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青春小説「STAR LIGHT DASH!!」5-5

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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」

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第5レース 第4組 溶けた氷は戻らない

第5レース 第5組 Unadjusted Compass

「綾、随分可愛いカレシくん連れてるね」
 空いてるテーブルを探して、広場の奥まで行くと、舞先生がビールの入ったプラスチックカップを持ったまま声を掛けてきた。
「うわ、舞ちゃん。飲んでるの?」
「ちょっとだけだよ。今日は完全プライベートだし」
 そう返して少し残っていたビールを飲み干す舞先生。
 彼女の座っているテーブルを見ると、舞先生と同年代らしきお姉さんが2人と、お兄さんが2人。数が合わないけれど、デートだろうか。
「えー、舞ちゃん、どっちがカレシ~?」
 茶化すように笑って、お兄さん2人のほうに視線をやる。
 1人は眼鏡をかけた男前だった。服装も清潔感があって、非常に真面目そう。背丈はそれほどではなさそうだ。立ったら綾より低いのではないだろうか。
 もう1人は夜にも関わらずサングラスを掛けていた。白の縦襟シャツにダメージジーンズ姿。とても背が高く、よく見たら、他4人より年かさが上のようだった。
「……極端じゃない? 舞ちゃん」
 綾は2人を見て抱いた感想を素直に口にする。すると、舞先生の隣に座っていたお姉さんがくすりと笑った。
「極端だってよ、2人とも」
 そう言いながら、舞先生の空いたカップを取り上げる。ふんわりした空気の、舞先生とは系統の違う美人だった。
「くーちゃん、弱いんだからここまで。ドリンク貰ってきてあげる。何がいい?」
「もっと飲む……」
「だーめ。ウーロン茶でいいね? シュウちゃん、飲み物どうする?」
 眼鏡のお兄さんに視線を向けてその女性が尋ねるが、彼は穏やかに笑って首を横に振った。
「僕は大丈夫。必要になったら自分で行くから」
「そう。つきしろさんは?」
「お気になさらず」
「はぁい」
 奥に座っているクールそうなお姉さんにも声を掛けてから、ふんわり美人は姿勢よく立ち上がり、スタスタと歩いて行ってしまった。
「舞ちゃん、合コン?」
「んー? 同窓会みたいなもんだよー。なに、合コンってー」
 綾の言葉がおかしかったのか、舞先生はケラケラ笑った。完全に出来上がっているように見える。
「空いてるテーブル探してるなら、そこ空いてるよ。埋まる前で良かったね」
 眼鏡のお兄さんが気を利かせて口を開いた。指差した先を見ると、2つ奥のテーブルが空いていた。
「ありがとうございます。ひよりたちに連絡しなきゃ」
「なんだー、年下のカレシとデートじゃないのかー」
「弟だよ、見ればわかるでしょ」
 舞先生のわざとらしいボケに仕方なく真面目に返し、空いているテーブルまで歩いていき、買ってきた焼き鳥とトウモロコシの袋を置いた。
 グループチャットで『場所取れたよ』と送り、どのあたり、という表現に困って、少し考え込む。迎えに行ったほうが早そうだ。
「アサ、お留守番できる?」
「できる」
「見てる見てる」
 心配してくれたのか、すぐに舞先生が歩いてきて、麻樹の隣の椅子に腰かけた。
「酔っ払いが相手で申し訳ないけど、瀬能くん、一緒に待ってようか」
「せのうくんって。麻樹です」
「アサキくんね。オッケー」
 舞先生のノリが完全に待ち合わせ場所での谷川のノリと一緒だったので、綾はくすりと笑う。
「あたしのことは、ティーチャーくるまみちと呼びたまえ」
「お姉さん、くるまみちってお名前なの?」
「そう。苗字がね」
「変わってるー」
「よく言われる。学生の頃は”シャドー”って呼ばれてたよ」
「シャドー?」
「どっちでも好きに呼んでくれたまえ」
「舞ちゃん、どういうノリなの?」
「酔っぱらってるの。ごめんなさいね」
 後ろでそんな声がしたので振り返ると、先程のふんわり美人が立っていた。
「くーちゃん、ほら、ウーロン茶。酔い醒まして」
 舞先生の向かい側の席に腰を下ろして、ウーロン茶の入ったカップを差し出す。
「まだ酔っていたい」
「なーに、言ってるの。教え子の前で」
 舞先生の返しに苦笑を漏らすふんわり美人。こちらに目配せをしてニッコリ笑いかけてくる。
「見てるから行って来ていいよ」
「ありがとうございます」
 ペコリと頭を下げて、綾はひよりたちを迎えに広場の入口に向かった。

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 登校日の放課後、綾は久方ぶりに巴たちと寄り道をしながら帰った。
『びっくりしたじゃん、さっき。なにあれ?』
 昼間の巴の行動を諫めるように尋ねると、巴は明るい調子で笑った。
『本心だよー』
『や、だからさー、誤解されるから』
 あまりにあっけらかんとした返しに頭痛がしつつも続けるが、隣でコズエが苦笑した。あの場にはいなかった遠坂日花里(とおさかひかり)も穏やかに笑う。
『巴だもの。何言ったって意味ないでしょ』
『ほんと、キミたちは失礼だなー。私、谷川くんとは話してみたかったんだから仕方ないでしょー』
『なんで、そんなに話してみたかったの?』
 そういえば、あの時も一緒に作業するのがあの2人だと話したら、急に乗り気になったのだった。
『えー、だって、谷川くんって魔法使いじゃん』
『まほう、つかい?』
 言わんとしていることが分からずに首をかしげてみせると、巴は少し考えてから真面目な顔になった。
『”あの”椎名さんが谷川くんと一緒の時だけニコニコ笑ってるの見た時、そう思ったんだよねー』
 唇を人差し指で撫で、空を見上げる巴。
『あー、この人は女の子を綺麗にしてくれる魔法使いなんだーって』
『…………』
『服を変えたわけでもメイクを変えたわけでもないのに、彼が隣にいるだけで、椎名さんが可愛くなるの。ただでさえ可愛いのにさ。なんかー、すごいなぁって思っちゃって』
 巴が目をキラキラさせて語り、ほやーんと頬を緩ませた。
『そう思ったら、割と気になっちゃってさー。野暮ったい陸上バカだと思ってたのに』
『巴、それって』
 日花里がやんわり指摘しようとしたが、巴は意図を察したように人差し指を立て、白い歯を見せて笑った。
『残念だけど、これは恋ではないのです。純粋に、あの2人が好きなのよ』
『……ふーん』
 綾は複雑な感情を上手く処理できず、眉をひそめる。
『綾には分かんないかなー。綾は恋が分からないからなー』
『巴も似たようなもんな気がするけどねぇ』
 コズエがすかさずツッコミを入れ、風で乱れた前髪を直した。
『あの組み合わせ見てるのが好きー。自分は壁でいいのー。とか、一番不毛だと思うよ、あたしは。あたしにはわかんないな。あたしにはね』
『コズのいじわるー』
 コズエが目を閉じて、ハスキーな声で穏やかに言うと、その言葉で巴は唇を尖らせた。

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「なんともやりにくいね」
 細原が失笑混じりにぼそりと漏らし、ヨーグルト味だとかいうかき氷をシャクシャクとストローでかき回している。
 彼が言っているのは、2個先のテーブルに座っている副担任のことだろう。
 けれど、別にまだ遅い時間でもないから何か言われるようなこともないはずだ。何を気にしているのだろう。
 谷川がブル―ハワイのかき氷を口に含み、しばらくしてから口を開き、細原にシロップの色に染まった舌を見せる。
「青くなってっか?」
「小学生かよ」
 細原がすかさず突っ込むが、綾の隣の現役小学生も負けじと口を開けて、こちらに見せてきた。
「黄色くなってる?」
「なってるなってる」
 綾は笑顔で頷き、ストローに口をつけて、シロップを吸い込む。赤かった氷から徐々に色がなくなっていく。口いっぱいに人工甘味料の味が広がった。
「はー、夏だなー」
 のんびりそう呟くと、左隣でひよりが笑った。
「お祭りでかき氷なんて久しぶりに食べた」
「そうだねー。ってゆーか、ひよりとお祭り来たの、初めてじゃない?」
「……そうだね。中学の時はそんなにお話してなかったし。高校も綾ちゃんバスケで忙しかったから」
「自分ではよく言うけど、他人に言われるとバスケ馬鹿みたいに聞こえるなぁ」
「え、バスケ馬鹿じゃねーの?」
 あっけらかんとした声で谷川が会話に混ざってくる。
「この前だって」
「あー、はいはい。じゃ、バスケ馬鹿でいいよ」
 気分転換でシュート練習をしに運動公園に行くと、度々谷川に遭遇する。
 膝への負荷が少ないランニングコースを探しているのだと、この前話してくれたのだが、そのへんの話をわざわざする必要もない。ぴしゃりと黙らせて、練乳つきのかき氷を口に含んだ。
「お姉ちゃんはバスケがとっても上手いんだよ」
 かき氷を食べながら麻樹が満面笑顔で言った。
「1回だけ、おばあちゃんと見に行ったことあるけど、本当に上手いの。羽が生えてるみたいだった」
 麻樹がそんな話をすることがなかったので、少々照れくさくなって前髪を指先で直した。
「ぼくもクラブ活動できるようになったらバスケやるんだぁ」
「え、初耳なんだけど」
「はじめて言ったもん」
「そ、そうか」
 麻樹がしれっと話してくれる様が、8歳とは思えないほど、大人びた表情で、綾は少々たじろぐ。
「そしたら、お姉ちゃんが帰ってきた時にバスケの相手できるでしょ?」
「え? アタシ、どこにも行かないよ?」
「え、だって、大学に行くんでしょ? オーサカの。ちがうの?」
「……それは」
 当然のように言って小首をかしげてみせる麻樹。親との会話を聞いていたのだろうか。彼の前ではそんな話をしたことがなかった。
「県内だよ。家から通う」
「え……?」
 綾の回答に麻樹は頭いっぱいにクエスチョンマークが浮かんだのか、そのまま黙ってしまった。
 かき氷を食べながら、ゆらゆらと頭を揺らしていたが、納得できないように目を細め、またこちらを見上げてくる。けれど、上手く言葉が出てこないのか、見上げてくるだけだった。
「綾ちゃん、県内の大学にするの?」
 ひよりも意外だったのか、麻樹の代わりに尋ねてくる。
「家のこともあるしね」
 麻樹のことを気にしつつ、綾は静かにそう呟く。
 ひよりの心配げな視線を嫌って、カップに残ったかき氷を勢いよくかきこむと、氷の冷たさで、キーンと頭が痛くなった。

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第5レース 第6組 アイツの弱点


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