『子どもへの性加害』 ”風”は吹いているのか
占い好きには有名な「風の時代」
70歳にして推し活に目覚めた実母にとって、”風”といえば、「藤井風」らしいのですが、少し前には「風の時代」という言葉をよく耳にしました。
風の時代とは、「西洋占星術の世界で200年に1度訪れる時代」で「2020年12月22日の”グレート・コンジャンクション”以降に突入し、2023年には完全にシフトしたと言われている」という説明が一般的にされています。そこでは「個人の自由と権利・平等性」を強く求められ、長らく当たり前とされてきた世間の常識、性別や年齢によるステレオタイプが崩れ始めるのだとか。(ざっくり)
「風」で晒された旧ジャニーズや旧統一教会
スピリチャルな話になりました。
「風の時代だからなのか」という因果関係の立証はさておき、ここ数年、これまで強固な権力に守られてきた組織に強風が吹きつけ、不都合な事実を覆うベールが引き剥がされ、これまで「なかったこと」にされてきた事実が白日のもとに晒される……そんな事態が相次いでいるのは紛れもない事実です。
#metooに始まる一連のセクシャルハラスメントや自衛隊での性暴力、旧統一教会の宗教二世問題や歌舞伎界や宝塚歌劇団でのパワハラ・イジメ、そして2023年、もっとも世間の注目を集めたのがジャニーズ事務所(現スマイルアップ)の性加害問題です。
最近ではジャニーズ事務所、歌舞伎、宝塚歌劇団のアルファベットの頭文字をとって「JKT問題」とも呼ばれているそう。
熱心なファンであっても、そうでなくても一連の報道に触れるたび「なにか言わなくてはいられない」というモヤモヤやソワソワを抱いた人も多く、かくいう私もその一人だったはずです。
これまで理不尽な境遇にいることを強いられてきた人にとって、こういった時代の流れは追風となり、反対に理不尽さを押し付けてきた側にとっては向かい風にもなる。これまでありえなかった人権の下剋上は、不謹慎な言い方をすればカタルシスめいたものすら感じます。
告発する当事者への”申し訳なさ”
しかし、だからといって権力者が引きずり降ろされるようなカタルシスだけを求めればいいわけではなく、ゆり戻し、いわゆる”バックラッシュ”としての誹謗中傷がますます過激になっています。先日、誹謗中傷を苦に自死した被害当事者のニュースはとても残念で、悲しい気持ちでいっぱいになりました。
それほどまでに心身をすり減らし、人柱になりながらも被害を訴え続けるまだ若い当事者の姿を目にすると、「こんなにも若い世代に負担をかけていいのだろうか」というある種の申し訳なさが心の内に生じてきました。
次々と流れてくるニュースを前に「自分にもできることはないか」という漠然とした思いも募ってくるのは、私だけではないはずです。
これはなにかの念……? 著者からのメール
そんな折に、ソーシャルワーカーの斉藤章佳先生から子どもへの性加害や性的グルーミングについての企画提案をいただいました。
先ほどの”申し訳なさ”や、なにか自分にもできないかという思いともに「やりましょう!」とすぐさま返信をした私に、斉藤先生は「通勤電車の中でふっと何かが降りてきました」「ハイヤーパワーですね(笑)」のことかな、とふと思いました。
はい、出た。またまたスピリチャルな感じですね。
依存症からの回復プログラムである「12ステップ・プログラム」の中では、自分自身の力を超えた大きな力のことを「ハイヤーパワー」と呼びます。自分の意志や努力ではどうにもできない不可抗力や自分の無力さを認めた上で、謙虚さを身に着けながら回復に臨む……という哲学です。
依存症の治療の専門医として、斉藤先生はこの言葉を使ったのだと思います。
依存症の回復に限らず、書籍や雑誌の企画も、努力だけでどうにかできるものだけではありません。
人と人とのつながりだったり、タイミング、トレンド……そういったものがピタッと当てはまると、スイスイと事が運ぶのも珍しくないように感じます。逆にどんなに頑張っても、さまざまな事情で企画が頓挫する……なんてこともあります。
突き動かされるようにつくった『子どもへの性加害』
これを偶然とか、大きな力とか、運とか、不可抗力とか、用いる言葉は人それぞれですが、この「ふっと何かが降りてきた」という”風”のようなものを感じながら、突き動かされるようにつくったのがこの『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎)』です。
顔見知りやSNS上にいる〝普通の大人″が子どもと信頼関係を築き、支配的な立場を利用して性的な接触をする性的グルーミング(性的懐柔)に焦点を当て、子どもへの性加害をいかに防ぐかについて提言しています。
▼この本にはこんな話が書かれています
「かわいいね」から始まる性的グルーミングの実態
●子どもの4人に1人が性被害にあっている
●実は危ない日本のトイレ
●加害の動機は性欲ではない
●決まり文句は「ふたりだけの秘密だよ」
●意に反して加害を繰り返してしまう「小児性愛障害」
●児童ポルノに触発されて加害する人もいる
●「警戒心が薄い」「声を上げにくい」から男児を狙う
●元被害者が加害者になる負の連鎖
●子どもの容姿と被害のあいやすさは関係ない
●自分の子どもから性被害を打ち明けられたら
●加害経験者は「ジャニーズ性加害問題」をどう見るか ……ほか
小児性犯罪の被害者を生まないためには加害者を生まないこと、そのためには加害者を知ること、加害の実態を知ることーーこれが本書の一貫した主張です。
本書では、過去に小児性犯罪を犯した男性へのインタビューも収録、加害者が自らの過ちを語ることは過去にはあまり類を見なかったのではないでしょうか。
出版不況が吹き荒れる昨今ですが、どうぞこの大きな”風”に乗って、一人でも多くの方の手元に本書が届けば、作り手としても本望です。