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青春小説「STAR LIGHT DASH!!」5-6

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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」

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第5レース 第5組 Unadjusted Compass

第5レース 第6組 アイツの弱点

「お化け屋敷あるの? 楽しそー! 拓海、なんで、教えてくれないのよー」
 ウーロン茶をしこたま飲まされたのか、先程会った時に放っていた酔っ払いオーラはすっかり引っ込んだ様子の舞先生。隣のテーブルが空いたのをいいことに、ちゃっかり移動して、教え子たちの会話に混ざってきた。
 この屈託のなさ。友達のような気安さこそ、舞先生が新任にして、生徒たちに慕われる要因だった。
「なんでって言われても、わたし、棚川和のお祭りなんて興味なかったし」
 マイペースに日本酒を飲みながら、やれやれとため息を吐くクール美人こと月代拓海。
「確か、棚川和は心霊スポットっぽい噂が割とあるところなのよね」
「ぃ?!」
「えー、そういう話は、やめよーよ、拓海ぃ」
 余計な一言を継ぎ足して、たこ焼きを摘まむ月代。纏っているオーラがエレガントだからか、B級グルメとのギャップが凄まじい。
 誰かが小声でおかしな声を出したのが聞こえたが、舞先生が月代の言葉に過剰に反応したので、その声の主を追究するには至らなかった。
「くーちゃん、リアルお化けは駄目だもんねー」
 ふんわり美人こと遠野清香(とおのさやか)がそう言って笑うと、舞先生は慌てた様子で、口元に人差し指を当てた。
「ちょっと! 人のウィークポイントを教え子の前で笑いながら話すな!」
「ハハッ、シャドー相変わらずダメなの?」
「こら、ニノまで。そもそも、怪異が平気な人なんているわけ?」
 真面目そうな眼鏡のお兄さんは二ノ宮修吾(にのみやしゅうご)、サングラスをかけたお兄さんは二ノ宮賢吾(にのみやけんご)と紹介を受けた。なんと、こんな極端な風貌なのに、兄弟だそうだ。舞先生のことを笑ったのは弟の修吾だった。
「そういう言われ方すると、まぁ、変なことが起こるのは嫌だよね」
 大真面目に考えて、ぼんやりと返答する彼に、遠野が笑う。
「さやかだって、お化け屋敷は嫌がるじゃん」
「そりゃー、作為的に驚かされるのは嫌じゃない……?」
「ん-む」
 面白がっている遠野を見て、困り顔になる舞先生。
 買ってきたものも大体食べ終わって、ゴミをまとめ終えたので、そろそろ行こうか、と綾が声を掛けようとしたところで、麻樹がもじもじしながら、綾の浴衣の袖を摘まんだ。
「お姉ちゃん、ぼく、怖いから入るのやだな」
 なんとなく、そんな気はしていた。
「あー、そっか。じゃ、やめ……」
「お化け屋敷行ってる間、見てようか?」
 すかさず口を開いたのはまたもや修吾だった。
「え、でも」
「僕たち、車だからお酒も飲んでないし、大丈夫だよ。な? 兄貴」
「疲れてるから歩き回りたくねーし、しばらくここにいる予定だしな」
 初めて賢吾が口を開いた。低音のいい声だった。
「とはいえ、初めて会ったおじさん2人と一緒にいようって無茶な話かな」
「私もお化け屋敷は乗り気じゃないなぁ」
 便乗するように遠野が言い、麻樹に視線を寄越す。
「アサくん、お姉さんたちとしばらく一緒にいる? 縁日でも見てようか?」
 先程面倒を見てくれた時にあっさり馴染んだのか、笑顔でそう言い、小首をかしげる。麻樹は綾の様子を窺うように、上目遣いでこちらを見た後、にぃっと笑った。
「うんっ。あのねー、射的やりたくて」
「そっか」
「スーパーボールすくいはみんなでやるから、戻ってきたら行こうねっ」
 明るく振る舞い、隣のテーブルの空いている席に軽やかなステップで歩いていき、腰かける。
「あれー。もしかして、あたしだけ……? ねぇ、拓海は行くよね?」
「なんで、わたしが」
「行くよね?」
 舞先生が哀願するような声で月代を見る。ここからでは舞先生がどんな表情で、月代を見ているかは分からないが、その表情に根負けしたようにふーとため息を吐いた。
「わかったわかった。いつも付き合わせてるから付き合います」
「月代も人の子だったか」
「どういう意味?」
 賢吾がボソッとからかうように呟くと、月代はひくついた笑顔で彼を見た。

:::::::::::::::::::

「谷川、先頭行ける?」
「ぇっ?!」
 お化け屋敷の列に並んでから、どうグループ分けするか考えながら、谷川に話を振ると、蛙が潰された時のような声が返ってきた。パクパクと口だけ動かし、見るからに狼狽えている。どうしたのだろうか。
「……先頭行ける? って言ったんだけど」
「え、あ、うん……?」
 視線を泳がせて、どうにも煮え切らない返答。綾は不思議に思ったが、ひとまず、どういう組み合わせで入るか考えてからだと切り替えて、舞先生に視線をやった。
「舞ちゃんは、月代さんと入るの?」
「どっちでもー」
「ちょっと。哀願して巻き込んでおいて、どういう返しよ、それ」
「だってー。このフレッシュな4人の中に、1人はつらいし、その上1人で入ることになったら余計拷問だなーって」
「10代のフレッシュさの中に放り込まれるのは、2人でもつらいわよ」
 舞先生の茶目っ気たっぷりの言葉に、月代が頭を抱えてため息を吐いた。
「拓海は弱点とかないのー? 実はお化けダメとかさー」
「ついてきてる時点でその線はないでしょ」
「……能面だもんな―」
「んん?」
 舞先生の表現にはさすがにイラッとしたのか、月代がニッコリ笑って舞先生を見つめる。
「なんでもないでーす。6人で入ってもいいけど、スリルが足りないなー」
「スリルが欲しいなら1人で行ってきなさいよ」
「それはつまんないでしょー。誰かのリアクションがないとさー」
 コントのようだなと考えていると、ひよりが隣で笑った。
「どうしたの?」
「こういうの初めて」
「え?」
「子どもの頃、両親とお祭り来たことはあるけど、お化け屋敷に友達と入るとか初めて」
 本当に嬉しそうに目を細めているので、嬉しくなって綾も笑った。
 カメラのフラッシュが走ってパシャリと音がしたので、そちらを見ると、細原が得意げに笑っていた。
「いい顔してた」
「もう。結局、細原ばっかり撮ってるじゃん」
「だって、おれのカメラだし」
 にこちゃん笑顔で、舞先生と月代にもカメラを向けて撮った後、谷川にカメラを向ける。
「しゅんぺー、生きてるかー?」
「生きてるに決まってんだろ」
 ぶすくれた声でそう返して、細原を見た瞬間フラッシュが走る。
 どうにも谷川の様子がおかしい気がする。思い返してみると、お化け屋敷の話になってから異様に口数が少なくなった。
「おれからひとつ提案。グッパーで2チームに分かれない?」
「えー、楽しそう。先生も混ざっていい?」
「ちょっと、舞」
「だって、拓海、絶対ノーリアクションだし。つまんないじゃん」
「巻き込んでおいて、それを言うの?」
「普段拓海のほうがむちゃくちゃなんだからこのくらいいいでしょ」
 あまりの理不尽なやり取りに、綾とひよりは笑いを堪えられなかった。

:::::::::::::::::::

「谷川、ひよりのことちゃんと守ってよね」
 グッパーの結果、ひより・谷川・月代、綾・細原・舞先生のチーム分けとなり、すぐに綾はそう言った。
 ひよりも、谷川と2人は無理だと言っていたし、大人組がくっついてきてくれて、これはこれでよかったのかもしれない。
「谷川くん、よろしくお願いします」
「ぇ、あ、うん」
「谷川くん、お姉さんのことも守ってね」
 2人のやり取りを微笑ましく見守っていた月代がからかい口調でそう言い、口元に人差し指をそっと当てて笑った。
「が、頑張ります」
 困ったように髪を触り、落ち着かなげに体を揺らす谷川。
「あいつ、大丈夫かよ」
 細原がボソリと呟いたのが聞こえた。
「なんだー、結局、リアクションつまんなさそうチームになっちゃったなー」
「舞ちゃんは何を期待してるの-?」
「そりゃー、一緒に入った人の怯えた様子に決まってるじゃーん。服の裾なんか握っちゃって芽生えるひと夏の恋。これぞ青春」
「この面子に何を期待してたんですか」
 細原が苦笑し、やれやれと言いたげに目を閉じた。
「えー、そういうの、キミたち、ない感じ? 綾と和斗なんてお似合いじゃない?」
「は?」
 あまりにも意外な言葉に、細原が驚いて不服そうに声を上げる。綾は特に気にも留めずに笑った。
「舞ちゃんさー、男女がセットでいるとそういう風に見ちゃうの、良くないよー」
「別に、男女とは限らないけど。ただ、2人は絵になるよって話をしただけだよ」
「アタシはそういうジョーク好きじゃないんだよなー」
「ありゃ、それはごめんね」
 いつも何の気なしに話をしているだけなのに、好意を持たれて告白されることが中学時代よくあった。
 気持ちは嬉しいのだが断ってしまうと、それから先はギクシャクして上手く友人関係が続かない。せっかく仲良くなったのにな、といつも寂しい気持ちを抱えながら告白を断ってきたので、最終的に男子のことは少し苦手だ。特に、周りが関わってくると一気に拗れる。小学生の頃は気楽でよかった。
「周りのそういう言葉で話がしにくくなるってこともありますし、おれも、あんまり言ってほしくないですねー」
 細原がクールな声でそう言って笑い、すぐに谷川のほうを向いた。
「おい、しゅんぺー、お前、先に行けよ」
「は? お前、絶対面白がってんだろ」
「さっさと入って終わらせたほうが傷は浅いだろ」
「ぐぬぬ」
「ほら、そろそろ順番」
 楽しそうに笑い、ポンと谷川の背中を押す細原。納得できないように唇を尖らせてこちらを睨んだ後、観念したように谷川が入口に歩いていく。それを追いかけて、ひよりと月代が続き、係員に案内されて中に入っていった。それを見送ってから細原に尋ねようと口を開く。
「ねぇ、谷川って……」
「アイツ、全般駄目だから」
「え?」
「こういうの全般」
 細原は苦笑交じりに言うと、心配そうにお化け屋敷の看板を見上げる。
 なんとなく、思い返してみると、麻樹がお化け屋敷を嫌だと言った時、谷川の表情が安堵に染まっていた気がする。先程から様子がおかしかったのもそのせいか。そう納得した瞬間――。
「ぎゃああああああああっ! ムリ! ムリムリムリムリッ!!!」
 中のお化けもビビるのではないかと思われるほどの声量で、谷川の悲鳴がその場に響き渡った。

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第5レース 第7組 いつか変わるのかもしれない気持ち


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