
インドの旅・序章
福岡空港を昼過ぎに飛び立った「おひとり様限定インドツアー」の参加者は10人。真夜中、カミナリ混じりの雨のデリー空港に着いた。待っていた現地人ガイドの案内で空港近くのホテルへ。
翌朝早く、貸切バスで靄のかかったデリーの街へ。これから北インド3日間の旅、デリー、ジャイプール、アグラの3都市を回る。旅行会社が手配したスタッフは現地ガイドとバスの運転手と運転手助手の3人。
インドといっても、この時期は寒いらしく、日本から着て行ったダウンジャケットを離せなかった。
デリーでは、世界遺産のレッドフォート、フマユーン廟、クトウブミナールなどを見る。
その後6時間かけてジャイプールへ移動、深夜にホテルに着く。
ジャイプールでは世界遺産のアンペール城、ピンクシティ、ジャンタルマンタル天文台に案内される。
3日目、ジャイプールから5時間かけてアグラへ。そこでこれも世界遺産のタージマハルとアグラ城を見学。このルートはインドツアーの定番のようで、別の日本人ツアー客とも何度か遭遇する。
インドはいくつもの侵略王朝によって支配されてきた。独立前は英国領だった。世界遺産の城郭や寺院は、みな千年、二千年前に造られたイスラム系の構築物だ。町の小高い丘や森に残る石造りの城壁の威容、壁に深く彫られた紋様が美しい。
支配者がたびたび変わる歴史とはどんな感じなのか。愛国心とかふるさととかの気持ちはどうなっているのか。万世一系の国に生まれたものには理解しにくい。
最近、トランプ大統領が、ガザの人達をもっと良い場所に移動させると発言した。トランプ一族も移民である。大陸に住む人たちの意識はそもそもグローバルなのか。
都市間の移動は高速道路。街の喧騒を抜けると畑や牧草地がどこまでも広がる。遠くにヒマラヤが見えるのではと期待したが、ずっと靄がかかっていた。
料理はいつもカレーだ。チキンカレー、野菜カレー、豆カレーやらでナンと一緒に食べる。これにヨーグルト、アイスクリーム、チャイとお膳はにぎやかだ。途中、ツアーの男性が「もう限界」と言って、カップヌードルを食べ始めた。奥さんがたくさん持たせてくれたそうだ。「そんなもの持ってくるから、旅先の料理が楽しめないのよ」と意地悪を言ってやりたかった。
インドでは牛肉を食べない。でも畑や家の周りには牛がたくさんいる。バスの中でガイドに「肉を食べないのになぜ飼っているのか」と聞いたら、ガイドは語気を荒くして「牛は乳を出す。糞は肥料や燃料になる。大切なものだ。食べるとか食べないとか問題ではない」というような意味の事を言った。私の質問は怒らせたようだ。相手の習慣が理解できないからといって、無邪気に聞くのはまずいのだ。それに食事の後や休憩の時に必ず出される濃いミルクと紅茶のチャイは温かく安らいだ。
ホテルや沿線のお店、レストランで働いているのは、男性ばかり。でもトイレの清掃は女性。頭にスカーフを巻き、長いスカートで、笑顔で開いているトイレまで案内してくれる。データによると、インドの女性の識字率は60パーセントに達していないらしい。文字が読めないとはどんな感じなのかわからないが、幸せとか人生の充実感とかには関係しないのかもしれない。最近のジェンダーギャップ指数も、インドと日本は近いところにある。インドの女性の幸せについて、ガイドに聞こうとしたが、牛肉の質問で怒られこともあったので、聞けなかった。
帰りのバスの中で、あのカップ麺を持ってきた男性が、ガイドに残りのカップ麺を手渡していた。ガイドは、ラベルをしばらく眺めていたが、牛肉が混じっていそうなのでと受け取らなかった。そんなに厳しく考えるか。
日本人客ばかりのツアーバスの中に5日間いたくらいでは、インドのことは何ひとつわからない。だからまた来なくてはならない。
インドの現代文学や詩を読んでおこう。インド映画もしっかり見よう。