ。】
【早速いくぞ。】
鞠男が勢いよくブロックを砕いた。
すると今度は中から赤い花が出てきた。
【兄さんキノコじゃなかったね。】
【そうだな。でももしかしたら何かに使えるかもしれないから、一応持っていこう。】
鞠男は赤い花を摘んだその瞬間。
プルルルン
また奇妙な音と共に2人の目線がズレた。
【兄さん服が変わってるよ。】
【ああ、しかも手から炎がでてる。】
【すごいよ兄さん、かっこいい。】
【よし、あそこに見えている白いポールが最初のゴールだ。いくぞ。】
鞠男は丘の上からゴールの白いポールを指差した。

そこからの2人は怒涛の快進撃を見せた。
鞠男は先ほどの経験から弟をおんぶして進んだ。
途中現れる手下たちも鞠男の手から放たれるファイヤーボールで倒していける事が判明した。
それは何より2人にとって嬉しい力だった。
【この力があれば直接頭を潰さなくてもいいからリスクが減らせる。おかげで類似をおんぶしながら進めるからいい。】
【ありがとう兄さん。でも無理はしないでね。】
【大丈夫だ類似、それにほら見えてきたぞ。】
目の前にあるは、何十メートルもあるブロックでできた階段。その奥に聳え立つ白いポール。
【なんだかズゴイ迫力だね兄さん。】
【ああ、でも大丈夫だ。俺がいる。】
【かっこいいよ兄さん。さっきとは別人みたいだ。】
鞠男は決めたのだ2人を守ると。
【ありがとう。でも無駄話はここまでだ、いくぞ。】
【うん兄さん。】
2人は一段一段階段を登った。
そして
【ここからあのポールに飛び移ればゴールで、次のエリアに進む道が開く筈だ。】
【うう。高くてなんだか怖いよ兄さん。】
【しょうがない、ほら手を繋いでやるから。 俺となら怖くないだろ。】
【ありがとう兄さん。】
2人は掛け声と共にポールへ飛んだ。
すると、ポールには旗が掲げられ、目の前に新しく道が開かれた。
【待ってろ桃姫さま、いま行くぞ。】
2人は全力で前に走った。



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