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五分後の世界

パラレル・ワールド側でも、我々が今生きているこの世界の存在を予測して逆にパラレル・ワールドが実在するのか研究しているとしたら。

珍しく私が3〜4回読みした小説。
初めて読んだ村上龍だ。

主人公が朦朧と、ただ行列の中を歩きつづけるところからシーンは始まる。
それは脈絡なくパラレル・ワールドに放り込まれた主人公が、そのことに何の自覚もなく、周りからも彼が突然そこに現れたことが次第に明かされる。
そして最初の章のラストでは、彼の腕の時計だけが5分遅れていることを示唆するのだ。

平成の間に膨大な数が生み出された異世界転生作品がある。大概いずれも説明がましいプロセス描写があるものだ。
ところが本作は村上龍の面目躍如、その辺りをクールに匂わせ、また神経を逆なですらしながら、突然世界に放り込まれて戸惑う主人公と、読者の感覚を同調させているように感じる。

さてこの五分後の世界。
対米戦の真っ最中に、陸海軍の優秀な将校たちが本土に帰ってきていた。松代に建設された地下大本営を起点にして、昭和20年を過ぎてもトンネル都市は延伸し続けている。
国土は我々の知る歴史より多くの原爆で都市を失い、ソビエト、中国などに占領される。そして虐殺による人口激減を、まさにしのびながら抵抗をつづけてきた。
こうしてアンダーグラウンド日本は、戦いながら産業、文化、経済を発展させていった。

物語の最後に主人公は、この世界で生き抜くことを決意し、自ら時計の針を5分進める。

私の読書としては大変珍しく、端から飛ばさず読み進めて、ペースも早かった。
最初の一冊は、職場の先輩から勧められて借りた文庫。二回目は図書館にあったので、借りてきて再読破。さらに数年後、書店で購入してあっという間に読破してしまっていた。

そして今日もまた、この原稿のために少し要点を読もうと思っていたのだが、ついつい端から最後まで読んでしまいそうになった。
ひょっとしたら戦国自衛隊よりも、私には興味が尽きないのかもしれない。

あの語り口に誘われ、ビジュアル感覚たっぷりなのにサラリとした描写に引き込まれる。
間違いなく村上龍は計画犯だ。


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