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青春小説「STAR LIGHT DASH!!」5-4

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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」

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第5レース 第3組 Taste of Candy Apple

第5レース 第4組 溶けた氷は戻らない

「ほんと、あの2人、仲良いわね」
 カメラで俊平のことを撮影している和斗を見て、綾がのんびりとそう言った。ひよりは団扇で顔を扇いで2人を待つ。
「お姉ちゃん、焼き鳥食べたい」
 麻樹が視界に入ったものを指差して無邪気に言うので、やれやれと言いたげな表情で綾が麻樹を連れて屋台に歩いてゆく。
「ひよりはそこにいて」
「あ、うん」
「あれ? また買い食い?」
 追いついてきた俊平たちにひよりはぎこちなくも笑顔を返す。
「腹も減ってきたし、まとめ買いして、広場で食べようか? 確か、本部付近はビアガーデンみたくなってたろ」
「そうなん?」
「そういや、しゅんぺーは最近来てなかったもんな」
「なんだよ、カズは去年誰と来たんだよ」
「ノーコメント」
 俊平がふざけて問うと、和斗はしかめっ面でそう言い、目を閉じた。それ以上追究しても解は得られないと察しているのか、俊平がすぐに白い歯を見せて笑い、話しかけてきた。
「水谷さん、食べたいものある?」
 正直、慣れない浴衣と、極度の緊張でお腹なんて空いていない。ここで和斗まで不在になったら、またひよりの頭は真っ白になる。俊平をちらりと見上げ、その後和斗の様子を窺った。特に動く様子は見られないので、ふーと落ち着くために息を吐き出し、大きく吸った。
「おっと、水谷さん、人来てるよ」
 さりげなく腕に触れて、人波から庇ってくれる俊平。せっかく深呼吸で落ち着こうとしたのに、触られた箇所が熱く感じられて、血の巡りが早くなった気がする。ただでさえ暑いのに顔が熱くなってきた。まずい。顔が赤くなるのはわかりやすすぎる。鼓動も異様に早いけれど、触れたところから俊平に伝わっていないだろうか。ちらりと見上げると、すぐそばに彼の尖った喉仏があった。
 なんで、この人はこんなに無自覚なんだろう。
 顔が赤いのを誤魔化すために、髪に触れ俯く。
「た、たこ焼き……」
「たこ焼きか。カズは?」
「暑いし、氷食べたいな。あと、お好み焼きとか?」
「かき氷は1人じゃ無理だな。たこ焼きとお好み焼き、屋台探して買ってくるから、その広場とやらに氷買いがてら行っててくれ。あ、オレ、ブル―ハワイな」
「え?」
「お前、怪我してんだから、そういうのはおれが行くって」
「だーいじょうぶだよ。もう問題ないから」
 ヒラヒラと手を振って、俊平が人波を避けながら先に進んでいってしまった。
 急な接近でドキドキが止まらない状態になっていたから、外してくれたのは心境的には助かるものの、せっかく一緒にお祭りに来ているのに、別行動はなんだか寂しい。
「しゅんぺー、ほんとフットワーク軽くて困るんだよね」
 沈黙を嫌ったのか、和斗がそう言って失笑した。
「あ、は、はい。そうですね。いつもキビキビしてて」
「おれには敬語なんだね」
 ひよりの返しににこちゃん笑顔でそう言い、和斗は眼鏡を外して顔の汗をハンカチで拭う。
「タメ口と敬語の相手混ざるとめんどくさいでしょ。タメ口でいいよ」
「はぃ……うん。ごめんね。谷川くんにもこの前言われたばかり」
「ただでさえ、余裕なさそうだし」
「え?」
 彼の言葉にドキリとして、ひよりは思わず見上げるが、ちょうど眼鏡を掛け直しているところで、和斗の表情は見えなかった。
「ごめんごめん、焼き鳥多めに買ったから、どっか座ってみんなで食べよ」
 朗らかな綾の声にほっとする。大事そうに焼き鳥の入った袋を抱えた麻樹が不思議そうに見回し、小首をかしげた。
「俊平お兄ちゃんは?」
「たこ焼きとお好み焼きを探しに行ったよ」
「なに、そんなにお腹空いてたの? 谷川」
「買えるもの買って、広場で先に食べちゃおーって話になって」
「ああ、なるほど。ごめんね」
 ひよりの説明に綾が察したように謝ってきた。特に気に留めないように和斗が首を横に振る。
「飯時になると座れる場所もなくなるから、今の内って思って提案しただけだから」
「……そう。サンキュ」
 和斗のフォローに安堵したように笑い、綾が麻樹の頭を撫でる。
「かき氷確保したら、席取りに行こうか」
「オッケー。アサは何がいい?」
「レモンー」
「ひよりは?」
「抹茶ー」
 麻樹のトーンに合わせて返すと、綾と麻樹がおかしそうに笑った。

:::::::::::::::::::

 駐車場を貸し切って拵えた広場。その近くにかき氷屋があるのを見つけて立ち寄ると、お祭りスタッフ用のTシャツを来た邑香が店番をしていた。
 隣には背が高く、眼鏡のよく似合う女子。確か、陸上部のマネージャーだ。
 席を取りに綾と麻樹は先に行ってしまったので、気まずさが二乗である。
「いらっしゃい。あれ? カズくん……にみずたに先輩? どういう組み合わせ?」
「……聞いてねーぞ」
 和斗がボソッと呟いたのが聴こえた。
「水谷さんたちの文化祭の催しに参加することになったからさ、その付き合いで」
 切り替えたように爽やかな笑顔で和斗がそう返す。ひよりもどうにも居心地が悪くて、ただ合わせるように頷くだけ。
「ああ……シュンが言ってたやつ?」
「そうそう」
「じゃ、シュンも来てるの?」
「……あー」
 いつになく、和斗が受け流せないように苦しげな声を発する。
「椎名先輩。氷、いくつ必要ですか?」
 かき氷機にカップをセットして、真面目な声で眼鏡の女子が言った。それに遮られ、邑香がすぐに店員モードに戻った。
「どれにします?」
「レモン、ブル―ハワイ、いちご練乳、抹茶……あと、ヨーグルト」
「はーい。松川さん、5つ削ってくれる?」
「了解です」
 松川と呼ばれた女子が氷を削り始め、その音で周囲の音が聴こえにくくなる。
「陸上部ってボランティアしてたっけ?」
「毎年、商店街でお手伝いしてるんだよ。言ってなかったっけ?」
「……しゅんぺーには言ったんじゃない? おれは知らないよ」
「そっか。ちょっと人が足らなくて、この子はお手伝い。お姉ちゃんは別の屋台手伝ってるよ」
「そうなんだね」
 邑香と和斗のやり取りを聞きながら、胃が痛くなってきて、ひよりは星空を見上げた。雲一つない空が見えて、具合の悪さが少しだけ和らいだ気がする。
 支払いを済ませて、和斗が財布をバッグにしまう。
「そんな気まずそうにしなくていいよ」
 邑香が穏やかな声で言った。自分にではない。和斗に対してだ。
 出来上がってきた氷にシロップを掛け、どんどん台の上に乗せてくる。
 最後にブル―ハワイを置いて、邑香が笑った。
「あたしたち、もう付き合ってないから。カズくん、そんなに気にしなくていいよ」
「「えっ?!」」
 松川とひよりが同じタイミングで、同じような声を発した。和斗は気まずそうにしていた割に驚いた様子は見せなかった。
「……やーっぱ、そうか」
「シュン、何も言ってないんだね」
「言うわけないじゃん。アイツは、おれのこと、いっつものけ者だもん」
「……そんなことないでしょうよ」
「どういう意味だよぉ。まーじで、なんっにも言わねーからアイツ。だから、首突っ込むしかなかったんじゃねーか」
「うっそだ」
「ゆーかちゃん、なんか言いたげだね?」
「溶けるから早く持ってって」
「……あいよ。水谷さん、2つ持ってもらっていい?」
「あ、う、うん」
 取り付く島もない邑香に、やれやれといった表情でため息を吐く和斗。和斗に促されて、ひよりは左側2つを持つ。
「みずたに先輩」
「え? は、はい?」
「せっかくなので、楽しい文化祭を」
「あ、は、はい。ありが、とう……」
「シュン、陸上のことばっかりだったから。たまにはそういうのもいいと思うんで」
 どこか違う場所を見るように目を細め、邑香が優しく笑ってそう言う。
 ――絶対まだ好きじゃないですか。
 言いたい言葉が溢れてくるけれど、自分には何も言う権利がないので、その言葉はグッと飲み込んだ。
 初めて俊平を知った時は、邑香の存在なんて知らなかったから、ただ素敵な人だなとほのかな恋心を寄せていた。
 2人のことを知った後も、ただ静かに片想いをしていただけ。2人の関係がとても綺麗で、見ていてとても微笑ましかったから。彼が笑顔でいてくれれば、自分はなんでもよかった。 
 カップを両手に下駄の音を鳴らし、ひよりは先に歩き出す。
 彼はそんな様子、微塵も見せなかった。全然気付いてあげられなかった。緊張していたとはいえ、自分が恥ずかしい。……でも、気付かれたくないからそうしていたのであれば、気付かないほうがよかったんだ。そう、言い聞かせることしかできない。
「お、水谷さん、いたいたー。もう、席取ってある感じ?」
 広場に入ろうとしたところで、俊平が袋を両手に提げてやってきた。
 変わらず朗らかな笑顔。知らないふりをするしかない。
「う、うん。綾ちゃんから席取れたって連絡も来てるから」
「そっか。よかった。たこ焼きもお好み焼きも買えたよ」
「ありがとう」
 出来るだけこれまでと同じように受け答えをし、和斗が追いついてくるのを待つ。
「あ、しゅんぺー、ちょうどいいところに。もう1個かき氷が……あー、これ持ってって。残り持ってくるから」
 俊平の空いてる右手に1つだけかき氷を押し付けて、和斗がまた戻っていく。
 いつも落ち着いた様子の和斗も、さすがにこの状況に思考が回り切っていないのか、どこをどう取捨選択すべきか選び取れていない様子だ。
「あ、谷川、持つよ」
 すぐに綾がやって来て、俊平の荷物を半分預かってくれた。2人にならなくて済んでほっとした。
「あれ? アサキ1人で大丈夫か?」
「舞ちゃんたちがいたから見といてもらってる」
「……舞ちゃん、たち……?」
 俊平とひよりは得意げな綾の言葉に首をかしげた。

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第5レース 第5組 Unadjusted Compass


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もしよければ、俊平にスポドリ奢ってあげてください(^-^)