kintoneで絵本の貸出をはじめた話
2394冊の書籍
保育園には沢山の本がある。
絵本はもちろん、大人向けの書籍も沢山ある。
本を本棚に収納した様子は圧巻であるが、そもそも、これらを管理するところに難点があった。
「紙」の貸出管理、それは終わりなき地獄
大量の本を、蔵書管理することも大変である。
さらにこれらを、保護者や子育て支援センター利用者(以下、「利用者」とする)向けに貸し出さなければならない。
書籍の貸出管理の方法は、積年の悩みであった。
10年前、私が保育園に入職した頃、書籍の貸出し管理は、「紙」であった。
本の貸出・返却の流れ「紙」編
①借りる人は、本棚の中から借りたい本を見つける。
②借りる人は、図書貸出表に園児名(利用者名)、書籍番号やを図書名を手書きで記入する。
③借りた人は、返却ボックスに本を返却する。
④園は、返却された本の書籍番号と書籍タイトルを、図書貸出し表から照合する。
⑤貸出表に書かれた本と返却された本が一致したら、貸出しチェック✔をして終了。
④の照合作業は、ひたすら「目視」である。
数十ページにも渡る貸出し記録ファイル冊子から、目当ての返却本を探し出すのである。
年度初めの4月の頃は良い。
貸出し記録も数枚程度であるから、照合作業も特に苦労はない。
10月頃の年度の折り返し頃になると、貸出し受付の記録も冊子が複数に渡り、これらを1ページずつ開いては、返却されていないかを確認するのである。
ちなみに、「紙」で管理していた頃は、貸出しは週に1回であった。
毎週1回の貸出し日に、沢山の保護者・利用者がこぞって絵本や書籍を借りるのである。
毎回、40冊程度の貸出しがあり、貸出可能日は月に4回程度、ざっと計算して月160冊程度の貸出しがあった。
そして、毎日、10冊以上の返却があった。
これらの貸出し返却の手続きを「目視」で行うには、複数冊にまたがる貸出受付表を1ページにらめっこしていくという、途方もない作業であった。
毎日、2時間以上も、貸出・返却作業に費やしていたのである。
そう——
「紙」の貸出管理、それは終わりなき地獄なのであった。
図書の貸出し管理の業務改善が急務であった。
EXCEL図書管理を始める
2012年から2015年の3年間、地獄の「紙」管理を経験した私がまず着手したのは、フリーソフトでの図書管理であった。
フリーソフトで図書管理をする。必ずできる。
私には根拠不明の揺るぎない確信があった。
ソフトライブラリのベクターで色々と捜し回る中、ついに、出会ったのが、図書管理をするエクセルVBAサンプルを公開しているサイトであった。
エクセルVBAで、貸出・返却・予約の機能、会員管理、貸出分析、未返却リスト等などと、ありとあらゆる図書管理ができるのである。
エクセルVBA図書管理!
アナタは、なんて素晴らしいの、天才的だわ!!
何度でも叫びたかった。
エクセルVBAによる図書管理は、「紙」地獄の困難を、いとも易々と乗り越えてくれたのである。
本当に素晴らしいエクセルVBAであった。
本の貸出・返却の流れ「エクセルVBA」編
・・・準備・・・
〔書籍管理シート〕書籍番号・書籍名を登録。
〔会員登録シート〕園児名・利用者名を登録。
〔貸出〕手書きの貸出受付表を参照しながら、借りた人の名前を会員登録シートから呼出し、書籍番号を書籍管理シートから呼出し。貸出し登録。
〔返却〕返却本の書籍番号を打ち込むと、未返却本の番号と突合され、返却処理される。
「紙」管理の呪縛。
貸出し記録の分厚い紙ファイルの中から、返却本を目視で参照する作業から、ついに解放されたのである。
使い方の悪さから、エラー頻出
使い続ける中で、いくつかの不都合が出て来た。
まず、私自身のエクセルの使い方の粗さから、ひたすらデバッグが出てくるようになってきたのである。
VBA知識皆無の私には、頻出するエラーを解消する術は、何一つ無かった。
やがて強引に使い続けて、マクロを壊してしまい、ついに開けなくなってしまったのである。
「開け、ゴマ!」
なぜゴマで開けるのかは分からないが、とにかく、祈るようにクリックしても、無慈悲なマクロは開いてもくれなかった。
完全にご臨終であった。
図書ラベルなど複数ファイル問題
図書管理はエクセルVBAを使っては壊し、使っては壊しを繰り返しながら、何とか、やり抜いていた。
問題は新しい書籍が入ってきた時である。
この素晴らしいエクセルには、「図書の一括登録」という、素晴らしい機能が付いていた。
ISBNを打ち込むと国会図書館から書籍のタイトルや著者名などのデータを引っ張ってくるのである。
天才的マクロ。
この機能を駆使して、取得した書籍名に、連番の図書番号に割り振る。
別のファイルで図書ラベルを作成する。
こうして、図書エクセルと、絵本ラベル、それぞれを別々のエクセルで管理していたため、やがて、書籍番号に不一致が見られるようになってきた。
「複数ファイル」問題である。
複数ファイル乱立によって、図書管理は徐々に手に負えなくなってきた。
紙芝居・大型絵本の管理
紙芝居183冊、大型絵本17冊がある。
当然、これらもリスト化して管理したい。
結局、エクセル管理となり、やがてファイルはどんどん増えていく。
紙芝居や大型絵本の表紙を写真でデータにしたが、写真ファイル名に書籍タイトルをつける以上の管理方法は思いつかなかった。
園児名・利用者の姓変更問題
図書を借りる人は、自分の名前《姓名》を記入する。
ここで生じてくるのが、姓の変更問題である。
会員登録シートに記録した、園児名や利用者名の姓の変更は、これらに対応していなかった。
手書きで書かれた名前では、エクセルVBAとは一致しないため、会員登録の姓を変更する。
この作業がすこぶる面倒であった。
「せめて園児名簿と紐づいていたら・・・」
そんな淡い希望も、どうやって解決するのか、途方もない課題であった。
私には解決する方策さえ知らなかった。
不便さに、耐えて、耐えて、耐えしのぐ日々。
気付けば、エクセルVBA図書管理と出会って5年の歳月が過ぎていた。
kintoneとの出会い
2020年、新型コロナの始まった年にkintoneに出会った。
kintoneを使い始めた最初の段階で、私の脳裏には「kintoneで図書管理をしたい」という熱烈な野望があった。
しかし、そんな野望とは裏腹に、kintoneで管理すべき、園児名簿や保護者名簿、保護者入金台帳、延長保育管理など、優先的に処理すべき事項が山積みであった。
kintoneで図書管理をしたい、という思いはあれど、後回しになっていた。
頃は新型コロナ真っ最中。
共有して使用する物は、軒並み消毒の対象となっていた。
絵本こそ、子どもたちみんなでシェアする共有物である。
その絵本を、新型コロナの影響で消毒しなければならなかった。
絵本にアルコールを吹きかけるわけにはいかず、結局、感染対策として、「絵本は貸出し不可」「持ち出し禁止」というルールを敷くことにより、感染対策をしようとした。
5月、沖縄県は凄まじい感染拡大の真っただ中に突入した。
保育園でも園児・職員に多数、感染拡大した。
到底、図書を貸出できるような状況にはなかった。
kintone図書管理はさらに後回しになっていった。
絵本貸出し待望論
保護者から「絵本はいつから貸出し始まるんですか?」
何度も声が掛かった。
その度に私は申し訳なく言葉を濁していた。
忙しさから、kintoneでの貸出管理に着手できていなかったこと、貸出し返却の流れ(作業手順)に見通しが持てていなかったのである。
そんな折だった。
夕刻、絵本棚の前で、泣きじゃくる園児、そのそばで途方に暮れる保護者。
「どうしましたか?」
私がたずねると、保護者は困った表情で、
「絵本を借りたいって言って、聞かなくて」
私は、多忙を言い訳に、図書の貸出し対応を後回しにしていたことに後悔した。
保護者に「早めに絵本を貸出できるようにします」と約束した。
やるしかない。奮起した。
kintone図書管理に着手
エクセルVBA図書管理の図書リストを、別のエクセルに貼り付けて、ひたすらデータを整理する。
整理が終わったら、エクセルをkintoneアプリにインポートするのだが、kintoneの読み込み上限は1000件であった。
2394冊の書籍、数回に分けて読み込みした。
(CSVにすれば一回で読み込めたのに)
こうして、図書データベースの土台が完成したのである。
図書データベース
図書は、内容に応じてラベルの色ごとに管理している。
今回、書式設定プラグインでのお陰で、色ラベルが一目瞭然となった。
図書のレコード詳細画面
図書データベースには、図書に関するキーワードも登録できるようにした。
四季折々の本、友だちの本、行事の本、キーワードで管理できるようになり、保護者や保育者向けに本の紹介もできるようになった。
ラベル別の冊数をグラフ化
ラベル色ごとに集計すると、何冊になるのか、グラフで表示してみた。
オレンジラベルが青、黄色ラベルが赤で表示されるなど、グラフの色とラベルの色が一つも一致していない。
脳がバグりそうな、訳の分からないグラフとなってしまった。
こりゃ失敬…
書籍、絵本、紙芝居、大型絵本。合計2394冊。
色分類の内容としては、
オレンジ・・・大人用の書籍
ピンク・・・0-1歳用絵本
黄色・・・1-2歳用絵本
青・・・3-4歳用絵本
赤・・・4-5歳用絵本
みどり・・・図鑑
うすみどり・・・児童書
グレー・・・貸出し不可(仕掛け絵本など、取り扱いが難しいもの)
なし・・・紙芝居、大型絵本
全てが可視化され、非常に見やすく、管理しやすい。
利用者マスタ
これまでkintoneの全てを統括管理していた私であったが、属人主義の脱却を目指し、kintoneの担当を他の先生方と共有することにした。
そもそも、kintoneは、グループウェアである。
仲間とシェアしてナンボである。
さて、ここいらでようやく図書担当の先生に権限を委譲することとなったのであったが、厄介な問題が生じた。
アクセス権の問題である。
園児名簿と図書管理は、それぞれ別の非公開スペースに所属していたため、図書管理アプリのルックアップで園児名簿を参照できなかった。
また、園児だけでなく、支援センター利用者、さらには職員も図書の貸出し利用者の対象である。
そうなると、図書名簿のルックアップで読み出すために、園児名簿だけでなく、職員名簿、支援センター利用者名簿まで公開スペースに出さないといけなくなる。
フィールドごとにアクセス権を設定するには、準備期間が無さ過ぎた。
色々と考えた結果、園児名簿、支援センター利用者名簿、職員名簿、それぞれのアプリから名前とNO(ナンバー)を書き出しして、図書の利用者マスタにインポートした。
これにより、図書利用者マスタには、必要最小限の情報が載ることとなった。
また、園児NO(ナンバー)をもとに、一括更新をかける方法を、オフィスシステムプロダクトさんにお願いした。
園児の姓名の変更、園児の入園・退園に対応する。
パートナー企業がいることは心強い。
さて、準備は整った。
いざ、図書の貸出し開始である。
貸出手続
ついに図書の貸出しが始まった。
毎日、園児・利用者、それぞれ2冊ずつ借りることができる。
図書の貸出し受付は手書きである。
ちなみに現在、オンライン貸出受付も準備中である。
方法としては、貸出し受付表に書かれた園児名・利用者名を、利用者マスタからルックアップで呼出し、書籍番号とタイトルを、図書データベースからルックアップで呼出し。
1人で2冊借りられるので、一旦レコードを登録してから、「レコードの再利用」で2冊目の書籍番号を登録すれば、手間も省ける。
エクセルVBA図書管理では出来なかった「レコードの再利用」機能は、1人で複数冊借りる際の貸出方法として、非常に便利である。
返却手続
さて、朝になると、事務室横の図書の返却ボックスには、山のように本が積まれている。
返却本である。
これらの返却手続をしなければならない。
返却手続も非常に簡単になった。
貸出し登録の段階で、未返却チェックを入れて保存しておく。
そして、未返却チェックのついたレコードを一覧で絞り込んおく。
本が返却されたら、未返却一覧から、返却された本の書籍番号を検索して表示、レコードの編集から、未返却のチェックを外して、今日の日付を記録して保存すれば、未返却から消えるのである。
図書担当とコメント共有
kintone図書管理は、方法がとても簡単なため、図書管理の担当の先生も、やり方を教えると、すぐにマスターできた。
貸出アプリに登録する際に、保護者の書いた書籍番号と、図書データベースの番号が相違しているなど、疑義がある場合には、貸出アプリの疑義レコードに、図書担当の先生を宛先にして、コメントをする。
また、書籍が汚れていたり、修復不能なくらい破れていた場合には、図書データベースの該当書籍のレコードに図書担当向けにコメントをつける。
図書担当はコメント通知を確認して、対応する。
対応の抜け漏れがなくなり、情報共有ができ、図書管理がとてもやりやすくなった。
これには図書担当の先生も、kintoneの素晴らしさを絶賛。
こうして、ついに、kintoneは、私一人の手から、他の先生の手へと、共有される存在となったのである。
祝! 初・共有!
(ハイ、拍手!)
関連レコードで貸出履歴の管理
利用者マスタの詳細画面である。
図書貸出しアプリを関連レコードで呼び出せば、貸出し履歴の管理も出来る。
未返却本が増えてきたら、関連レコードをレポトンで表示して、未返却の通知発行もできる。
ちなみに、図書ラベルもレポトンで出力することができるようになったため、これまで図書に関して複数エクセルで管理していたのが、何もかも全てkintoneで一括管理することができるようになった。
めでたし、めでたし。
貸出開始から2週間が過ぎて
さて、9月27日から図書の貸出しを開始して、今日でちょうど2週間である。
既に200冊以上の書籍・絵本が借りられている。
そうなると、1週間100冊ペースであるから、1年52週と考えると、1年で5200冊は届きそうである。
どんなに貸出冊数が増えても、kintoneで管理する限り、その貸出返却は、簡単・便利・スピーディーである。
kintoneで図書管理——
これ以上ない、「鬼に金棒」である。
編集後記
最後までお読み下さり、ありがとうございました。
地獄の「紙」管理から、ファイル散逸&エラー続出のエクセルVBA図書管理、簡単便利なkintone管理へと至る道筋は、決して平坦ではありませんでした。
子どもたちにとって、絵本は財産。
絵本が、いつでも触れることのできる存在となるように。
いつでも借りて、自宅で、読み聞かせできる珠玉の一冊となるように。
その一助を、kintone管理によって担えることは、この上ない光栄です。
1人でも多くの保育園や児童福祉関係者に、kintoneの素晴らしさ・便利さが伝わりますように。
そう願わずにはいられません。
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